#137:冬の朝、イギリスの夜
冬の朝に温かいシャワーを浴びて目を覚まそうとするが、少しの間、お湯がまだ温まらない。
冷たい水が足元に当たりヒヤッとする時、ふとフラッシュバックする光景がある。
イギリスの夜
1999年の9月。
まだ暑い日本からイギリスに着くともう肌寒い秋の気候で、それはまあ身に染みた。ホームステイ先であるマンチェスターは、体感で日本の11月のような寒さだった。
そして、ホストファミリーの家にはなぜかシャワーがなくて、カランからお湯を湯船にためて浸かることしか出来なかった。熱かったお湯もためていく間に冷めて、身体はなかなか温まらない。最後に身体を洗うには湯船の冷めたお湯を使うしかなく、風呂上がりも凍えていた。
イギリスに着いた最初の週末、シャワーの温かさを感じたくて、いきなりスコットランドまで旅行した。目的は観光ではなく、ホテルの部屋の熱いシャワー。
マンチェスターよりも英語が通じない最果ての北の地まで来て、一体自分は何してるのだろうとも思ったが、そんな想いもシャワーが全てを洗い流してくれた。
冬の朝
そんなイギリスの寒い夜やスコットランド旅行を思い出す間にシャワーは温かくなってきた。
ぼんやりと過去を彷徨う頭も、徐々に20数年の時を経て現実世界に戻ってきた。
これを浴びて風呂を出たら、起きてくる息子にシュガートーストを2枚焼かねば、とか。
シュガートーストを作る過程。
バターナイフでトーストにシュガーペースト塗る作業を思い浮かべながらシャワーを浴びる。
そのうち記憶と混線して、毎朝マンチェスターで作っていたサンドイッチを思い出してきた。ターキーハム、普通のハムくらいしか具はないので、なるべくバターナイフでマヨネーズたっぷり塗って埋め合わせていた。
そのうちにその単調なランチボックスに飽きてサンドイッチは作らず、お昼は学校近くのインドカレー屋でテイクアウトした温かいカレーを友達と公園で食べていた…。懐かしい。
-
その辺りまで思い出してシャワーは終わる。
また今日も冬の1日の始まりだ。