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映画「マルセル 靴をはいた小さな貝」感想

原題:Marcel the Shell with Shoes On (2021)

広告で予告を見てからずっと気になっていた映画です。
他の地域より遅れて公開だったのですが、気づいたら昼間の上映が終わる一日前だったので慌てて行きました。
しばらく籠っていたので出かける理由になって良かったです。

主人公のマルセルは体長(身長?)2.5cmの『靴をはいた貝』。
我々人間の家のタンスや壁の穴の向こうにこっそりと住んでいる生き物です。
この『靴を履いた貝』という生き物は20匹ほどの『コミュニティ』を形成し、人間が落としたものや食べ物を拾って生活するのですが、今は住む人間がいなくなった家でおばあちゃん貝のコニーと二人だけで暮らしています。

物語は新しい住人のディーンが、マルセルのドキュメンタリーを撮るところから始まります。
この映画はモキュメンタリ―というジャンルで、ドキュメンタリー風に撮影したフィクションです。
ですが編集する前の、今まさにカメラを通してみている景色そのままが流れます。
記憶が正しければほとんどすべてのシーンが『ディーンや他の登場人物が物語の中で撮影した映像』で構成されていました。 編集前なのでマルセルがディーンに質問したり(ディーンは自分の声を動画に入れないつもり)、うたたね中のディーンを置きっぱなしのカメラで隠し撮りしてクスクス笑うマルセル(悪戯するクソガキの腹立つ笑い方をする)、マルセルに内緒でこっそり話すおばあちゃんのコニーとディーンのシーンもあります。
NGシーンみたいで面白いところもあるのですが、最初の方はのんびりと事が進むのでボーっと見てしまいました。 靴を履いた貝って何なのか?なぜコニーと二人暮らしなのか?なんのための撮影なのか?それらが徐々に明かされて行き(貝たちの暮らしについてマルセルが解説してくれますが、『なぜ靴をはいた貝が存在するのか』は明かされないし、特に気にならなくなっていった)、顔の映らない撮影者のディーンにも、元気でちょっとボケ気味のおばあちゃんにも愛着が湧いてきて、いつのまにかこの世界をずっと眺めていたいと思うようになっていました。
特に予想外で好きだったところは、マルセルとディーンの友情です。
マルセルはしっかり者ですが、声がかわいくてヤンチャなところもあって子どものように見えます。
ディーンは大人で頼りにはなるのですが、顔がなかなか映らないのであまり物語には関わらないのかと思っていました。
ですが断片的なシーンが流れていくうちに、直接語り合うところを見ていなくても、なんだか前より仲良くなった雰囲気や会話が見られるのです。
撮影していない時、観客が見ていない時も彼らの時間が動き続けているのを感じました。
鑑賞後は温かいきもちになれる優しい物語で、大好きな映画の一つになりました。 あと、犬は無事です。

!!ここからストーリーの内容に触れます!! ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


温かくて優しい物語だと書きましたが、マルセルの孤独、寂しさを強く感じました。
マルセルはいなくなったコミュニティ、家族を探すためにネットに動画をアップしますが、それがかわいくて大バズリします。
しかし迷惑系ストリーマーの所為でおばあちゃんのコニーは怪我をしてしまい、だんだん元気がなくなってきてしまうのです。
コニーが心配なマルセルは家族の手掛かりが見つかっても行動を起こせません。
明るくて行動的でユーモアがあるマルセルは、家族と離れても元気を忘れないんだと思っていました。
でも行動的だったのは早く家族と再会したいから。
仲良くなったと思ったディーンが自分の話をしてくれていなかった事に拗ねて、 コニーを失って本当の一人になるのを何より恐れている。
マルセル、君ってこんなにもさびしんぼうだったのか! この時にはもうマルセルのすべてがうまくいくことだけを願っていました。
弱っていくコニーと介抱するマルセルの姿が、私自身の経験と重なって劇場で大泣きしてしまいました。
他の数少ない観客が気にしていないことを祈ります。

パンフレットは売っていませんでした。
日本でももっと流行って、マルセルのフィギュアが発売されてほしいです。 大きさは2.5cmで。

/すわみ


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