雨の記憶 page3
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彼女が来店して30分くらい経った。
今日も他にお客さんが来る気配はなく、彼女と俺、二人だけの空間はしばらく変わりそうにない。
落ち着いた空間を背に、彼女が頼んだ当店のオリジナルブレンド抽出し、デザートの甘さ控えめなショコラケーキを用意する。
そして珈琲が出来上がる間は、カウンターから彼女を眺める。
もちろん、さりげなくだが。
小さなクラシックが流れる中、彼女のペンはスラスラ動いている。
教科は、、化学か。苦手なやつだ。
数分して、珈琲が出来上がり彼女の席へ運びに行った。
席に行くと彼女が渋い顔をして手を止めていた。
手元を見ると教科書が数学に変わっていた。
「お待たせいたしました。ブレンドとショコラになります。ぜひ、一息つかれてください」
心臓バクバクだったが、勇気を出して一言加えることができた。
思い詰めているときに、苦い珈琲と少し甘いショコラは頭と心の整理には最適だ、と個人的には思う。
「ありがとうございます。そうさせていただきます」と彼女は教科書を閉じた。
「これはサービスです」とバームクーヘンもつけてみた。
キモかったか?余計なお世話だったか?と内心すごく不安だったが、「いいんですか?ありがとうございます」と笑みになっていたとこを見ると報われた気がした。
時間は16時を回っている。
閉店まで4時間、いつまでいるのかはわからないが、がんばれと思いながらカウンターに戻った。
ちなみにサービス分は、俺の自腹である。
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