【Googleマップ 離島巡回の旅】#17 長崎編 対馬島② 〜オソロシドコロとは?侍の視点で語る神秘の地〜
対馬島
” 静 寂 を 纏 い 孤 高 に 立 つ、日 ノ 本 の 砦 ”
■ これまでのあゆみ
朝霧の帳に包まれた厳原(いづはら)の町を背に、我が身は静かに豆酘(つつ)への道を辿らんとす。新春の凛とした空気は心身を引き締めるに余りあるが、どうにも胸中は穏やかならぬ。
饂飩の香りに誘われ、あの日の宿場で饗された一椀に心を奪われたこと、そしてその愉悦の代償として、お上(note)へ差し出すべき原稿を仕上げ損ねた無念——筆を怠り、麺にうつつを抜かした愚かさが、今になり重く肩にのしかかる。いざ歩みを進めども、心の内に自責の声、幾度ともなく響き渡る。
「旦那様、道中お気をつけなされませ」
宿の女将の柔らかなる声が、背後より届く。振り返れば、その笑顔は冬空の下でもなお暖かく、己の罪深さを和らげる陽だまりのごとし。女将が持たせてくれた包みから漂う香りは、ふたたび胃をくすぐり、腹の虫がまた一声。
豆酘への旅路、いざ開始せん。背負いし後悔を糧に、己を省みる良き旅路とせねばなるまい。町の朝陽が静かに昇りゆく中、我が影は細く長く、道の先へと続いていく。斯くして、新たなる年の一歩を踏み出した次第。
(前回の離島絵巻)
■ 今回巡る名所
今回は対馬島の下県(しもあがた)にある厳原(いづはら)から時計回りにゆるりと巡り申そうかのう。
■ 一之地 対馬藩お船江跡
❖ 正門を潜り、いざ歴史の門戸を叩く
暁の刻、久田川の河口に至り、「お船江」とやらを訪う。さすがは藩の威光を示す施設、その佇まいは堂々たるもの。冷え冷えとした朝風が肌を刺すも、この身を引き締めるかのよう。さて、いざ踏み入れん。
❖ 石積みの築堤に宿るは職人衆の武士道
正門を潜り、一歩足を進めば、見ゆるは見事なる築堤。これぞ石工の妙技にして侍の誇りを象徴せしものよ。幾重にも積まれし石は、一分の隙も許さぬ武士の如き気迫を放つ。「この石を見よ、これぞわが藩の魂」――そんな声がどこからともなく聞こえてくるようだ。されど、この堅牢たる造りを眺めつつ、思わず「いったいどれほどの苦労があったか」と感服せざるを得ぬ。
❖ 船渠に蘇る大船の威風と藩士の熱誠
そして、目の前に広がる船渠。潮の満ち引きに合わせて船が行き来するこの仕掛け、何とも見事なもの。ここに木造船が並びし時を思えば、胸が高鳴るものなり。藩士たちはここで修繕に励み、「殿の御船が光り輝かねば、我らの名折れよ!」と意気込んでおったに違いない。この船渠、ただの水溜まりにあらず、武士の技と誇りが交差する戦場といえよう。
❖ 倉庫跡に語らう藩士の声、いまだ風に残る
倉庫や休息所の跡もまた風情深し。ここに藩士たちは腰を下ろし、船の具合を語り合ったのやもしれぬ。「おい、今宵の茶会には間に合うか?」などと冗談を交わしつつも、彼らの手は一瞬たりとも休まず働いたことであろう。その姿、まさに侍の勤めを体現しておる。
❖ 潮風と朝日が照らす悠久の刻に侍の誇りを見る
そして、この地の自然の息吹よ。朝日が差し込み、築堤の石に黄金の輝きを与える様子は、何とも言葉に尽くし難い。潮風が吹き抜け、川面に揺れる波光を目にすれば、侍たる者も己の小さきことを悟る。「この地こそ、我らの魂が宿りし場なり」――そんな思いが胸に満ちる。
❖ お船江が問いかける、誇りとは何か
この「お船江」、ただの船屋敷にあらず。江戸の侍たちが己の勤めを果たし、誇りを胸に生きた証の地。その歴史を感じ、潮風とともに歩むこの旅路、これぞ侍たる者の心を深く揺さぶるものなり。
■ 二之地 オソロシドコロ
オソロシドコロとは、対馬国南部の龍良山(たてらやま)における神聖なる地にて候。この地は、南北の斜面に築かれた石積みの塔を中心とし、龍良山山頂を囲む神域への結界としての役割を担い申す。
