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大麻クッキー食べてみた タイ旅行

 2024年11月中旬に友人と2人でバンコクへ旅行に行った。私たちは飲酒や夜遊びが好き(最近はだいぶ落ちついた)で、バンコクに旅行に行くと決まった時から冗談で「大麻吸おうね」と話をしていた。

 「タイでは現在医療用大麻が解禁されている」
事前に私たちが持っていた情報はこれだけ。娯楽目的として使用したら逮捕されるのか、日本人が海外で大麻を使用していいのかなどはきちんと理解していなかった。

 バンコクに着くと道端に多くの大麻のお店が並んでいた。合法化されたとはいえ、こんなにも大麻が大々的に売られていることに驚いた。初日に空港から市内へ向かうバスのなかでは大麻を栽培・販売している日本人男性とお話もした。

 タイ旅行2日目の夜はナイトマーケットで買い物をした。そこでも大麻のお店がいくつかみられた。そのなかに、大麻クッキーや大麻グミを販売するお店があった。スタンダードな吸うタイプの大麻よりもハードルが低いと感じて、どちらからともなく「買ってみようか、、?」という雰囲気になった。少し悩んだのち、大麻クッキーを1枚購入した。購入してすぐに近くのベンチに座って、クッキーを半分ずつ食べた。美味しくはなかったが、まずくて食べられないというわけでもない独特の味だった。言われてみれば草っぽい風味があったように思う。食べた直後は特に何の変化もなく、お互いに顔を見合わせて「なにこれ?」と笑った。その後は再び買い物をした。

 ナイトマーケットでの買い物に満足したため、近くの大きなショッピングモールに入って夕食を食べた。フードコートで食べたパッタイは甘さがあり、麺がもちもちしていて美味しかった。ライムのさわやかな風味がとても好みだった。

 食事が終わる頃、友人に「そういえば大麻効いてる?」と聞かれてクッキーを食べたことを思い出した。言われないと思い出さないくらいに何の効果もなかった。クッキーを食べてから30分後くらいの出来事である。

 その後、友人がマックにあるタイ限定のパイナップルパイが食べたいと言い、マックに入った。私はお腹が空いていなかったため何も買わずに、友人がレジに並んで注文をしているのを座って待っていた。すると、左の後頭部が熱いことに気づいた。そしてその部分を支点として白っぽい木の板が揺れている感覚がうっすらとあった(自分でも何を言っているのかわからない)。友人にそのことを話したが、友人はまだ何も感じていない様子であった。徐々にふわふわとした感覚が襲ってきて、自分の身体の異変をはっきりと認識した。しかし、クッキーを食べてからかなり時間は経っているし、これが大麻によるものなのかもよくわからなかった(後から知ったが大麻クッキーは効果の発現までに1,2時間かかるらしい)。その要因のひとつとして、私たちは大麻を使用したときに起こる症状を知らなかったことがあると思う。所詮はクッキー、大麻はタバコの延長という完全に舐め切った考えしか持っていなかった。

 マックを食べながら徐々に友人にも異変が現れたようであった。酒に酔った時のようなテンションの上がり方で、些細なことで笑いが止まらなくなる感覚だった。それからどれほど時間が経ったか分からないが、急に通報されるのではないかという恐怖が湧いてきた。現地の人から見れば、マック店内で大笑いしてる様子のおかしい外国人2人である。「もう行こう。私たちが思っている以上に長くここにいる気がする。通報される前に帰ろう。」と友人に言ったのを覚えている。友達は食べかけのハンバーガーとパイナップルパイを紙袋に戻して「明日の朝ごはんにする!」と言っていた。パイナップルパイはぐちゃぐちゃだった。

    ショッピングモールを出るためにエレベーターを降りて1階のエントランスを目指した。しかし、タイのショッピングモールのエレベーターは不親切だ。日本のように降りてすぐの所に次の降りる用のエレベーターがあるわけではなく、そこからしばらく歩かないと次の降りる用のエレベーターにたどり着けない配置になっている所が多くあった。なんとしてでもそのフロアのお店を見させたいのだろうか。
    私たちもエレベーターを降りて次の降り口を探して歩いた。しばらく歩いてから、先ほど降りた場所の目の前に次の降り口があったことに気がついて絶句した。目の前のわかりやすい場所にあったエレベーターをスルーして、わざわざ逆方向に進んでいた。自分が正常でないことを再認識して怖くなった。ほぼ同じ瞬間に友人もそれに気がついた様子だった。お互いに、「言いたいことはわかってる。だから言わないでおこう。」と言って笑った。
    モールのフロアは円形で、中央は吹き抜けになっている。エレベーターを降りながら下を覗くと底が見えないほど深くて、怖さと気持ち悪さで吐きそうになった。
    1階まで降りたところで出口を探そうとすると、友人が地下行きのエレベーターに乗っていた。強制的に下に降りていき焦っている友人を上から見て大爆笑した。何をしても楽しくて、常に口角が上がりっぱなし、笑いが止まらない状態だった。これは大酒を飲んで酔った時と似ているが、酒を飲んだ時の満腹感や気持ち悪さはなくてただ楽しいだけ、酒のいいとこ取りだという解説を拙い言葉で友人に伝えようとしていた。
    ショッピングモール内にある電光装飾で写真を撮ったのを薄らと覚えている。後日友人から見せられた写真でやっと思い出した。どの写真を見ても目がちゃんと開いていなかったし、べろべろに酔った時と同じ顔をしていた。

