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良いお年をお迎えください(2024)

今年も大変お世話になりました。

本年の本業におけるハイライトは、政策提言・研究活動の両面で権限移譲が圧倒的に進んだことです。政策面では私が2015年のFintech元年から信頼している植木さんが、研究面では日本で一番オープンバンキングを調べている廣瀬さんがそれぞれ、見事なお仕事をされました。

したがって、私の業務報告はなぜか書籍紹介コーナーを兼ねます。以下、どうぞ。

1.情報空間の健全性に向けた議論

タイトルにひるまず読んでいただきたいです。私たちのフィルターバブルや自然状態に対して、ユーザー中心主義で雑誌を作るとこうなる、という社会の側面がよくわかる一冊となっています。著者の思考変化を隠さずに伝えようとする誠実な姿勢と、文章力の高さが光ります。
本年も、総務省におけるテレビ・ラジオ放送局のあり方・公共放送のあり方の検討にかかわりました。私が重視するテーマは、偽・誤情報と社会としてどう戦うかであり、そのために残されている政策ツール・社会的資源・時間は相当限られているのではないか、という問題意識です。完璧なファクトチェックが存在しないように、単一には決まりようがない言論空間のレベルのを線引きをどう行うのか、その意思決定はそもそも誰がしてよいのか。極論が行き交いやすく、拡声器を誰もが持つ社会において、透明性の高い形で、様々な意見のスペクトラムと熟慮を込めた意思決定をすることは、選挙イヤーを経てより多く人の関心事となったのではないでしょうか。
また、選挙結果(私も大いに予想を外しまくりました)を見る中で、際立っていたなと思っているのがJX通信社さんの存在感です。選挙の世界像が投票日直前になって急に見えてくる状況を、数日間だけでも先取りさせてくれる同社の調査・分析能力はまだまだメディア産業の伸びしろを感じるものでもありました。

2.行政改革のこれから

【寄稿】マスク氏とラマスワミ氏:米政府改革の「DOGE」計画 -WSJ-https://jp.wsj.com/articles/elon-musk-and-vivek-ramaswamy-the-doge-plan-to-reform-government-b21a5ba8

デジタル行財政改革会議(親会議の構成員は退任)への参加に加えて、今年の新たな仕事として行政改革/EBPMへの本格的な関わりがありました。その中で秋以降、毎日のように意識するようになったのが米DOGEの存在です。
上記のOp-edコラムを読むと、社会としてのLegitimacy(正統性)を確保する過程で、間接民主主義におけるエージェンシーコストを忌避し、インフルエンサーが直接的に働きかける民主主義に軸足が置かれ始めていること、遅かれ早かれその構造が日本でどのように再現されるのかが、関心事となります。
マスク氏の自伝からも顕著ですが、社会変化を起こす原理としてFirst Principlesと称した「徹底的な原価削減」の発想があり、マスク氏にはこの原価をイノベーションによって変えてきた実績があります。昨今、日本版DOGEを唱える声も聞こえますが、政策の目的の複雑さと過程における正統性が問われる中で、原価を本当に変えるコミットができるのか。DOGEが失敗した場合に、Economist誌のコラムが述べるCombustible Corrupt Oligarchy (可燃性の腐敗した寡頭制)になる可能性について、あまり浮かれずに考えていったほうがよいと思います。

政府の支出には様々な偏見が伴うものだと思います。色々な政策広報をしても、理解をする意思そのものが社会で希少になりつつあったり、制度が玄人筋でも理解できなくなっているものが、たくさんあるのも事実です。SaaSサービスは様々な政府サービスの入口になりうるものですが、政府機能をわかりやすく埋め込んだり、そもそも制度をわかりやすくしていく政策の可能性を考えていければと思います。

3.制度のDX

本年、公認会計士・税理士・行政書士であり立教大学客員教授の前田先生とのご縁を通じて税務行政のDXに関する本の一章を執筆いたしました。昨年も取り上げたように、ここ数年間、国税庁さんからの発信は、政府機能のDXに留まらず、制度そのもののDX(様々なデータ・クラウド環境が使える前提で、処理を省略したり円滑化すること)も予想させるものとなっています。
特に税務の世界では、電子帳簿保存法が過去10年で急速に変わってきたように、制度のDXによる恩恵を早く実現しやすい領域ではと考えています。これまでの作業を、単なる電子化ではなく、すぐにデータが使われる状態であるデジタル化を、できれば人間が作業することなく、外部接続を前提にして処理していくことで、透明性が全員の仕事を楽にする影響があります。同様のことを、多くのエージェンシーコストの伴う領域で実現していくため、働き方や会社のDXだけでなく、制度のDXにも色々と働きかけていきたいと思っています。

また103万円の壁、の議論に代表されるように今年は税制がこの上ない注目を浴びました。トランプ大統領候補についてもよく言われることですが、あるトピックを大きな声で議論することには、(普段は向いてくることがない)世間の関心を集め、政策をセールスすることができる、という側面があります。一方で、セールスすることができる着眼点はごく一部となるために、複数の制度課題を一挙に解けるような期待を帯びてしまうのも事実です。林先生の本の第一章を、3回くらい繰り返し読んだほうがよいと思えることが起きている中で、私も年末年始に3回目をやろうと思っています。

4.ストーリーを受け止める力

休前日の余力がある時間を推奨する一冊。
ノーベル賞が表彰している対象が何なのかを考えながら、胸がぎゅーっと苦しくなるような読書感覚になります。個人的にあまりフィクションを読まないのですが、いろいろな政策を理解したり、提唱する中に、この本を読んだ影響があった気がしています。

5.インクルージョンの反対側

ダボスから質素まで、全部マウンティングとしてタグを考えられる狂った才能。
徹底されたマウントフィルターで解釈されインクルージョンの反対側の概念なのに、仕事観、世界観の中に、なぜか落ち着く居場所が発見できてしまいそうな感じがすごい。考察力、応用力の高さに嫉妬を覚えます(マウントされてる)。


最後に宣伝ですが、学生から社会人になられた小林さんとのMFFMが続いています。だんだん、ニュースというよりは ゆるFintechラジオ 化していますが、よろしければぜひご登録くださいませ。

来年もどうぞよろしくお願いします。

(画像は2024年っぽい感じで作りました)

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