欧州中央銀行発表:銀行セクターにおける気候関連および環境(C&E)のリスク管理の状況に関する報告書
2021年11月23日、欧州中央銀行(ECB)は、銀行セクターにおける気候関連および環境(Climate&Environment)のリスク管理の状況に関する報告書を発表しました。
https://www.bankingsupervision.europa.eu/ecb/pub/pdf/ssm.202111guideonclimate-relatedandenvironmentalrisks~4b25454055.en.pdf
本報告書は、欧州の銀行が気候変動リスクに対するエクスポージャーを適切に管理し、開示する準備ができているかどうかについて初めて調査した結果です。対象は、欧州中央銀行が直接監督する112行で、その総資産額は24兆ユーロにもなります。
報告書から得られる示唆
・どの金融機関も、監督当局の期待に完全に合わせることにはほど遠い。
・C&Eリスクを戦略、ガバナンス、リスク管理体制に組み込み、進化させなければならない
・今後3年から5年の間にC&Eリスクが自社のリスクプロファイルに重要な影響を与えると予想
・方針や手続きの変更は行われていますが、戦略やリスクプロファイルに明確な影響を与えるようなC&Eリスク対策を実施している機関はほとんどありません。
・金融機関は、ガバナンスとポリシーの適合に重点を置き、リスクの特定と軽減にはあまり重点を置いていない。
・最も進展があったのは、経営組織、リスク選好、オペレーショナル・リスク管理の実践に関するものである。
・最も進捗が遅れているのは、内部報告、市場・流動性リスク管理、およびストレステストの分野である。
・全体として、金融機関は道筋をつけ始めているが、ほとんどの場合、進歩のペースは依然として遅いままである。
注目は・・・グッド・プラクティス
ECBは、さまざまなビジネスモデルや規模の金融機関から寄せられた、さまざまな期待に応える一連のグッド・プラクティスを公開しています。これは注目に値します。
例えば、「ビジネスモデル」に関するグッドプラクティスは次の2例をあげています。
グッドプラクティス1:ダブル・マテリアリティの概念と、それが戦略的計画にどう反映したか
ある機関では、欧州委員会の「非財務報告に関するガイドライン」の二重重要性の概念を適用して、C&Eリスクを戦略的計画に統合する手法を開発した例
グッドプラクティス2:パリ協定の目的との整合性の促進と監視
ある金融機関は、気候関連のリスクを戦略の重要な柱の一つとして定義している。この機関では、物理的リスクと移行リスクの両方を気候変動リスクアペタイトフレームワークと合わせて、以下のような3段階のアプローチをとった例
その他、「ガバナンス&リスク選考」、「リスク管理」、「ディスクロージャー」に関するグッドプラクティスも数例ずつあげています。
インサイト
気候変動リスクに対する意識の高い欧州連合の金融的骨格を支える各金融機関でさえ、気候変動リスクに対するエクスポージャーを適切に管理し、開示する準備がいまだ十分にでききれてていないというのは、驚きます。
逆にいえば、それだけ明文化することが困難であることを示しているのでしょう。
一方で、徹底した重要性評価を行ったほぼすべての金融機関が、今後3年から5年の間にC&Eリスクが自社のリスクプロファイルに重要な影響を与えると予想しています。不退転の決意で挑んでいる姿勢もみえてきます。
気候変動リスクをきっかけに、「従来のリニア経済&財務諸表中心主義経営」から「循環経済&非財務諸表重視経営」へとパラダイムシフトがおきています。一般企業も、金融機関も。そんな時代の変化を改めて認識させてくれた本報告書です。
補:
本報告書の和訳文に関心のある方はご連絡ください。