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京田陽太(中日)の脚から聴こえるエディ・ヴァン・ヘイレン(2017年9月記)
■チョコチョコと、前へ前へと、動いて止まらない京田陽太。
今季の新人王は、セ・リーグはドラゴンズの遊撃手・京田陽太、パ・リーグはライオンズ遊撃手・源田壮亮で決まりではないか。2017年シーズンは「新人遊撃手豊作の年」として、記憶されていくであろう。
ただし、京田陽太と源田壮亮、生で観た印象は異なる。冷静沈着落ち着きはらった源田に対して、京田の方は、少しばかり子供っぽいのである。もう少し具体的に言えば、子供のように、たえずチョコチョコと動いているのだ。
最初に観たのは、5月23日のベイスターズ対ドラゴンズ(横浜スタジアム)。一塁側で観ていた私の目の前で、京田陽太は牽制死した。
「大学卒・ドラフト2位ルーキーの遊撃手」という額面からは、決して牽制死などをしない、沈着冷静落ち着きはらった選手をイメージしていたのだが、その京田陽太が、目の前で、実にあっけなく牽制死したのだ。
2度目に観たのは、6月7日のマリーンズ対ドラゴンズ(ZOZOマリン)。ここで京田陽太は3安打の猛打賞。確実にヒットを重ねる打撃にも驚いたが、さらに驚いたのは、ベース上での動きである。たえず前へ前へとうかがって、チョコチョコと動いていたのだ。
例えは良くないかもしれないが、思い出したのは、昔の吉本新喜劇で、間寛平が演じる、杖を振り回して暴れる老人である。その老人の決め台詞は「わしゃ、止まると死ぬんじゃ!」――京田陽太は、止まると死ぬのかもしれない。
京田陽太は、これからどの方角に進んでいくのだろう。普通に考えれば、ドラゴンズの先輩=荒木雅博の線が見えてくる。しかし、私は、荒木のように、落ち着いて大人びていくのではなく、ぜひ高橋慶彦の線を狙ってほしいと思うのだ。
高橋慶彦。昭和50年代のカープ黄金時代を支えた遊撃手。見た目にかっこよく、若々しい、まさにスピードスター。まるで、やんちゃな野球少年がフィールドを走り回っているイメージの選手だった。
京田陽太と高橋慶彦に共通するデータがある。それは「盗塁死」の多さだ。
・京田陽太(2017年):盗塁(22)、盗塁死(11)→成功率=.666(9月22日時点)
・高橋慶彦(1980年):盗塁(38)、盗塁死(20)→成功率=.655
強調しておきたいのは、「1980年の高橋慶彦」が盗塁王を獲得し、そしてこの年、カープは優勝したということ。乱暴に結論付ければ、京田陽太は、もっと盗塁死してもいい。そうすると、盗塁王が獲得でき、ドラゴンズは優勝する――かも知れない。
■エディ・ヴァン・ヘイレンのギターのような、痛快な速さを。
エディ・ヴァン・ヘイレンというギタリストがいる。80年代を席巻した、アメリカン・ハードロック・バンド=ヴァン・ヘイレンのメンバー。代表作は、大ヒットアルバム『1984』と、その中の大ヒット曲=『ジャンプ!』(1983年)。
ただし、エディ・ヴァン・ヘイレンのギタープレイで最も知られているのは、マイケル・ジャクソン『今夜はビート・イット』(1983年)の中盤に出て来る、あの破天荒なギターソロだろう。
プレイの特徴は、指の動きがとにかく速い。無駄に速い。そこにはコンセプトや思想がまるでない。その上、右手で指板を押さえる「ライトハンド奏法」という、ヘンテコな弾き方までする。つまりは、痛快なほどに速く弾くギタリストなのである。
その対極はクイーンのブライアン・メイだ。こちらは、その曲のコンセプトをきっちりと踏まえ、完璧に整理整頓されたギタープレイが売りである。かなりの速弾きもするが、こちらは単に「速いだけ」ではなく、その速さに、しっかりとした根拠が付随する。
そんな、エディ・ヴァン・ヘイレンとブライアン・メイという、対極の2人が組んでリリースした『無敵艦隊スター・フリート』(1983年)という、つまらないミニ・アルバムがあるのだが、それはさておき、言いたいことは、京田陽太はエディ・ヴァン・ヘイレンを目指せということだ。
ドラゴンズの観客動員が低迷しているらしい。ドラゴンズOBの田尾安志氏は、こう語る。
――解説の仕事で古巣の中日戦に足を運ぶたび、寂しいなと思うことがある。セ・リーグ5位という成績だけではない。本拠地のナゴヤドームの空席が目立つのだ。今季主催試合の入場者数は1試合平均で2万7663人で、こちらもリーグ5位(数字は15日現在)。応援もどことなく元気がなく、チーム成績も入場者数も最下位のヤクルトの方が、よほどファンの熱気が感じられる。
出典:日本経済新聞
動員回復のカギは当然、チームの強化、順位アップということになるが、それだけではないだろう。ここで一見、アホみたいな発言をするが――楽しくなきゃダメなんじゃないか、ドラゴンズはもっと。楽しさ・痛快さという、エンタテインメントの原初的な要素が、ドラゴンズには決定的に欠けていると思うのだ。
だとしたら、荒木雅博ではなく、高橋慶彦のような1番打者が、ドラゴンズには必要だ。それは、言い換えれば、ブライアン・メイではなく、痛快なほどに速い、エディ・ヴァン・ヘイレンのようなプレイをする1番打者。さすがに「間寛平のような1番打者」という表現は差し控えるが。
最後に、細かなところに注目しておく。京田陽太といえば、その名前である。京田陽太=「キョーダ・ヨータ」、名前が韻を踏んでいる。名前にラップのようなリズム感がある。口にするだけで、何だかリズムに乗ってくる楽しい名前だ。キョーダ・ヨータ、Yo!
そんな名前を持って世に出て来たのは、一種の奇跡である。だから京田陽太には、リズムにのって、楽しく痛快に、チョコチョコと動き続ける責任と義務があるんだYo!