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つぎラノエントリー記念SS それはある晴れた日の午後 1 アリスパロ

 それはとても晴れた日の午後。
 アリシアと離宮の木陰でおしゃべりをしていた日のことだった。

「あー忙しい忙しい!」

 忙しい忙しい、と口に出しながらロビンがぴょん!と私たちのいる所に現れたのだ。本当にぴょん!って!!
 ビックリした私はロビンに思わず声をかける。だってロビンったら頭にウサギの長い耳がついているのだもの。そんな姿今まで一度も見たことがない。

「ねえ、ロビンどうしたの?どうしてウサギの耳なんてつけているの??」
「ウサギの耳?バカ言っちゃいけませんよ。これは俺のアイディンティティ。白ウサギである証です」
「ロビンは白ウサギだったの??」

 思わず聞き返せば、本物のウサギのように足でタンタンと地面を叩く。
 そしてポケットから大きな懐中時計を取り出した。普段使っている懐中時計の五倍はありそうだ。だってロビンの手からすごくはみでてる。……重くないのかしら?

「ああああ!このままじゃ遅れちまう!!」
「えっ?えっ??」
「俺は忙しいんです!」
「そ、そうなの?引き止めてごめんなさい」

 素直に謝るとロビンはピコピコと白い耳を動かし、もう一度タンタンと地面を足で叩くと走って行ってしまった。その後ろ姿を呆然と眺めていると、隣に座っていたアリシアに腕を取られる。

「アリシア?どうしたの!?」
「ルティア様、行きますよ。今行かなくていつ行くんです!!」
「え?行くってどこに??」
「不思議の国です!!」

 不思議の国って何!?と口に出すより早く、アリシアに引っ張り起こされた。そしてロビンを追いかけて走り出すアリシア。普段の私たちとは真逆だ。

「アリシア、あなたって足早かったのね!?」
「今はロビンさんを追いかける方が先ですよー!」

 何がそんなにアリシアをかき立てているのかさっぱりわからない。ロビンが忙しいのはいつものことだけど……でもそれでもウサギの耳なんてつけないだろうけど。どうしたのかしら?もしかしてロイ兄様と何かあったとか??

 頭の中で色々考えてみるけれど、走りながらだから全く考えがまとまらない。

「アリシア、そろそろ止まらない……?だいぶ、走ったわ」
「ルティア様ここです!」
「え?」

 大きな木の根元。そこにぽっかりと穴が空いている。だいぶ走ったけど、それでも離宮からはでていないはず。私は辺りを見回し、どこにいるのか確認しようとした。どうにも見覚えがない。

「こんなところ、あったかしら?」
「さあさあ行きますよルティア様!」
「アリシア、行くってどこに?ってきゃああああああああ!!」

 ぽんと背中を押され、穴の中に飛び込んでしまう。その穴はどんな作りになっているのか、全く底がわからない。ピューッと音をたてて底に落ちていく。

 落ちる。
 落ちる。
 落ちていく――――

 こんな危険な場所が離宮にあるなんて!上を見上げると光ははるか彼方だ。ど、どうしよう!?慌てて髪留めに手を伸ばす。すらいむの魔術式が入っているこの髪留めなら、悲惨なことにはならないはずだ。

 魔力を流し込み、水のかたまりをだす。たくさん、たくさんあれば大丈夫。思いっきり魔力を流しても問題ない。命の危機なのだから!!

 先に落ちた水のかたまりにザボン、と落ちる。灯りの魔術式を使わなくても周りが明るいのは助かった。なぜ落ちてる途中は暗くて、地面についたら明るいのか?その謎は今は置いておこう。
 隣を見ればアリシアもちゃんといた。良かった。途中で引っかかったりしてなかったことにホッとする。

 すらいむの魔術式を解除して、服を乾かす。辺りを見回しても出口らしいものは見当たらない。これ、どうやって上に戻ればいいのかしら?そんなことを考えていると、アリシアがしゃがんで何かを見ている。

「アリシア、どうしたの?」
「ルティア様、見てくださいこの小さな扉!」
「小さな扉?」

 アリシアに手招きされるままのぞき込むと、確かに小さな扉があった。でもどうやってもそこから出ることはできない。だってサイズがあまりにも違うんだもの!足先を出すのがやっとだろう。

「ルティア様、ここを出れば不思議の国に到着です。ロビンさんを追いかけましょう!」
「ものすごく追いかける気満々なところ悪いのだけど……流石にこの扉からは出られないわ。開いてないし……それにサイズが違うもの」
「いいえ。テーブルの上に鍵があります」
「ええと……だから……」
「そして一緒においてあるこの瓶の中身を飲めば縮みます!!」
「それは本当に飲んで大丈夫なの!?紫……?いえ、どどめ色してるわよ!!」

 私の悲鳴のような声にもアリシアは臆せず、半分こしましょうねーといいながら私の口に小さな小瓶を押し付けた。
 トロリとした液体が口の中に入ってくる。舌に今まで味わったことのない刺激が刺さり、反射的に飲み込んでしまった。するとどうだろう。アリシアの言う通り、体が縮んだのだ。

