秋風にのせて
いつのまにか蝉がなかなくなり、頬を抜ける風が少し冷たくなって、夜のにおいが変わり始めた今日このごろ。
大切な人を失った。
心にぽっかりと穴が空いている。
スースーすーすー、秋風が通る。
やっぱり秋は寂しい季節なのだと実感してしまった。
すごく胃が重くて、朝起き上がるのが今までよりずっと苦痛だ。
まるで身体が鉛になって、海底に沈んでいるみたい。
ただでさえ朝は苦手だというのに。
彼女は特別だった。
大人びていて、とても同級生とは思えなかった。
いつも自分のいくつか上の段階にいるようで、なんだかすごく憧れていた。
アイドルに抱く感情に似た、憧れの気持ち。
彼女の描く絵は、中学生だったわたしの心が震えるほどに美しかった。
表現の奥底に眠る彼女の想いが手にとって分かるように感じていた。
彼女の言葉のひとつひとつも大好きだった。
絵も文章も賢さもユーモアも、全部全部、
「ああ敵わないな」と思っていた。
卒業文集の彼女のページを読んだときの衝撃は、きっと忘れることはないだろう。
大好きなさくらももこ先生のような、あたたかくやわらかくも、ちょっぴり毒のある文章。
なんだか”教え″のような、”人生の心得″の数々。
大好きだよって、本当に憧れだよって、尊敬しているよって。
ちゃんと言えたらよかったのにな
次に会えるときが来たら言おうと決めていたのに、次がもう来ないなんて思いもしなかった
もう、会えない
もう、言えない
言わなくちゃいけなかったのにな___
憧れる、尊敬する友人というのは案外少ないもので、わたしにとって彼女だけがそれだった。
唯一無二のひとだった。
かと言って、すごく仲が良かったかと聞かれれば、それはノーだと思う。
一度も一緒に遊びに行ったことはないし、一度もじっくり話したことはない。
クラスが一度だけ同じになり、その一年で少し距離が縮まった。
ただそれだけの関係だった。
ただ、それだけ。
でも絶対に、それ以上の何かがあったことは間違いない。
卒業の日、彼女がくれた小さな手紙。
その中の言葉。
これが本当に嬉しくて。
自分という存在がだれかの救いになるだなんて思ってもみなくて、ほとんど初めて存在意義を感じた。
お互い同じ気持ちだったことを初めて知って、それがすごく特別に感じて。
言葉にできない特別な、大切な何かが確かに、確かにそこにあったのだ。
だから悔しい。
悔しくて悔しくてたまらない。
神様は素敵な人をはやく連れて行きたがるというけど、そんなの、ひどすぎる。
連絡も取り合っていなかった自分がどうこうできたかと言われれば、それは違うし。
でもどうしたってやるせない気持ちでいっぱいで。
わたしは未だにあのお手紙と思い出に救われているのに、どうして、どうして
どうして。
どんなに苦しい思いをしていたんだろうと思うと、胸が張り裂けそうで、今はごはんを食べていると突然涙が止まらなくなってしまう。
夜うとうとしていると、どうしたって思い出が鮮明にフラッシュバックして。
今日は授業を受けながらひっそり泣いてしまった。
物理的にも精神的にも、余裕は全然ないけれど感情は生モノだから、どうしても今この感情を、彼女を忘れない様に残しておきたかった。
大切だからこそ、彼女をつらい思い出として上書きしたくない。
あの頃の美しくあたたかな思い出はそのままに、ずっとそのままにしておきたい。
埃をかぶらないように、色褪せないように、
ずっと忘れないでいたい。
何度もあのお手紙を読み返してきたし、きっとこれから先もそうだ。
あなたはわたしの心に、わたしの人生に生き続ける。
秋風が吹いたら、きっと来年も再来年も、5年後も10年後もずっと、あなたを思い出してしまうことでしょう。
思い出す度わたしは、心でそっとあなたに
「ありがとう」を伝えます。
もうこんな後悔をしないように、きっと「いつか」があるなんてもう思わないように
あなたの分まで生きていきたい。
ああ今日も、寂しい風が吹いている。
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