片脚立位が5分のリハビリで劇的に向上した話
逆張り理学療法士です。
今日は、臨床で難渋する【片脚立位の保持時間延長】について書きます。
一般的に片脚立位の安定性を高めようと思ったら、多くの若手セラピストは、中殿筋の筋力強化、バランスマットの使用などを選ぶことでしょう。
実際にGoogle先生に「片脚立位 できない理由」で検索すると
・下肢の筋力低下(中殿筋、大腿四頭筋、腓骨筋)
・足底感覚の低下
が大きな理由だそうです。
しかし、上記の訓練を実施して、一体どれほどの効果が出せたでしょうか。私が新人の頃は、中殿筋の訓練をしたからといって動作の安定性が向上したケースはほとんどいませんでした。
そこで、7年目の私が少しだけ視点を変えた評価や治療についてお伝えしたいと思います。
明日以降の臨床で、何か一つでも活かせるようなものを感じ取っていただければ幸いです。
評価と治療方法の説明に移る前に、前提条件をお伝えしておきます。10歳に治療するのと、90歳に治療するのでは、同じ方法を取っても結果が全く違いますからね。
あくまで、本症例の場合は…といった話になります。全患者誰にでも使える銀の弾丸ではありませんので悪しからず。
片脚立位 評価
動作観察から得られた情報は以下の通りです。
片脚を上げる際、麻痺側と比べてわずかに時間がかかる
バランスを維持するために、骨盤帯より上部が揺れやすい
片脚立位保持後、遊脚側に倒れやすい
上記の観察から治療を考えようとしても、まだ情報が足りないため、治療アプローチを絞ることができません。
ただし、上記の観察からある程度の仮説が浮かびます。
から、体性感覚の低下を疑いました。ここでの体性感覚とは、足底の触圧覚などではなく、自分の体が空間上のどこに配置されているか、という感覚です。固有感覚に近いですね。
次に
から、片脚立位を保持している最中にも、体性感覚の低下から空間保持するための知覚力が乏しいため、体幹部を過剰に動かしながら制御しようとすると考えます。
問題点は、1.と同様の体性感覚の低下ですね。
最後に、
2.で作り出された大きな揺れを制御しきれずに、最終的に遊脚側に足を接地します。
簡単にまとめると、片脚立位したものの、どこで支えるか上手く認識できないため、体を大きく揺らしながらなんとか姿勢を制御しようとしている。
そのため、ある条件を加えて動作観察による評価を再実施しました。
この条件で、再度片脚立位をとっていただきました。
すると、それだけで一気に20秒程度の立位保持ができるようになってしまったのです。
当然、体幹部の動揺も軽減していました。
しかし、まだ評価として不十分です。そこで、さらに条件を増やして評価しました。
片脚立位を保持し、安定した後に「目を閉じてみてください」と指示しました。
すると、一瞬のうちに後方へふらついてしまい、プラットホームに着座する形となりました。
この結果から、私はある仮説を立てました。
片脚立位 仮説と解釈
上記の結果から、この患者は、姿勢制御において体性感覚や前庭感覚よりも、視覚に重み付けをしていると考えました。
体性感覚の低下による動作の不安定性を、視覚によって無理やり制御しようとしていたのです。
視覚は、ゆっくりとした重心移動の制御には有効ですが、素早い重心移動の制御には不向きな性質を持っています。
足を滑らして急激に体勢を崩した時、視覚からの情報で姿勢を立て直そうとしても間に合いません。そのような状態では、体性感覚や前庭感覚が姿勢制御に効果的となります。
片脚立位の際に、体幹が大きく動揺するのは、比較的素早い重心移動の制御方法になります。これを、視覚での制御に任せていては、動作の制御が難しいことは自明です。
そのため、片脚立位の際に目をつぶると、今まで姿勢を制御していた視覚からの情報がいきなり遮断されたため、後方にふらついてしまったと考えられます。
よって、アプローチは【視覚による姿勢制御を抑制させ、体性感覚や前庭感覚による姿勢制御を促進させる】です。
片脚立位 治療
視覚による姿勢制御を抑制させるために、訓練中は閉眼するように指示しました。
訓練環境は、重心移動が強制的に増幅するようにバランスマットを用います。
【バランスマット+閉眼+両脚立位】がアプローチのスタートポジションになります。
その状態から、両上肢を自動運動で屈曲、外転など比較的自由に動かしてもらいます。
慣れてきたら、動かす速度を変えてもらいます。
これらの動きは、体性感覚の使用を増加させるとともに、運動的課題を課すことで、姿勢制御を随意的に行うのを防ぐ効果があります。
閉眼時は体の揺れに敏感になりやすいので、随意的に揺れを止めようとします。しかし、立位制御に随意的なコントロールをしていてはADLへ汎化しにくくなります。
そのため、あまり体の揺れに注意が向きすぎないように、運動的課題を与えています。
速度を変化させるのは、無意識下で重心移動のコントロール制御の難易度を上げるためです。
上記の運動を2分ほど行なったところで、今度は頭頸部の運動に移ります。頭頸部を上方、下方、左右方向へ動かしながら、姿勢制御を実施させます。
これは、体性感覚に加えて、前庭感覚への刺激も加えることで、姿勢制御を行う上でそれぞれの感覚に対する重み付けの配分を調整する効果があります。
本来であれば、姿勢制御に用いられる、感覚の配分は以下の通りです。
・視覚 10%
・前庭感覚 20%
・体性感覚 70%
体性感覚に偏りすぎても良くないので、ある程度は前庭感覚への入力も忘れないようにしましょう。
頭頸部の運動も2分ほど行なったら、アプローチは終了です。
片脚立位 再評価
アプローチ後、数分の休息をとった後、再度片脚立位を行なっていただきます。
すると、60秒以上も片脚立位が可能となり、最初に見られていた以下の観察ポイントはいづれも見られなくなっていました。
片脚を上げる際、麻痺側と比べてわずかに時間がかかる
バランスを維持するために、骨盤帯より上部が揺れやすい
片脚立位保持後、遊脚側に倒れやすい
ただし、45秒を越えてくると、体幹部の動揺が増える傾向にあったため、より高みを目指すのであれば別の評価を再度実施していく必要がありそうです。
片脚立位 まとめ
今回は、視覚に依存した姿勢制御をとるパターンの症例でした。
本来であれば、視覚は姿勢制御において大きな配分をとりません。しかし、脳卒中患者や高齢者は体性感覚や前庭感覚の低下が顕著になるため、残存機能である視覚に頼る傾向があります。
本症例もおそらくそのパターンだと考えられます。
片脚立位には中殿筋、のような考え方一般的に流布されていますが、今回の症例に対してそのようなアプローチをしていても、一生改善されることはなかったかもしれません。
【感覚の重み付け】は意外と盲点になりやすいポイントです。
普段の訓練にワンポイントの隠し味として、閉眼状態でのアプローチを取り入れると患者のADL向上につながる可能性があるかもしれません。
ぜひ明日からの臨床で試してみてください。
もし、何か質問などがあれば気軽にご連絡ください。