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「つつごうでおま!」――筒香嘉智と笑福亭鶴光の共通点(2018年1月記)

過去の原稿アーカイブも、この場で再度、世に問いたいと思います。今や無くなってしまった某ウェブ媒体で連載していた「スージー鈴木の『球・人・録』」の第14回。少年野球の未来に対して鋭いコメントを発した筒香嘉智と、「つるこうでおま!」で名高い落語家・笑福亭鶴光との、名前の響き以外の共通点を考察します。

■筒香嘉智が指摘した、少年野球人口の減少要因

1月14日、大阪府堺市で少年野球チーム「Team Agresivo(アグレシーボ)」の体験会が開かれ、そこに、同チームのスーパーバイザーであるベイスターズ・筒香嘉智も参加し、イベント終了後に、素晴らしい、そして、凄まじいとまで言えるコメントを発表した。

テーマは、野球人口の減少について。あまりにも素晴らしいので、少し長めに引用させていただく。コメント全体をお読みになりたい場合は、出典である「DeNA筒香『球界の変わらない体質』にモノ申す」(東洋経済オンライン)という広尾晃さんの記事をご覧いただきたい。

まず筒香は、コメントの冒頭で問題を提起する。

――野球人口が凄く減っていると言われます。原因はいろいろ挙げられています。少子化も原因だと言われていますが、それよりも速いスピードで野球人口が減っているのが現状です。

続けて、少年野球人口の減少につながっている問題点を、論理的に次々と挙げていく。

――今の少年野球を見ると、『楽しいはずの野球なのに、子供たちは楽しそうに野球をやっていない』と思うことがすごく多いです。

――本来なら、いいプレーをしよう、もっと遠くまでボールを飛ばそうと思って野球をしないといけないのに、ここで打たなかったら怒られる、エラーしたら怒られると思いながら野球をやっているように思います。

――『勝ちたい』となれば、どうしても練習が長くなります。まだ子供なのに、朝早くから夕方過ぎまで練習をしている光景をよく見かけます。これも問題です。

――体ができているプロ野球選手たちでさえリーグ戦を行っているのに、骨格もしっかりしていない子供たちが、トーナメントで『この試合に負けたら終わり』という試合をしていることも問題です。

――試合に出ている子供たちは何試合も続くので、体の負担が多くなります。一方で、出ていない子供たちは面白くない。せっかく野球を始めたのに、いろんな経験を積むことができないという弊害があります。

そして最後に、結論として「プレーヤー・ファースト」=「子供たちのことを考えることが大事」という姿勢を表明する。

――野球の競技人口の減少が今、問題になっていますが、単に競技人口を増やすだけでなく、本当に子供たちのことを考えることが大事ではないかと思っています。

この素晴らしいコメントを見て、音楽評論家としても活動している私は、子供たちに対するピアノ教育のことを想起したのだ。

与えられた楽譜に書かれたメロディを、ひたすら正確に再現するマシンとしての教育。ピアノ嫌い・音楽嫌いを量産しているようなものだと思う(音楽の快感は、メロディの再現よりも、まずはリズム、次にハーモニーだと、私は考えている)。

「子供たちにとって野球は、まず楽しくなくっちゃあ」――当たり前のことだ。当たり前だけれど、当たり前になっていないことだ。筒香はそこを突いている。野球界はそこを突かれている。

■筒香と鶴光をつなぐ「まずは楽しくなくっちゃあ」精神

さて、筒香(つつごう)の次は笑福亭鶴光(つるこう。正式には「つるこ」)である。落語家にして、現在51歳(註:2018年当時)である私の、少年時代のラジオスター。昭和50年代に、ニッポン放送『オールナイトニッポン』や、大阪MBS『ヤングタウン』などで、一時代を築き、現在も落語家として活躍している。

そんな鶴光の自伝、その名も『つるこうでおま!』(白夜書房)という本のエンディングに、自らの座右の銘になっている、師匠・6代目笑福亭松鶴の教えを引用している。

――「落語みたいなのはな、とりあえず最初は大きな声でしゃべってまず笑わすことや」

落語好きがこよなく愛する落語の定義と言えば、立川談志の「落語とは人間の業の肯定である」にトドメをさす。読めば読むほど、味わい深く、多様な解釈が引き受ける奥行きもある名言。

だが、噛み締めているうちに「とは言え、たかが落語じゃないか」という考えも、頭をもたげてくる。そこに松鶴の「とりあえず最初は大きな声でしゃべってまず笑わすことや」は、すっと入ってくる。

寄席からラジオまで。古典落語から下ネタまで。鶴光の活動の根本には、「まず笑わすことや」精神があると思う。つまりは「まずは楽しくなくっちゃあ」という一点において、ここに、筒香と鶴光が結びつくのである。

今から数十年後の大阪・堺に、昔プロで鳴らした少年野球の監督がいる。その監督は子供たちに言う。「野球みたいなのはな、とりあえず最初は、思いっきり投げて、思いっきり打って、思いっきり走って、大きな声で笑いながらやるもんや――つつごうでおま!」

追記:この原稿を書き上げた後に、筒香がこの春、結婚することと、今年中に第一子が生まれることが報じられた(註:2018年当時)。いい父親になるだろう。間違いない。

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