南面には「八丁角(はっちょうかく)」、北面には「裏八丁角」と呼ばれる地があり、もう1ヵ所「不入坪(いらぬつぼ)」とともに、これらは特にタブーの地とされ、「オソロシドコロ」と総称されておる次第。この地は恐怖の場所というよりも、神々を敬い畏れ奉る「畏ろしどころ」と解するが正しかるべし。
❖ 天童法師とオソロシドコロの由来
時は白鳳の御代、天童法師なる異能の人物が、この地に生を受け申した。その母は、虚船(うつろぶね)に乗りて漂着せし高貴なる女性にて、太陽に感精し天童法師を産み申す。ゆえに彼は「太陽の子」とされ、「天童(天道)」と名付けられたるなり。
天童法師は嵐をまとい空を飛び、京に上りて元正天皇の病を癒やし、「宝野上人」の菩薩号を賜りし伝説を持つ。その墓所は南面の八丁角に、母の墓所は北面の裏八丁角に位置し、これらがオソロシドコロの由来にござる。
❖ 龍良山の神域としての役割
龍良山は天道信仰の聖地にて、山そのものが神域として崇められしところ。この山は、神々の領域として立入や伐採が禁じられ、豊かな照葉樹林を残し申す。されば、大正の世においては「龍良山原始林」として国の天然記念物に指定されるに至り候。
また、この山麓には内院、浅藻、豆酘(つつ)の集落が広がり、それぞれ龍良山を中心とした信仰に深く結び付きおる。豆酘の集落内には遥拝所が設けられ、ここにて行われし神事は、後に多久頭魂(たくずだま)神社へと引き継がれるに至り申す。
❖ オソロシドコロの重要性
オソロシドコロは、単なる恐怖の地ではなく、神々の威厳と神聖を象徴する場所にて候。この地を守りし龍良山は、対馬の自然と文化を支える要であり、天童法師の伝承や赤米の神事、さらには亀卜(きぼく)といった古の占術が、今に至るまで受け継がれておる。
かかる地は、対馬国独自の信仰と文化を体現する存在にて、我々がその神秘を目にすることは、古の精神を知る良き糧となるやもしれぬ。斯様なる思いを抱きつつ、この地を敬い、畏れ奉る心を忘れるべからず。
これより、関わり深き地々について、順次ご案内仕り候。いずれも、天道信仰ならびに龍良山を巡る神秘を紐解く鍵を握る地にて候。この拙者がご説明つかまつるゆえ、しばしお付き合いくださりませ。
● 龍良山(たてらやま)
ここにご覧じ申すは、対馬国厳原町南部、標高五百五十八間(558m)を誇る龍良山の麓に広がる古き森にて候。この地は、天道信仰の神体山として、いにしえより全山が神域として敬われ、斧や鋸といった人の手を寄せつけぬまま千余年を経た、まこと貴き原始林にござる。
森に立ち並ぶ樹々の年齢は、おおよそ二百年を超え、特にスダジイやイスノキなど、他所では見ること叶わぬほどの巨大な姿を誇り申す。そのほかにも、樹(いつき)、椎(しい)、樫(かし)、イスなど、暖帯に属する広葉樹が繁り、この森は対馬の自然を代表する暖帯林として、極めて貴重な存在と相成っておる。
この地は大正の御世に、国の天然記念物としてその価値が認められたるが、それも当然のこと。この森の神秘なる姿は、拙者が申すより、ぜひご自身の目にて確かめられませ。神々の宿る聖域として、自然の畏敬に満ちた空気を肌で感じられること、誠に疑いなきことでござろう。
● 不入坪(いらぬつぼ)
多久頭魂神社(たくずだまじんじゃ)の不入坪(いらぬつぼ)は、縄で仕切られた神聖な禁足地でござる。この場所には、八丁郭や裏八丁郭と同じように石積みの墓のようなものが見られますが、その正体は不明にて候。
何が起こるか分からぬため、決して立ち入らぬことが求められます。不入坪は、古くから神域として敬われ、侵すべからざる地とされてきたのです。
この地を前にする者は、その神秘を静かに感じ取り、神域を乱さぬよう心して過ごすべきでござる。
● 八丁郭(天道法師塔)、裏八丁郭(天道法師祠)
