きれいなものを取り囲む、暗いものに気づく -ブロードウェイ・ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」
今回は来日公演ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」についてです。
・・・単純に感動した、楽しかった、と言えず、暗い気持ちになりましたが、色々な気づきがあったので正直な感想を書きます。
1.来日公演
7月23日まで東急シアターオーブで開催されています。
この作品についてあまり知らなかったのですが、来日公演は多くないので、見に行こうと思ったのでした。
2.舞台
面白いなと思ったのは、舞台の構成です。舞台の下にオーケストラがいて、少しだけ指揮者の頭が舞台の下から見えているという・・・。音楽が全体に届くなど、何か効果があるのでしょうか・・・。
そして場面が頻繁に変わるので、舞台にある建物がキャストの皆様によって運ばれるのも面白かったです。女性キャストの皆さんはヒールなのに、重そうな建物をスムーズに移動されていました。
また舞台のライティングが本当にきれいで、場面ごとのメリハリも効果的にしていました。
3.歌と踊り
うーん、申し訳ないのですが、もう少し踊りがそろっていた方が好みだなあと思ってしまいましたが、そういう振りなのかもしれません。
歌も、うーん・・・と思う部分が多かったのですが(すみません、これも好みだと思います)、唯一トニー役の方の歌がめちゃめちゃ響きまして、歌詞が心の中に入ってくる感じでした。Jadon Websterさんが演じていらっしゃいます。
以下英語ページで歌声が聴けます。’Maria’の部分です。
4.ストーリー
おおお、結構救いのない終わり方がだなあ、とびっくりしましたが、このミュージカルが単なるラブストーリーじゃないことがわかりました。ドラマチックな曲や踊りも素敵なのですが、このミュージカルは移民の社会環境の問題を描きたかったのかなと思いました。
なぜ小さなシマ争いに若者たちがあれほどエネルギーを注がなければいけないのか。それは他に居場所がないし、やることがないからかなあと。仕事もなく、将来の展望も抱けない中、同じ国の仲間やその陣地が全てになってしまう・・・。
主人公のトニーとマリアが、二人で幸せに生きていける場所を探そうと言い合いますが、現実にはそんな場所がないのですよね。お互いが好きになって、家庭を築く、という普通の幸せが成り立たない移民の状況を描き出していて、すごく悲しくなりました。そして最後まで、救いは提示されない・・・。
ただトニーが働くドラッグストアの店主、ドクが唯一「健全な人」でした。ドクもヨーロッパ系の移民ということで苦労したと思うのですが、若者たちを諭し、時に喧嘩の仲裁に入ります。トニーもドクみたいになれたら良かったのにな、と悲しくなりましたが、ドクみたいな人がいること自体に救いを感じました。
5.おわりに
来日公演に行くと、このミュージカルがなぜ来日するくらい有名になったのか考えます。この作品は美しい衣装やきれいな歌も魅力的ですが、物語が浮かび上がらせる社会問題が、いまだに解決していないことから人々の気持ちに残るのかなと感じました。
全体的に悲しかったですが、この作品がずっと上映されていることも救いの一つなのかもしれないので、明るく生きていこう!と思いました。