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並行食堂in京都(4891字)

京都は府立芸術文化会館にて、シアターコントロニカコント公演「並行食堂」の13日マチネと14日マチネ大千秋楽を観てきました。

今作は私にとって初めての生・小林賢太郎脚本コント公演でした。初めて生で観たのがこの作品で良かったと心から思いました。
生でしか感じられない笑いの波動。横浜に始まり松本を経て京都に辿り着いたこの表現物はもはや生きていました。

感想はネタバレを含みますのでお気を付けください。
観劇して、配信で観て、特典映像まで味わい尽くした上で書きます。



京都到着

10月13日、日曜日。13:00着。

京都府立芸術文化会館は京都御所のすぐ近くの趣あるホールでした。
あまり広くないロビーにおしゃれな照明。
この会場では去年男声ブランコの単独公演がありました。都合が合わず観に行けなかったので、念願の場所です。
そしてここにいる人がみんな小林賢太郎作品の虜なのだ、という感動を得たのは去年12月に観に行った大阪の回廊とデコイ以来でした。

フォロワーさんたちとお会いしたりグッズを買ったりしたけれど、ずっとそわそわしていて気が気でなかったです。座席に座って、既に舞台上にセッティングされている小道具や照明、ホールの天井や壁をきょろきょろ眺めたりしました。流れている音楽が早々に私を並行食堂の世界に誘おうとしていました。そして私はただそれに逆らわず、始まるのを待ちました。

下手から現れた賢太郎さんは、12月に見たお姿よりどこかシュッとされたような気がしました。相変わらず綺麗なグレーヘアーと恰幅の良さに似合うグレージャケット、高い鼻に黒縁メガネ。
いきなり、客いじりから始まります。
「大丈夫ですか、お席はありますか」
「今この会場じゅうがあなた一人のことを待っています」
幾度聴いたか分からないポツネン氏のセリフ。
高まる興奮をなんとか抑え、脚本演出家の導入解説に耳を傾けました。
クロコ郎の前説もかわいくてかわいくて。中の人が口角上げて声を当てているのも見えて、なんとも。
始まる前から拍手に包まれるホールは不思議でかつ浮遊感をもっていました。

①居酒屋「呑」

まず、一本目の居酒屋「呑(のーむ)」。
まともに考えていたら疲れてきそうな理屈台詞から始まり、さあ何が始まるんだと思っているうちに着々と伏線が張られ、勢いのままに「「発進!!」」
引き込まれました。
レバー操作する辻本さんが面白すぎる。
竹井さんの風に煽られる新聞マイム上手すぎ。
配役ぴったり、きな子女将かわいい。
あとは、照明が面白かった。高架下なのかなと思わせるような、舞台天井のライティングが左から右へ流れていく演出。おしゃれ。映像だとやや分かりにくかったので生の特権だなぁと思いました。
はてさて、「のーむ」というのはnormということなのか、並行食堂の1本目にして基準点ということなのか…。最後のコントで竹井さんが遡るようにコントを振り返るから、そうして帰着するところもまた1本目の、のーむ。

②パラレル・ワード

事前に長野ローカル番組でちらっと内容を見てしまって、これは…!と思っていました。
同音異義の交錯、コントロニカバージョン。
寸分違わぬセリフの交錯に演者の方々も苦戦していたようでしたが、私には完璧に見えました。言葉の面白おかしさを詰め込んで、しっとり笑える頭のいいコント。でも、きな子さんが「出来上がったものがこれです」で食材を机の下に押しのけちゃうところとか、直感的な笑いも含まれていて最後まで面白かったです。
竹井さんが支離滅裂な言葉を羅列するシーンがありますが、そこに光る竹井さんの技巧にやられました。意味のない言葉をまるで大いなる意味を孕んでいるかのような勢いと抑揚で語りきる感じ。
「千枚通しがホォホケキョ」、これ、凄すぎた。13日観劇初回ながらすげぇーーとなりました。エッジの利きすぎたウグイス。何の意味もないのに。もはや感動してしまいました。