八丁郭は、幾重にも石が積み上げられた神聖なる地にて、参道には細やかな石が敷かれ、「土足厳禁」の看板が立てられております。石積みへと歩みを進む者は、必ず靴を脱ぎ、慎ましき心持ちで参道を進まねばなりませぬ。その石積みに近づくほど、澄み渡る冷たき空気が身を包み、背筋の凍るごとき神妙な気配を感じることでございましょう。この場に立つとき、人はまさに「オソロシドコロ」の真意を知るに至るのでござる。
かつてこの地は禁足とされており、誤って踏み入れた者には厳しい作法が求められました。石積みを見てしまった場合、「インノコ、インノコ」(犬の子)と唱えながら後ずさりして退出せねばなりませなんだ。これは「我は人間にあらず、犬の子でござる」と神に対して身を低める意味を持つ言葉でござる。また、もし転んだときには、自らの片袖をちぎり、その場に身代わりとして置いて退出せねばならぬと伝えられておりました。
❖ 禁足解禁後の作法
現在では禁足は解かれ、八丁郭および裏八丁郭を自由に訪れることが叶うようになりました。しかし、この地の神聖さは失われることなく、訪れる者には次のような作法を守ることが求められております。
この作法は、神々への畏敬の念を示し、神域の静謐を守るための心得にて候。禁足が解かれたとはいえ、この地の神秘と古の信仰を心に留め、慎ましき心を持って参拝することこそが重要でござる。この神域に立つとき、人は静謐と畏敬に包まれ、古の信仰の深さに触れることでございましょう。斯様なる心得を持って、八丁郭を訪れられませ。神のご加護を得られることでござろう。
※天道信仰に興味深きをお持ちの御方様には、此方におすすめ申す書き付けがござりますれば、どうぞ御覧あれ
※さらに事の詳らかなる様を知りたき御方へ
■ 三之地 らん亭
❖ 神聖なる地を訪れ、ろくべえに出会う
拙者、この度対馬の神聖なる地に足を踏み入れ、静謐なる空気に身も心も洗われ候。されど、己が腹の虫には神聖さも通じず、鳴り止む気配もなし。道中にて聞き及びし「らん亭」なる料理屋に立ち寄り、この地の名物ろくべえを所望仕った。
❖ サツマイモから生まれし郷土の味
さて、ろくべえとやら、聞けば薩摩より伝来せしサツマイモの澱粉を元に作らるる麺料理なり。このサツマイモ、対馬のような痩せ地にもよく育つ優れものにて、しかし保存が難儀と聞き及ぶ。それを克服せんと、先人らが幾多の工夫を凝らし、生み出されしがこのセンと呼ばるる澱粉なり。そのセンを乾燥させ、ぬるま湯にて戻し、鉄板より押し出し麺とする――これぞ手間の結晶、対馬の妙技なり。
❖ ぷるぷるの食感、喉越しの妙
食すれば、ぷるぷるとした舌触り、誠に珍妙なる感覚ぞ。饂飩のような力強きコシとは異なり、むしろ水面に浮かぶ蓮の如き柔らかさ。饂飩は噛み締めて味わうものとすれば、このろくべえは喉越しを楽しむ品。醤油を少しばかり垂らし、出汁を絡めて啜れば、滋味深き味わいが広がる。これぞ、対馬の風土を映し出せし一椀なり。
❖ 饂飩との違いは味わいの哲学
饂飩との違いを申せば、饂飩はさながら武士の剛毅たる風格を思わせるが、ろくべえは風雅なる僧侶の静寂を感じさせる趣き。どちらもその地を映し出す郷土の誇りにて、互いに甲乙つけがたい。
❖ ろくべえとともに旅の記憶に刻む
拙者、このろくべえを賞味し、己の至らぬ箸使いにて麺を何度か逃がしつつも、その味わいに深く満足致した。再びこの地を訪れる折には、またこの品を求め、味の奥深きを楽しみ申そう。対馬の風土の恵みと、先人の知恵に感謝の念を抱きつつ、らん亭を後に致す所存なり。
■ 四之地 対馬 産直の駅
❖ 豆酘蜜柑と対馬の美味が紡ぐ物語
拙者、このたび旅の折に出会いしは、対馬の名店「対馬 産直の駅」なる場所。これ、豆酘(つつ)の名品を筆頭に、対馬全土の逸品が揃う、まさに宝の蔵なり。
❖ 江戸侍も惚れ込む、豆酘の夕陽ジャムの妙
まず目に入ったるは、豆酘蜜柑を用いし「豆酘の夕陽ジャム」。その琥珀の如き色合い、まさに夕陽に染まる対馬の海辺を想わせ、これ一口含めば、蜜柑の香りが舌を踊らせる。酸味と甘味の絶妙なる調和、これぞ職人の技と拙者感嘆せり。