 見上げるほどに大きなアリシアと、扉のサイズとからして丁度いいサイズに変わった私。アリシアはテーブルの上にあった鍵を指先で摘むと、私の側に置く。流石にそのままは受け取れないものね。
 そしてアリシアも小瓶の中身を煽ると、私と変わらないサイズになった。

「ふふーん!アリスは鍵を手に取る前に小さくなって、色々大変だったけど私たちは大丈夫ですよ!」
「そ、そうなの?」
「あ、でもテーブルの下にある大きくなるクッキーは持っていきましょう。安全に楽しみたいですからね」

 安全に楽しむ、とは?と頭の中に疑問符が浮かぶ。どうやらアリシアは何か知っているようなのだけど……私にはさっぱりだ。多分説明されてもよくわからないかもしれない。
 だってこんな不思議なこと、誰かに説明してもきっと夢だって思われる。

 そんな私の心境なんてまるで気にしていないアリシアは、鍵を手に持ち扉の鍵穴にさす。カチャリと小さな音が鳴り、扉が開いた。アリシアは振り返り私に手を差し伸べる。

「さあ!ルティア様行きましょう!!」

 ***

 誘われるまま外に出れば、黒いお仕着せの裾に白い耳が見えた気がした。
 あれはロビン?そんなことを考えていると、アリシアが私の手を握り走り出す。

「追いかけましょう!」
「お、追いかけるってロビンを?」
「そうです。白ウサギロビンさんを追いかけるんです!!」

 白ウサギロビンって何だか変な感じ。そんなことを思いながら、アリシアと一緒に走り出す。するとまわりからザワザワと話す声が聞こえ出した。

『あらイヤだ。雑草?』
『それとも新種?』
『わからないけどちょこまかしてるわ!』
『なんだかイヤね!』
『イヤね』
『イヤだわ』

 話し声は聞こえども姿が見えない。なんだか昔離宮にいた侍女たちを思い出す。ヒソヒソ、ヒソヒソと私の顔を見ながらみんな蔑むような視線を向けてきた。

 私は彼女たちに何もしていないのに。どうしてみんなそんなイヤなことをいうのかしら?
 離宮の侍女の中でユリアナだけが私の側にいてくれた。ロビンはロイ兄様の側を離れられないし、だからといって私はロイ兄様の宮では暮らせない。一人一つの宮で暮らす。それが決まりだから。

 みそっかすの姫。ハズレ姫。どうして私たちが……

 そんな言葉が毎日のように聞こえてきた。でもなにかいじわるされているわけじゃない。ご飯だって、寝る場所だってある。
 ただ、悪口をいわれるだけ。仕方ないのかな?これは仕方ないことなの??

 ヒソヒソ、ヒソヒソ。
 ザワザワ、ザワザワ。

 声がだんだんと大きくなる。それは彼女たちの声と同じだった。
 忘れていた記憶がよみがえる。

「もうイヤ!やめて!!」

 思わず大きな声で叫ぶと、私の前を走っていたアリシアがピタリと足を止めた。急に止まるものだから私はアリシアの背中に顔をぶつけてしまう。

「あ、アリシア?ごめんなさい。あなたにいったわけじゃないの……」
「大丈夫です。わかってます。あの花たちが悪いんです!」
「花?」

 いわれて辺りを見渡せば、大きな花がヒソヒソと話をしていた。

「は、花って……しゃべるの!?」
「そこじゃありませんよ。ルティア様。ともかく私は怒りました!」
「え?」

 いうが早いか、アリシアはポケットに入れていた何かを取り出し口に入れる。もしやそれはさっき話していたクッキーだろうか?大きくなるというクッキー……
 そんなことを考えていると、アリシアの体がグングン大きくなっていく。

「ルティア様を悪くいう花はこうです!!」

 ブチブチと花が手折られていく。それはちょっとかわいそうなんじゃ……と声をかける間もなく、おしゃべりな花たちはピタリと黙ってしまった。手折られてまで悪口はいいたくないようだ。

 呆然と見ていると、アリシアは拳を高く上げて「私の勝ちです!」と誇らしげにいう。

「あ、アリシア……?」
「はい。なんですか?」
「あなた、そのサイズだと困らないかしら?」

 なるべく聞こえやすいように叫びながら話しかける。するとアリシアは「あああああっっ!!」と叫びながら膝をついた。間一髪のところで避けられたけど、これはなかなかに危険だ。

「くっ……怒りに我を忘れて……でも後悔はないんですけど!」

 花が悪い。花が悪い。とブツブツ呟きながら、私をチラリと見下ろす。そしてそっと私に手を差し出してきた。これはこのまま手に乗ればいいのかしら?靴のまま乗っても大丈夫?と考えていると、笑い声が聞こえた。

 さっきまで話をしていた花の声ではない。それにこの声を私はよく知っている。
 笑い声のする方を向けば、そこには――――

 頭には猫耳。フサリと豊かなしっぽを垂らし、木の上でくつろぐロイ兄様がいた。



*次にくるライトノベル大賞2024の本投票にノミネートされました!ありがとうございます!!
本日より12月5日17時59分までお一人三作品投票可能です。ぜひ投票していただけると嬉しいです。
アリスパロの続きは結果発表の2025年2月23日まで不定期更新します。よろしくお願いします。

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