ああ小林作品を観に来たんだなぁと改めて思わされるコントでした。
そして以降のコントでつい竹井さんを目で追ってしまうきっかけとなりました。

③雰囲気

おもしろい。多分一番笑ったコント。
だって本当に如月レンもとい松本さんは雰囲気があるし、山田三太郎もとい辻本さんは雰囲気がないんですもん。可視化できない共通認識を笑いの引き金に使うという、抽象性がありながらも単純な組み立てで素直に笑ってしまいました。
お二方とも、舞台を歩くだけで笑いが起こる。特に辻本さん。観客がネタの意図を理解するのと同時に雰囲気のない男がニコニコ歩いてきて、ニコニコ去っていく。笑わせようという強引さがなく、誘導されるように会場が沸き立つ感じは本当に楽しかったです。それが、当て書きの強みだとも思いました。
雰囲気玉は乾いたら効果が切れる、というのもなんかしっくりしまって面白い。そんなものないのに。雰囲気のない人はカラッとしているということなのかな。

あと、ミワケガツカナイの姉弟がまた見られたのも嬉しかったです。この組み合わせかわいいんだよなぁ。

④鰻

空間の広さを感じる漫才のような二人コント。
広いキャンプ場に男が二人、境界の甘い話をずーっと連ねる。漫才的だしラジオ的にも感じる心地よさ。啓さんの飄々感がまた良い。
出てくる単語がなんか違うのは分かるんだけど、実際正解は何だったのか意外と思い出せない。でもアルファードはすぐわかった。みんなそうなんだと思う、特に笑いが大きかったから。

石食べようとして啓さんが進化を諦めた後の静寂、好きでした。川のせせらぎ、鳥の声すら聞こえてきそう。何とも言えぬ虚無感。
そして認識とどんどんズレていく鰻重の概念。どこまでズレるんだろうと楽しくなってくる。
このコントに限ったことでもないですが、終わった後も同じ調子で彼らの時間が続いていきそうな感じが余白があって良いなぁと思います。

⑤料理教室

きな子さんかわいいーーーっ!と言わずにはいられない。

謎のワードを刷り込まれる男衆の表情の変化が面白くて面白くて。ここでもキレッキレの竹井さん。徹底してる。でっかくていかつい松本さんがメロメロになってるのもいいですな。
3人が喧嘩するシーン、配信では高崎さんが遠くから声を掛けてましたが千秋楽では直接割り入ってましたし、ぽこぽこ叩き合うのも尻尾追いかける犬みたいになってましたしで楽しかったです。
啓さんの3連ビンタの音も良い。普通に痛いんだなあれ。
異変に気付いたきな子さんの表情の切り替えと袖の落ち方もキマってました。笛で催眠するの、ペパランのふみさんのやつだ…!という喜びもあり。

終始かわいい・こわい・おもしろいでした。

⑥バー

松本さんときな子さんの組み合わせがこんなにお茶目でかわいいとは。
カクテルの名前が全然分からないというシンプルな構図の繰り返しですが、段々ヤケクソになったり着眼点が飛躍し始めるといよいよポンコツ感が際立って愛おしかったです。
ほとんど喋らない竹井さんから発される無言の圧も空間に響いてました。
小動物みたい!チューチューって!って小っちゃくはしゃいでるところほんとかわいい。お湯出た、って喜んでるところもかわいい。
ホームランバー、という難しくない言葉遊びも筋書きを付けると立派なコントになるんだなと実感しました。

この世界線のお2人は雰囲気ない側だなぁと思ったけど、この世界線に雰囲気玉があるとは限らないのか。便利だな、雰囲気玉。

⑦透明店長

結構自由度を感じるコントでした。
高崎さんは、掴みどころのない謎キャラをやらせたらピカイチだなぁと思います。理屈の通ってない教訓を語り、ええ声で謎略語を放つ。なぜか透明だし、なぜか進化する。翻弄される店員3人のあたふたっぷり。

そしてきな子さん、かわいい(定期)。
店長でーす!の言い方も行くぞっ!もかわいい。13日は袖から演出家氏引っ張り出してくるし、千秋楽ではバイトさんが転んだやり始めるし、縦横無尽。店員3人が幼稚園児を追いかけるお父さんたちみたいでした。