    マックの後からかなり記憶は飛び飛びで、断片的である。その後どうやってモールを出たかは覚えていないが、気がつくと外を歩いていた。この時は常に後ろに人の気配を感じていて、誰かに見張られている感覚だった。この感覚は友人にもあったらしく、何度も何度も後ろを振り返りながら歩いたと話していた。友人は私の腕をしっかりと掴んで歩いてくれていた。いつも酒を飲んだ時も、私がべろべろになり、友人もかなり酔っているが何とか冷静を保って私を介抱してくれようとすることが多かった。しかし、私は自分だけ酔っていて相手が酔っていない状況が苦手であり、「今酔ってる?どれくらい酔ってる?」が口癖である。その時も冷静を装う友人に対して、何度もこの質問をしていた。友人は「酔ってはいる。冷静でいようと振舞ってるだけ。」と繰り返し話していた。今振り返ると、私たちはモールを出た後に来た道とは逆方向の回り道から帰っていた。2人とも冷静ではなかった。
    歩きながら私はノンストップで喋り続けていたらしい。私にもその記憶はある。しかし、自分の中ではそれは夢の記憶であり、実際には何も喋っていないと思い込んでいた(今でもまだ信じられないし、信じたくない)。しばらく歩くと一瞬冷静になる。私が意味わからないことを一方的に早口で喋って大笑いしたという記憶がある。しかし、自分の中ではそれは絶対に現実ではないと強く思っている。冷静さを欠いたことで友人に迷惑をかけた事実を信じたくなかったという思いもあったとは思う。しかし、それだけでは説明がつかないくらい私はそれが夢であると確信していた。「この数分間私は喋ってなんていなかった!」と考えていると、だんだん思考にもやがかかって頭が回らなくなってくる。そしてしばらく記憶が飛んで、次にまた一瞬冷静になった時に、「あれ、今私喋り続けてた、、?いや、そんなことない。」というのを何度も何度も繰り返した。私が喋った内容で覚えているものとしては、自分の昔の話や家族の話、日本酒を飲みまくった後にクラブに行って吐き潰れて友人に介抱してもらった時の話などがある。友人に対して感謝や愛を必死に伝えていた。私が酒を飲んだ時のいつものムーブである。あとは、べろべろになりながら「こんな危ないもの(大麻)簡単に買えていいわけないだろ!日本の大麻非合法は正しい!!」と叫んだ記憶もある。
    そんな様子でしばらく時間が経ち、歩道橋の上を歩いていた時、ぱちんと大きなシャボン玉が割れるような、自分を覆っていた膜が弾けるような感覚があった。そこで急に冷静さを取り戻した。今何が起こっているのか、先程まで自分は何をしていたのかを考えて怖さが襲ってきた。慣れない異国の地、深夜、はじめての大麻、公衆の面前でキマってる女達、通報、逮捕、大麻使用で飛び降りた海外の少年のニュース、無事にホテルにたどり着けるのか、死など様々な恐怖によってさっきまでの楽しさは吹き飛んだ。そこからは本当に何も喋れなかった。喋りたくなかった。夢だと思っていたかった。友人も、あの時急に無言になって怖かったと話していた。とにかくホテルに帰りたい一心で無言で歩いた。
    しかし、本当に冷静になれていたわけではなかったと思う。まだ頭はふわふわしていたし、楽しさが消えた代わりに過剰な恐怖が頭を占めていた。途中で道を間違えそうになったが、なんとか軌道修正してホテルに向かった。途中コンビニに寄って翌日の朝ごはんを購入した。そこでも、周りの人に薬を使ったのがバレてるのではないか、通報されるのではないかという恐怖で頭がおかしくなりそうだった。冷静を装って買い物をした。私の隣のレジでは友人が長い時間会計をしていた。頭が回らなくてお金が出せなかったと話していた。タイの通貨に慣れない外国人として見てもらえてればよいが。コンビニを出て友人と目が合ったのを覚えている。恐怖で会話をする気力もなく、「お願いだから何も言わないで」と言った。
    その後なんとかホテルにたどり着いた。エントランスにも人がいたが、どんな目でこちらを見ているのだろうか、様子がおかしいと通報されるのではないかと思うと怖くて、冷静を装って歩いた。
     部屋にたどり着くと私はコンタクトも外さずにそのままベッドに入り、布団にくるまった。友人はメイクを落とし、歯磨きをし始めた。酔って帰ってきた時の行動がそのまま出るよな、なんて考えていた。
    時間を確認すると大麻が効き始めてから少しの時間しか経っていなかった。体感的には何時間も経過しているつもりだった。時間を教えてくれた友人もとても驚いていた。