❖ 人と歴史が息づく名所
また、この店のご主人と奥方の人柄、これまた温かく、対馬や豆酘の歴史、風土の話を聞かせてくださる。その語り口の妙は、さながら茶席での主客の如く、心和むひとときなり。
❖ 知る人ぞ知る、対馬の隠れた逸品
さらに聞くところによれば、この店、通販という新しき仕組みをも取り入れ、遠方の者にも対馬の味を届けるとか。これ、文明の利器を用いる賢き策と申せましょう。かくて全国津々浦々に対馬の名品が広まるは、まことに喜ばしきことなり。
❖ 豆酘の香りと旅路の彩り
「対馬 産直の駅」は、単なる買い物処にあらず。ここには、人と土地、そして歴史が息づく場がある。もし対馬に足を運ばるるならば、一度この地を訪ねるべし。されば、旅の彩りが一層深まること、疑いなきことなり。
拙者もまた、豆酘蜜柑の土産を手に、夕暮れの道を進むなり。さて次なる旅路、いずこへ向かうか──。
■ 次の目的地
次回 #17 長崎編 対馬島③ では、下県(しもあがた)の西部・北部を巡り候。楽しみにしておるがよい。
付録:大日本沿海輿地全図(離島巡回の旅)
■拙者が吟味せし旅の土産
拙者、このたび旅路にて巡りし土地のゆかりある逸品をここにご紹介仕る。いずれもその地の誇りを宿し、風土と人の技が織りなす珠玉の品々にござる。旅の記憶を胸に刻みつつ、手に取るたびその情景を偲ぶべし。斯様なる一品、ぜひともお手に取られよ。
❖長崎県対馬 浜御塩(はまみしお) 藻塩(もしお)
❖人気の干物を厳選 選べる楽しさが好評! 長崎県対馬産選べる干物セット 4種類選択 丸徳水産
■ 参考資料
『対馬藩お船江跡 | スポット | 【公式】長崎しま旅行こう-長崎の島々の観光・旅行情報ならココ!』(https://www.nagasaki-tabinet.com/islands/spot/796)2025年1月1日12時(日本時間)現在での最新版を取得
『オソロシドコロについて | エヌの世界 対馬のマニアック情報サイト』(https://kacchell-tsushima.net/archives/1927)2025年1月1日12時(日本時間)現在での最新版を取得
『【日本の美しい禁足地vol.1】薄暗く荘厳な雰囲気~長崎・対馬の「オソロシドコロ」~ | TABIZINE~人生に旅心を~』(https://tabizine.jp/2022/04/09/458204/)2025年1月1日12時(日本時間)現在での最新版を取得
『「オソロシドコロ」うっかり禁足地に入ったら「犬の子(インノコ)」と唱えて後ずさりすべし【長崎県対馬市】』(https://thelocality.net/osorosidokoro/)2025年1月1日12時(日本時間)現在での最新版を取得
『龍良山(たてらやま)原始林|観光・自然・歴史|本物が息づく島 対馬観光物産協会』(https://www.tsushima-net.org/tourism-history/taterayama)2025年1月1日12時(日本時間)現在での最新版を取得
「多久頭魂神社」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』(http://ja.wikipedia.org/)2025年1月1日12時(日本時間)現在での最新版を取得。
『ろくべえ|九州への旅行や観光情報は九州旅ネット』(https://www.welcomekyushu.jp/event/?mode=detail&isSpot=1&id=9999903010948)2025年1月1日12時(日本時間)現在での最新版を取得
■ GoogleMap離島巡回の旅 "対馬島"
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