35.動きの表現・「ひらみ」を考える②(「ひらみ」を作るための動かし方)
「静止画」の中での動きの表現としてコスプレ撮影で大切になる、衣装や髪などの「ひらみ」。
今回は撮影アシスタントなどで、実際に「ひらみ」を作るときの動き方や注意点をまとめてみる。
【ヘッダー写真 アルトリア・キャスター:袴さん】
ひらみアシスタント:どぺろさん&水槽学
前回→22.動きの表現・「ひらみ」を考える①(動きの原因をイメージして、流れを作る)
前回は「ひらみの形に対して、理由をイメージする」内容を記した。イメージできた形を具現化するために必要な、「ひらみの形をどう作るか」を深堀りしていこう。
今回は「レイヤーさんに実際に動いてもらって作るひらみ」よりも、「レイヤーさんが動かずにアシスタントやカメラマンが作るひらみ」をメインで扱う。
本記事では練度を問わず、「ひらみを作成する人」のことを便宜上「ひらみ職人」と呼称する。
1.「ひらみ」をきれいに見せる「3原則」
まず、コスプレ撮影などでひらみ職人として「ひらみ」を作成する際、個人的に意識している中で、特に大切な、失敗しやすいポイントを3つにまとめてみた。
※なお、「3原則」というのは僕が勝手に言っているだけなので、叩かないでください痛いです。
1-1.引っ張らず、ゆとりをもった状態で始める
衣装やウィッグなどを引っ張ると、傷んだり、ずれたりしやすくなるので、引っ張ってはいけない。
それだけでなく、引っ張られたゴムがパチンと戻るように、引っ張られた布などには「戻ろうとする力」が働くため、広がらず、むしろ縮んでしまう。
そのため、ひらみ職人が「ひらみ」を作成する直前には、布やウィッグがピン、と張る状態にせず、ある程度たわむように、ゆとりを持たせておく必要がある。
1-2.上に吹っ飛ばさず、横に広げる
ひらみ職人として「ひらみ」を作る際に、衣装やウィッグなどを上に大きく投げてしまう方も多い。
たしかに、上に投げれば滞空時間は稼げるため、写真内で衣装やウィッグが浮いた状態の写真が撮れるが、不自然に跳ね上がってしまったり、「ひらみ」全体のラインがきれいに出ないことが多い。
ひらみ職人をする際、まずは「ひらみ」全体のラインを意識して、どのように動かすかを考えてみよう。
※カメラマンは特に、イメージ共有が大切!
「上」への広がりではなく、「左右」への広がりを意識して、横や斜め下方向に流すような「ひらみ」を基本として考えるのがおすすめだ。
1-3.まとめず、バラけさせる
ロングヘアのウィッグや、衣装に「ひらみ」可能なパーツが多い場合などは、まとめて動かしてしまうと、そのボリュームを充分に活かせない。
ウィッグをバラけさせるイメージに関しては、「1-2.上に吹っ飛ばさず、横に広げる」で紹介した写真を参照いただきたい。
複数人の手を借りて個々にひらみの流れを作ったり、もし手が足りない場合でも、人間の指は左右に5本あり、指の隙間が4つずつあるので、可能な限りバラけさせられるようにしよう。
2.「ひらみ」を作るための動かし方
先の章では、ひらみ職人がどのような点を意識するべきかを示した。
ここからは、実際に動きをつけるための動かし方を4つ、紹介していく。
2-1.全体に動きを伝える(上げて下げる)
手首のスナップを使い、素早く上げて素早く下げる。
わかりやすく言えば、タオルや布団などをバサッと一動作で広げるときの動き。
この動作により、波を伝えるようなかたちでウィッグや衣装全体に動きが伝わりやすくなるとともに、衣装やウィッグの端が不自然に跳ね上がることも少なくなる。
マントなどの大きい布でも、この動作で空気を含ませると、全体に動きが出しやすい。
また、この動作を「上と下」ではなく、「外側と内側」に応用すると、カーブを作ることができる。
そのため、通常の動作では画角外に出てしまう「ひらみ」を画角内に戻すこともできる。
2-2.腕や手、指の上をすべらせる
根元や真ん中ぐらいから、ひらみ職人の画角外への退避とともに、腕や手、指の上を滑らせる。
タイミングが合えば綺麗に流れるような曲線を描けるのが特徴。
スムーズに滑らせられるかどうかが重要なので、途中でひっかかったり、絡まったりしないように注意しよう。
動作がシンプルながらも効果的なため、いわゆる「セルフひらみ」(レイヤーさん自身がひらみを作ること)でロングウィッグなどを動かすときにも使いやすい動作。
パーツが多い場合にも、腕などの上にまとめて、上を滑らせることで、確実に同じ方向の流れを作ることができる。
2-3.空中に「置く」
ひらみ職人が衣装やウィッグなどを少し引っ張り、手を離すと、衣装やウィッグはそのまま落下していく。
しかし、手を離す直前で少しだけ上に浮かせるように動かすことで、一瞬、衣装やウィッグが空中に静止する。
これを「空中に置く」と呼んでいる。
引っ張られる力などがかかりにくいため、ウィッグや衣装にかかる負荷を少なくできるのも特徴。
広義では、画面外でひらみ職人が写らないように衣装やウイッグなどの端を保持したまま撮影することや、テグスなどで空中に固定することも、空中に「置く」ことによる「ひらみ」の使い方とも言える。
2-4.揺らす
ウィッグや衣装などの端、あるいは根元を揺らすように手放す方法。
どこを持って「揺らす」かによって、「ひらみ」の形がベストになるタイミングが変わってくる。
髪などをバラけさせるには、指の上などを滑らせるよりも、髪の半ばや毛先を撫でるように「揺らす」ほうが自然な形を得られる。
シャンプーのCMみたいな「サララララーン」が理想的だ。
「揺らす」動きが伝播するまでに僅かなタイムラグ(コンマ数秒)があるため、ひらみ職人退避の成功率が上がるのも特徴。
また、このコンマ数秒でポーズを作りなおしやすいため、「セルフひらみ」にもおすすめだ。
3.「ひらみ」の高さを工夫する
撮るタイミングによっても「ひらみ」の高さは変わってくるが、一番の要因は、ひらみ職人が手を離す位置の高さ。
ひらみ職人が立ったまま頭の高さで離すのか、体勢を低くして腰の位置で離すのか、しゃがんだ状態で膝より下で離すのかによって、「ひらみ」の形も全く変わってくる。
また、画角によっては、高めの「ひらみ」を作るほうが良い場合もある。
例えば、上半身のアップを撮るときに作る「ひらみ」が低すぎると、画角内に入る「ひらみ」が少なくなってしまう。
また、たとえば横写真で遠めの画角を撮る場合、ポーズと合わせて「ひらみ」で空間をカバーする。
画角内に「ひらみ」は多ければ多いほど迫力が出る。
一つ一つの動きが理にかなっているか、なぜ動いているのかのイメージとすり合わせながら、理想の「ひらみ」を作っていこう。
🏁<声かけはもちろん、衣装やウィッグの強度などもチェックしたうえでレッツひらみ職人!