    全く眠れなかった。ホテルに無事に帰ってきたはずなのに、まだ怖かった。警察が部屋に突撃してきて逮捕されると本気で考えていた。そしてとても気持ち悪かった。いつ吐いてもおかしくなかった。友人も気分が悪かったようで、「吐いても引かないでね!」と言っていた。
     そこからはひたすら気持ち悪さに耐える時間だった。完全なバッドトリップだ。クーラーの風が直撃しているにもかかわらず、体が燃えるように熱かった。異常なほどに喉が渇いており、口の中だけでなく気道までカラカラだった。いちばん辛かったのはめまいである。円を描くようにぐるぐると回っており、「これが回転性めまいか。回転性はなんの病気で起こるんだっけ?」なんて考えていた。自分の体も周りの景色も同時に回転しており、気持ち悪さで気が狂いそうだった。目を開けていた方がまだマシだった。体が回転しながら上下に揺さぶられる感覚もあった。
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脳内はこんな感じで、自分の体が揺さぶられながらこの文字が浮かび上がっていた。

    思考回路も完全におかしくなっていた。常に頭の中で言葉が溢れて止まらなかった。次々と話題が転換されていき、考えがまとまる前に次の考えが浮かぶ。超高速で何かを考え続けている感覚だった。ADHDを公表している令和ロマンの髙比良くるまもこんな感じで思考が溢れているのかな〜〜と考えた記憶がある。
    このように高速で何かを考えながら、同時に様々な情景が浮かんでいた。いわゆるサイケデリックアートのような景色だった。大きなひとつの目から波打つ光線が放たれていた。それらは全て虹色だった。

    途中で友達が起きて私の様子を見に来てくれた。私があまりにも静かだったため、死んでしまったのではないかと心配になったらしい。大丈夫だよ、と言いつつも恐怖は大きく、友達のベッドで一緒に寝させてもらいたいと頼んだ。2人で抱き合ってベッドに入った。友達が私に腕を回してくれているが、私の体は上下に動き続けている感覚だった。実際に動いているのではないかと思い、怖かった。

    あまりの気持ち悪さと自分の異常さによって、自分は死んでしまうのだと本気で考えていた。このまま眠ったら目覚めることは無いと思っており、眠ることができなかった。思考の核は恐怖であり、常に怯えていた。このまま2人とも死んでしまった場合、明日にはホテルのスタッフに発見されるだろうな、そして“バンコク市内のホテルで女子大生2人が抱き合ったまま死亡”とニュースになるだろうかと考えていた。親不孝な娘たちだなと申し訳なくなった。

    朝早くに目が覚めた。まだ気持ち悪さは残っていたが、症状はかなり収まっていた。私は洗面所に行って化粧を落として歯を磨き、シャワーを浴びた。かなりスッキリすることができた。しかし、昨日の出来事が本当なのか、夢ではないのかという怖さと絶望は消えなかった。

    水がとても美味しく感じた。朝ごはんに買ったとても甘いドーナツとジュースも美味しかった。

    友人も起きてきたが、昨日あったことを話す気には全くなれなかった。思い出したくない、口に出すのが怖い、夢だと思っていたいという感情だった。友人はあまりそのような感情はないのか、少しずつ昨日のことを話していった。私の奇行の数々も現実だったことがわかり、再び絶望した。全て終わったはずなのに、怖いという感情が大きく残っていた。結局その後、自分からその日のことを口にはしなかったし、酒を飲む気にもならなかった。カオサン通りのクラブやバーに行くという計画もうやむやになった。友達はそれらを楽しみにしていただろうから、申し訳なかった。

   その日の朝や日中もふとした時に自分が上下に揺れている感覚があった。タイの暑さも相まって一日中気分が悪かった。

    総括としては、今回は完全なバッドトリップであり、楽しい部分もあったがそれ以上に辛さが大きかった。食べてすぐには効果が出ない大麻クッキーは、量の調節が難しくて効果が強く現れてしまうケースがよくあるらしい。
    もう二度と大麻はやらないとはじめは考えていたが、しばらくするとその恐怖は薄まってきた。次にやるなら、吸うタイプで少量からやってみよう。そして、慣れない場所じゃなくてホテルなどの落ち着ける場所でやろう。昼間の明るい時間にビーチで吸うのもいいかもな、なんて考えている。とても愚かである。

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