28.写真の中の「明るさ」と「暗さ」を考える(光の足し引きの話)
人物を主役に撮影するときには、「被写体の明るさ」を調節すると同時に、「背景の明るさ」も調節する必要がある。
人物をきれいに写しつつ、背景を明るくするか、暗くするかによって、写真の印象、表現は大きく変わってくる。
今回、ヘッダーに設定した二枚の写真は、どちらも同じスタジオの、同じ背景を使用している。(ものや布の配置は変えているが)
二枚を見比べてみよう。
二枚の写真を見比べると、背景の明るさが大きく異なって見えるのに比べて、人物の明るさには、極端に大きな差がない。
このように、人物の明るさをある程度保ったまま、背景の明るさを調節するためには、人物と背景、それぞれに対して、光の「足し算」と「引き算」を行い、バランスを取る必要がある。
そこで、今回はどのような調節をすれば明るさ、暗さのバランスを取れるのか、光の「足し算」「引き算」をどのように行っていくのかを書いていく。
①写真全体の光の「足し算」と「引き算」
まず、写真全体の光を「足す」ためには何をすればよいのだろうか?
①-1.光の条件を変えたり、カメラ設定で露出を変える
「画角全体を照らす大きな光源を用意する」という方法が一つ。
最もわかりやすい例でいえば、閉め切られた暗い部屋で、天井の照明を点けたり、カーテンを開けたりする、などが分かりやすい。
ただ、カメラ設定、特に絞り(F値)とISO感度で「露出を上げる」のが手っ取り早く、誰もが行っている方法と言える。(限度はあるが)
暗くしたい(光を「引く」)場合はその逆を行えばよい。
また、太陽光や蛍光灯、街灯、LED光などを用いる「定常光撮影」の場合は、シャッター速度での露出設定も写真全体の光の「足し引き」に影響する。
①-2.シャッター速度での露出変更での注意点
カメラ設定で露出を変える際、シャッター速度での露出変更には注意が必要だ。
ストロボによる閃光を用いた「フラッシュ撮影」の場合は、シャッター速度での露出設定は、ストロボの閃光による明るさにほぼ影響しない。
(ストロボの発光時間は、1/80000秒〜1/250秒ほどであり、シャッター速度よりも短い時間しか発光しないため)
このほか、シャッター速度が速すぎると、高速で点滅している光源(蛍光灯やモニターなど)の場合、シャッターを切るタイミングによって明るさや色にムラが出てしまうことにも注意しよう。
たとえば、蛍光灯は1秒間に100〜120回点滅しているため、1/100秒より速いシャッター速度に設定した際に、明るさや色にムラが出ることがある(フリッカー現象)。
②部分的に光を「足し引き」していく
ヘッダー画像のように、写真全体ではなく、「人物を明るく(暗く)」したり、「背景を明るく(暗く)」するためには、部分的に光を足し引きすることが必要になってくる。
②-1.光源の距離と方向で「光の差」を作る
ライトを配置するときに、ライトと人物(被写体)との距離と、ライトと背景との距離に差をつけることで、それぞれに当たる光の強さに、差を作ることができる。
つまり、被写体だけを明るくし、背景を暗くしたい場合には、背景から被写体を離し、被写体にライトを寄せて、当てるということ。
また、光の中心を背景に向けずに画角の外側へ向けつつ、被写体だけに光が当たるように調節することで、光の差を大きくできる(背景への「引き算」)。
これらを組み合わせることで、被写体に当たる光はより強く、背景に当たる光はより弱くなる。
強い光が当たっている被写体に露出を合わせる場合、写真全体の露出を下げる(全体への「引き算」)必要がある。写真の中で被写体の明るさはそのまま、背景だけを暗く落とすことができる。
上の画像のように、カラーシフトや、カラーフィルター付きのライトなどで背景に色を付けるときにも、暗い部分のほうが色を乗せやすくなるので、この方法を併せて使うのがおすすめだ。
これらの内容については、光の強さは何で決まる?(被写体に対するライトの「当て方」の話)においても説明している。
また、背景を明るくしたい場合は、その逆で、人物に当たるライトを弱くして、背景側に強めのライトを設置するのがおすすめ。
こちらの写真では、背景側の天井に強めのライトを向け(背景への「足し算」)、人物へのライトを弱めに設定(人物への「引き算」)している。
カメラ設定で露出を上げ(写真全体への「足し算」)、背景全体を、本来よりも明るくした。
「背景を照らすライト」と、「人物を照らすライト」は、距離や方向によって相互に作用してくる場合もあるので、それぞれのバランスを考えながら組み立てよう。
②-2.光を遮ったり、足したりして「光の差」を調節する
ライトに、ソフトボックスや、スヌートなどを付けることで、光の範囲を制限し、人物や、一定の部分だけを照らすことができる。
こちらの写真は、全身を写せる鏡(姿見)にライトを反射させたものを、画面左側手前に配置し、メインライトとして使用。
鏡の角度で反射の範囲を調整し、人物を照らしつつ、画面左側の背景だけを暗く、右側の背景だけを明るくしている。
また、スタジオ内に窓などがある場合は、カーテンやカポックなどで窓を塞いだりして、不必要な箇所の光を遮り、窓からの光が影響する部分に「引き算」を行うのも有効だ。
この撮影の時も、画面左側に窓があったので、スタジオに設置されていた窓枠型の黒い板で塞いでいる。
また、背景側を暗く落とした写真を撮影するときに、前ボケをそのまま入れてしまうと、背景を暗くした分だけ前ボケも暗くなってしまうため、前ボケのためのライトを設置するのがおすすめ。
こちらの写真では、背景を暗くしつつ、画面左上と右下の前ボケ(花)にもライトを当て、光を足している。
カラーシフト時には、前ボケに当てる光の色も、人物用のメインライトの色に揃えるのがおすすめ。
このように、部分的に光を足す際、人物や背景など、余計な部分にはできるだけ光が影響しないよう、遮ったり、向きや距離での調節が必要になる。
こちらの写真では、煙に見立てた手前の布を照らすオレンジのライトを、人物にも影響させることで、下からの炎で照らされている様子をイメージ。
このように、表現次第では、光を影響させてもよい。
③まとめ
つまり、光の足し算・引き算で写真の各部の明るさを調整する場合、基本的には、「被写体へのライティング」と、「背景へのライティング」(+前ボケなどへのライティング)を分けて考えられるように、被写体と背景との距離を空けておくのがオススメだ。
上のようなプロジェクター撮影などでもこの方法が応用できる。
この撮影では、シャッター速度を下げることでプロジェクターの像の明るさを確保し、人物だけを照らすライトを配置している。
ライトの配置や角度や強さ、あるいはカメラ設定をどのように変えるか、光の条件をどのように変えるかによって、各部への光の影響が変わる。
写真の中の明るさを上手く足し算・引き算して、表現の幅を広げよう。
🌟💡⚡<僕たち影が薄いんで……
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