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潮風で錆びた煙突を背景に 湾岸線が北へ南へと流れてゆく 運河を吹き抜けるつよい風が雲の背中…
街の音は遠く不明瞭で わたしは耳から髪の毛までが重く マリアナのような深い海溝に沈んでいる…
松の林の合間を縫って 花売りが花の市場をひらく 鮮やかな南国の赤から 深く落ち着いた緑まで…
たとえば想像のなかの雪 もしくは護岸に打ち付けて飛沫をあげる波のような 柔らかいものに包ま…
ずぶ濡れになった白い化合繊のシャツと 青い血管のすっと通る絹のような肌を 残照は包み込むよ…
オリオンの渦状腕に抱かれて きみは眠っている シリウスが地平に隠され 代わりにベガが昇る季…
最寄駅の改札を抜けてから玄関までの道のりを 昨日とおなじ歩数で帰る その繰り返しをあるいは時間と呼べるだろうか 遺失物の肩書きが付けられて どこにも届けられないでいる傘のような彼を こんなにも近くに感じられるのに すっかり声が隠されてしまって 私の虹彩は夜の海のよう 何も描かれることのない暗闇のなかで ゆらゆら揺れる水面だけをたしかに感じる 背筋に沿う気配も どれほどの間ここに留まって どれほどの後に流れ去るのだろう 問いかけてもすり抜ける 日々は
うつくしくも たよりなくもある とかく比類のないそのあかりは 芯にちかづくほどに濃く揺ら…
土産の弁当箱を手に提げて新幹線を待っている いちど発てば帰る足もないし 懐かしんで帰る故…
坂道をめいっぱいの速度で駆け下り 両手でつよくブレーキを握りしめてみる 前輪は動力の減衰を…
「あれは開花の瞬間が美しく映るようにできているが きらびやかな見かけの核にあるのは矮小な…