EUを知る「欧州新産業戦略」を知る / サーキュラー・エコノミーの実践的すすめ
環境問題を考えるにおいて、トップランナーともいえる欧州連合の活動は無視できません。今回は基礎知識ともいえるその部分を解説します。
まずは・・・「欧州グリーンディール」を知る
「全ての政策分野において気候と環境に関する課題をチャンスに変え、欧州連合(EU)経済を持続可能なものに転換し、その移行を全ての人々にとって公正かつ包摂的なものにするための行程表」と位置づけられる「欧
州グリーンディール」(European Green Deal)は2019 年 12 月 11 日、政策文書としてまとめられました。
その特徴としては、、
・環境政策のみならず社会政策・経済政策の特色を持っていること
・EUの気候変動政策が他の国や地域に影響力を与え、世界的なリーダーを目指すこと
・さらにEU域内産業が国際的に経済的競争力をもつことで経済発展も目指すこと
という内容となっています。まさに環境問題という人類的なピンチをチャンスに変えるというしたたかな欧州の戦略といえます。
また、デジタル時代にふさわしい欧州を実現するため、欧州委員会は、「欧州デジタル戦略」(Shaping Europeʼs Digital Future)を2020 年 2 月 19 日に公表しています。
この「欧州グリーンディール」と「欧州デジタル戦略」に基づいて、グリーン化とデジタル化を実現するための産業支援策として、欧州委員会は欧州新産業戦略と新循環経済行動計画を策定しています。
世界的な潮流を理解する上で、その2つは理解しておくべき重要な資料といえます。
では、欧州新産業戦略からみてみましょう。
「欧州新産業戦略」を知る
「欧州新産業戦略」(New Industrial Strategy for Europe)は、2020年3月10日、政策文書として公表されています。
https://ec.europa.eu/info/sites/default/files/communication-eu-industrial-strategy-march-2020_en.pdf
概要:
①環境問題など地球の持続可能性の確保を目指すグリーン化
②新たなデジタル技術を有効かつ安全に活用するデジタル化
この「2 つの移行」(Twin Transitions)を先導するための支援を積極的に行い、EUの産業競争力を高めることを目指すという内容です。
第1章、第2章
欧州の産業の強みと弱みを整理した上で、次の3つを戦略の推進力としています。
・欧州単一市場の強みを土台として、域内外の自由で公正な競争を促進すること
・気候中立を実現するため、全てのバリューチェーン(産業界全体)のグリーン化とサーキュラーエコノミー(循環経済)への移行を政策的に支援すること
・産業の生産性を向上させ、グリーン化にも資するデジタル化について、技術開発とデータの適切な活用を促進すること
第3章から第5章
第3章、第4章及び第5章のそれぞれを実現するため、個々の具体的な施策が列挙されています。
注目は「3.4循環経済への推進」。
”すべてのセクターや産業に循環経済の原則を適用することで、2030年までにEU全体で70万人の新規雇用を創出する可能性があり、その多くは中小企業である。EUはこの分野ではすでに十分な地位を築いており、今後は先行者としての優位性を強固にすることに注力すべきである。新循環経済行動計画の中心となるのが、新しい持続可能な製品政策の枠組みで、すべての製品に持続可能性の原則を設け、欧州の産業の競争力を高めることを目指す。
影響の大きい製品グループを優先し、共通の充電器に関する取り組み、循環型電子機器の取り組み、バッテリーの持続可能性に関する要件、繊維部門における新たな施策などを実施する。
また、アクションプランには、消費者が循環型経済においてより積極的な役割を果たせるようにするための施策も含まれており、消費者は、再利用可能な製品、耐久性のある製品、修理可能な製品を選択するために、信頼できる適切な情報を受け取るべきである。欧州委員会は、消費者の「修理する権利」の実現に向けて取り組むことを含め、消費者の権利と保護を改善する方法を提案する。
EU機関を含む公的機関は、環境に配慮した商品・サービス・作品を選択することにより、模範となるべきである。このグリーン調達を通じて、持続可能な消費と生産への移行を先導することができる。欧州委員会は、グリーン・パブリック・パーチェシングに関するさらなる法律とガイダンスを提案する予定である。”
この部分にフィーチャーし、別立ての文書で発表したのが新循環経済行動計画となります。
第6章
この「欧州新産業戦略」は、2つの移行(グリーン化とデジタル化)を支援し、EUの産業の国際競争力を高め、欧州の戦略的自律性を強化する産業政策の基礎を築くものと位置づけしています。また、今後の変化が社会的に重要な意味を持つことを考えると、社会的パートナーや市民社会との対話が不可欠であるとも指摘しています。
EUとその加盟国・地域、産業界、中小企業、その他すべての関連するステークホルダーが新たなパートナーシップのもとで共通のコミットメントをすることによってのみ、欧州は産業変革を最大限に活用することができることを結論としています。
次号では、「新循環経済行動計画」を解説します。
数藤 雅紀 suto.masanori@members.co.jp
University of Cambridge Judge Business School, Circular Economy & Sustainability Strategies修了認定、循環経済戦略プランナー
参考資料:
https://www.csreurope.org/sustainability-booster/the-european-commission-updates-the-new-2020-industrial-strategyhttps://www.jetro.go.jp/biznews/2020/03/5ba822c725506e14.html
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11687334_po_084602.pdf?contentNo=1
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