36.「1灯ライティング」を制する者は、ストロボライティングを制する(人物撮影ライティングの話)
ストロボ(スピードライト)1灯での人物撮影は、配置や環境、強さの調節によって、陰影を活かしたり、強い光源を一つにしてナチュラルな風合いを目指すなど、様々な使い方ができる。
【ヘッダー写真 クリームヒルト:リヒコさん】
(F2.8 1/200s ISO320)オレンジフィルターを入れたストロボ1灯を全身鏡に反射してライティング。
人物撮影の中でも、特にコスプレ撮影では、ライトを2灯以上使用する「多灯ライティング」が多用される。
また!人物撮影ライティングの基礎は、「ストロボだけですべての光を組み立てること」と言われる方も多い。
そのため、カメラマンデビューと同時に、いきなりストロボ3灯や5灯からスタートした、というコスプレカメラマンの方も少なくないのではないだろうか。
だが、ストロボが不具合や電池切れなどで一つしか使えなくなったとき、あるいは、場所などの制限で1灯しか使えないとき……
そこで撮影を「諦めます」と言ってしまうのはもったいない。
また、「ストロボだけですべての光を組み立てる」ことは、どちらかというとバック紙等の撮影での考え方に近かったり、「場の全ての光」を支配できるほどの機材が揃っていることが前提となってきたりするため、全てのシチュエーションにおいて当てはまるわけではない。
スタジオやロケーションなどによって、また、使用する機材によって、環境光を活かすべきか、それともストロボで光を支配するべきかなど、選択肢は広く持つほうがよい。
そのため、「ストロボ1つからお試しで始めてみた」初心者はもちろん、「多灯が基礎」の組み立てができる中級者にとっても、「ストロボ1灯で撮影する」という選択肢は、常に頭の中に置いておくべきだ。
そこで、今回は「ストロボ1灯」での表現方法や考え方をまとめてみる。
また、カメラの上にストロボを直接取り付ける「クリップオン」ではなく、カメラにコマンダーを取り付けて遠隔で発光させる「オフカメラ」でのライティングを主に取り扱うことをご了承願いたい。
①「ストロボ」は「表現の幅を広げる」機材
ストロボは「照らす」ためだけの機材ではなく、「光を足す」機材だ。
人物撮影の基礎は「人物の顔を明るく撮る」ことだが、それは必ずしも「顔をストロボで照らさなければならない」という意味ではない。
たとえば、自然光の環境下の撮影で、人物の顔に直接の光が当たっていない場合でも、カメラの露出を調整すれば、充分に「人物の顔を明るく撮る」ことができる。
ここで、ヘッダー写真をもう一度見てみよう。
1灯撮影をする場合にはなおさら、ストロボを「人の顔を明るく撮るためだけのもの」として捉えてしまうのはもったいない。
カメラに直接ストロボを取り付けると、新聞記者さんのような形で、記録に適した撮影はできるが、カメラに専用のコマンダーを取り付け、ストロボをオフカメラで使用すると、任意の場所に光を足せるようになる。
光を自由に足し、「表現の幅を広げる」ことができるのが、ストロボの最大の利点なのだ。
②ストロボをどこに置き、何に向けるか
同じストロボ、同じパワーであっても、ストロボをどこに置くか、どこに向けるかによって、写真での表現は全く変わってくる。
②-1.被写体の手前に置き、人物に向ける
人物の斜め前から、人物を照らすとこんな感じ。
スタジオライティングでは一番基礎とされる照らし方で、ライトは顔より少し高めの位置がよいとされる。
この状態をベースに、ストロボの方向や位置、人物の向きなどを調節し、陰影の出方を調整することができる。
いずれ多灯にステップアップするなら、1灯での光の当たり方に対し、どのように他の光を足していくかをイメージすることも大切になる。
また、この使い方では、ストロボにはソフトボックスやアンブレラなどを取り付けて使用することが一般的。
上の画像のように、スタジオの背景の明るさを活かしたい場合、特にネオンライトのようないろいろな色がミックスされた環境では、カメラで露出を上げても、人物の肌色を綺麗に写すのが難しい。
また、背景だけが明るい環境では、そのまま人物に露出を合わせると、白飛びしてしまうケースも多い。
そこでストロボの出番!
顔などの主要な部分を、弱めのパワーに設定したストロボで照らしつつ、背景の明るさとのバランスを取ることも可能になる。
この手法は、スタジオ内の光源を活かしたい場合はもちろん、夜景などを活かすときにも役立つ。
また、自然光の環境下では、半逆光や逆光の状態で、ストロボを補助光として顔の明るさを起こすことで、同様に、背景(特に空など)と被写体との明るさのバランスを取ることが大切になってくる。
②-2.被写体の後ろに置き、カメラや被写体に向ける
被写体の後方にストロボを配置することで、カメラや被写体に向けることで、被写体・背景に限らず画角全体を明るくしたり、光のアクセントを作ることができる。
ポイントは、「光ができるだけ被写体の後頭部に当たるようにする」こと。
つまり、「顔への光を直接当てない」ことで、顔に不必要な陰影が出るのを防ぐことができる。
夜の雨ポートレートなどでは、画面奥からの光で水粒を照らすことで写真の中にキラキラとした雨粒が写るため、被写体の真後ろにストロボを隠す形がよく使われる。
②-3.環境光を偽造する
ここからは、ストロボによって作られた光に意味付けをして、「環境光」として演出・表現する手法を紹介していく。
被写体に対してはもちろん、背景などに対しても、光がどのように影響するかをイメージしよう。
上の写真のように、鏡に反射した場合、光の質を変えたり、光の範囲を狭くしたりできる。
画角内の主要な要素(上の画像であれば人物と桜の枝)に影響するように配置することで、自然な光に見せることができる。
時間帯によるが、オレンジフィルターは薄い色のものを使う方が自然光っぽくできる。
上の画像のように、部分的に影を作ると、部屋に差し込んできたような自然な光源として演出しやすくなる。
ストロボを設置することでどこに影ができ、どこが明るくなるのか、常に注意しよう。
③1灯を制する者は多灯を制する
どんな状況においても1灯ライティングの考え方は役立ってくる。
「一番強い光」あるいは「環境光に対しての補助光」「演出のための光」など、1灯の使い方波はさまざまだ。
だが、どの使い方であっても、ストロボ1灯での考え方ができれば、多灯ライティングを組み立てる際にも、「1灯で足りない箇所に光を足していく」考え方ができるようになる。
結局最後に役立つのは、「1つの強い光源を使いこなせるかどうか」の感覚、つまりストロボ1灯を使いこなせるかどうかなのだ。
🔋<でも忘れ物はしないようにしよう
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