最終形態を大玉にしちゃおうって、何気に凄い発想だと思います。
私もやってみたい、〇〇アターック。

⑧モクギョ

回廊そば枠。回廊を配信で観てから絶対生で見たいと思ってたタイプのコントでした。

漁師たちが揺れて舞台上が船上であることが見えてきて、ナレーションが流れてくるともうNHKドキュメント。真剣な顔して高崎さんが捕まえてきたモクギョはチャンスハンターのチャンス的な謎感。知らない生き物を獲る知らない漁の知らない手順。漁師は、真剣。

竹井船長の大声絞めからの清めの御神酒。配信では普通に振りかけていたお酒、京都では船長が口に含んで吹きかけるかと思いきや飲んじゃうという展開になっていました。初見で意図が伝わるマイムの上手さに脱帽です。

飛び込んで刺さって、一体私は今何を見せられているんだろうという気持ちと次は何をするんだという期待がせめぎ合う。そのカオスをそのまま受け入れて観客は拍手をする。小林賢太郎流コンテンポラリーの一端を感じました。テレビ番組オマージュなのにライブ感が強いのが不思議で、きな子さんの落ち着いたナレーションがなんとかそのテイを保ってくれていました。
メイキングを見るのも楽しくて、これが本当に台本なしで形作られているという事実すら面白いです。

これのせいで木魚を見たら笑ってしまうようになってしまったな。

⑨パラレル・レストラン

ツッコみどころ満載で、ただただ楽しいままに着地していくコントでした。

最後のコントにして、1本目と同じく竹井さんがお店のドアを開けて入店するところから始まる。止まらないベル、不思議なウェイター、変なメニュー。普通のレストランのようで、あらゆる要素がヘン。
イヤイヤ期の店長はかわいいし、寸胴鍋くんは言わずもがな。名言風白髪おじさんと、ありがとうございますしか言わないお付きの者。キャラが濃い。
個人的に、センターに歩いてくるだけで面白い寸胴鍋くんがずっとツボです。啓さんフィーバータイムもずっとニコニコで。
啓さんのダンスは毎公演変えてたと聞くと、全部見てみたくなります。千秋楽、「疲れた」って言ってましたね。ほんとに疲れてる「疲れた」で演者爆笑。ずっと耐えてた竹井さんすら笑ってたから、あの瞬間会場が一体化していました。

遮られてしまうモノローグをちゃんと聞くと、一貫して竹井さんはこのレストランや店員を否定していない。そこがミソなんだと思います。空間がずっとヘンでずっと優しかったです。

生で見た場転の凄さ

生でコント公演を観て生で場面転換を観るのが初めての私にとって、改めて新鮮な経験でした。
タングラムのようなパネルによる抽象化と、無駄のない動きでスマートに進む場転。自分のお笑いサークルの単独でわちゃわちゃ転換をしているところが思い返されて、暗転下まで研ぎ澄ますことの意義を体感しました。

並行世界の解釈

並行世界という概念は小林作品において定番どころの一つ。
しかし、今作で表現された並行世界は”ほとんど鏡写しの別世界”というよりは誇張した”海外旅行”に近いと感じました。

見知らぬ世界線にはその世界の当たり前が存在し、日常がある。
そこに乗り込むということは、それほどに刺激的で困惑こそする。
でもそうした体験が心を満たしてくれる。
何も食べていないのにお腹がいっぱいになる。

今作において別の世界線という概念は恐らく「行こうとすれば行ける場所」で「行ったことがない人もいる場所」。
それを好き好んで嗜む竹井さん演じる男は、その楽しみ方を熟知しているのだと思う。最後には異質さを受け入れ、非日常の中の日常を認識している。
そういうところに公演全体としての温かみみたいなものを感じました。

しかしモノローグは邪魔される。
不憫な竹井さん。良い。
モノローグにも笑いが被さってくるから、あまりしんみりしない公演でずっとお腹がいっぱいでした。

小林賢太郎作品は多分、回廊以降明確に今までと異なるフェーズに入っているんだと思いました。
配信が終わってしまうのが本当に勿体ない。
期待以上に楽しい観劇体験でした。
また!

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