山口一郎 『懐かしい月は新しい月 "蜃気楼"』 ツアーファイナルで伝説をみた
1月14日東京ガーデンシアターで行われた、サカナクション ボーカル山口一郎さんが全国を巡るツアー『懐かしい月は新しい月 "蜃気楼"』のファイナルに行ってきました。
このライブ…サカナクション史上伝説のライブっといっても過言ではない。
それくらいすごい体験でした。
自分の記憶に留めておくためにも感想書いていきます。
蜃気楼ツアーとは
2022年7月、一郎さんの体調不良により休養が発表されました(この時点では病名は明かされていない)
これにより予定していたライブツアー『SAKANAQUARIUM アダプト NAKED』が延期、のちに中止となっています。
それから約1年3ヶ月。
病を乗り越え、一郎さんがもう一度サカナクションとして復活するために開催されたのが今回のライブツアーでした。メンバーは直接参加せず今までの楽曲をリアレンジして、一郎さんは単独でステージに立ち、それを歌うという珍しい形。
座席・舞台のセット
ステージ上は、照明器具と扇形のセット(壁と床3面はパネルで映像が映し出される)とすごいシンプル。
また画像にもあるように本来お客さん側にあるFOH(PAや照明)の機器がステージ上に設置されていました。
どういう演奏・演出をすればどんな反応が返ってくるというようなセオリーが出来上がってきてしまい、毎回それを繰り返していくと心が磨耗していってしまう…それを変えるためにも一郎さんの単独ライブで実験的な試みとしてやってみたそうです。
あと冗談まじりで「1人だけだと寂しいから」とも言ってたけど、これは半分は本気だった気もする。
だって一郎さんの後ろにサニーさんや浦本さんたちがいる姿は、客席から見ていても安心感があったし暖かい家のような感じがしたから。
ちなみに座席は左側のバルコニー1階ブロック2でした。
左のモニターがフェンスでよく見えなかったけど、一郎さんの表情はよく見えた。
あとこのあと出てくる「蜃気郎」は誤字ではなくて、一郎さんのメンタルを可視化した存在「山口蜃気郎」のことです。
ライブ内容
ここからセットリスト順にそれぞれ書いていきます(ちょっと多いので全部には触れられないけど)
1. サンプル -Rearrange 2023-
一音目の「僕は」の瞬間、何の感情かわからない涙が流れた。照明に淡く照らされる一郎さんの姿が、ただただ美しくて力強くかった。
「大丈夫かな?体調は?声は?問題ないかな」なんていう薄っぺらい心配は一瞬で消え去った。
2. ボイル -Rearrange 2023-
ライズする歌詞に向かっていくにつれ、床のLEDパネルに水面が映し出された。
ライズする演出は2020年の『光オンライン』が圧倒的で“後光”なんて魚民(ファン)の間では言ってたけど、今回は一郎さん自身が暗い海から抜け出してライズした演出にも見えた。派手さはないけど好き。
3. 茶柱 -Rearrange 2019-
低音がビシビシ体まで響くこの感じ。
そうそうサカナクションのライブってこれだ!って思い起こさせてくれた一曲。
4. 映画 (AOKI takamasa Remix)
5. アドベンチャー -Rearrange 2023-
自分たちにとって「ふらっと近所を散歩」なんて何でもないこと。
でも、後述の動画『山口一郎の現在地』で「ベッドから起き上がれない。キッチンに水をとりに行くことすらできない。何もできないことが普通になっていく」と語っていたように、散歩ですら生死を賭けて未開の地を切り開くアドベンチャーにも等しいものだったと思う。
最後の歌詞が秀逸すぎる。
6. 忘れられないの -Rearrange 2020-
7. フレンドリー (Cornelius Remix)
8. 夜の東側 -Rearrange 2020-
一つ一つ丁寧に重ねた積み木を自分が壊してしまう。
あの映像を作った田中監督はやっぱり天才だと思った。
同じく田中監督が撮ったMV『さよならはエモーション』でも、自分が書いた歌詞をもう1人の自分がインクで消すシーンがあるけどあれを想起させ。
9. 新宝島 -Rearrange 2020-
一郎さんの後ろで映し出された映像…荒れ狂うダンサー、バットを持った男、蜃気郎たちの姿が混沌というか狂気そのものだった。
今敏監督の映画『パプリカ』のパレードを彷彿させるような異様な感じ。
「うつ」でいうところの躁状態のような感じにもみえて、普段のライブなら楽しく踊る新宝島とは違う、言い知れない不気味さも少し感じた。
10. years (Floating Points Remix)
一転映像はノイズの砂嵐に埋もれていく。
廃墟をバット男から逃げ惑いさまよい、もがき苦しむ蜃気郎。
yearsは希望や決意の歌だと思ってるので、その曲でこの映像をぶつけてくるの結構衝撃だった。最後なんて崩れ落ちてるしね(笑)
11. ナイロンの糸 -Rearrange 2019-
曲中水面から一気に深海へ。照らし出された一郎さんのシルエットと、「この海に居たい」の伸びやかなそして叫びのような歌声が心に刺さりまくった。
すっごい蛇足だけど、照明のくるくるスポットライトが目に直撃する周回があって眩しかった(笑)
12. 目が明く藍色 (agraph remix)
合間に入る息遣いや、過去を思わせるノイズ混じりの音声が印象的な曲。このremix一番好きなので聞けてよかった。
大サビ「君の声を聞かせてよ ずっと」の直前、一郎さんを覆い隠すスモークスクリーンと、そこに映し出される巨大な蜃気郎。
一郎さんは歌うことなく去っていく。
今回の目が明くが「君=歌、音楽」だったとするなら、声を聞くことすらできず、うつという蜃気楼に自分自身もかき消されてしまった。
そんな悲しい印象を受けていたら映像は続き、両手を広げた蜃気郎が後ろに倒れていなくなった。
多分うつが完全に消え去った・完治したというよりは、一郎さんの深層に落ちて一部となった。ということなのかな。
コロナ禍のころ一郎さんがよく言っていた「乗り越えるのではなく乗りこなす」の言葉にあるように、共に歩む覚悟で新しい一郎さんになったんだと思った。
ここで15分の休憩。
雰囲気ガラッとかわって第2部の始まりです。
13. ネプトゥーヌス Acoustic
ステージには扇形のLEDパネルもなく、マイク一本。
そして一郎さんの横に浦本さんが座り、YouTubeでリハビリと称して行っていた時のような、懐かしいスタイルから第2部の始まり。
ここからアコースティックの曲が続きます。
そのせいもあってかより歌詞が響いてしまって、やっぱり今回はどうしても歌詞がうつと結びついてしまう。
でもそれが嫌なことではなくて、それで曲がまた違う解釈になったりして、一郎さんの書く曲の深さに驚かされたりした。
14. フクロウ Acoustic
曲後。今回のライブ開催する経緯について。
浦本さんの紹介からの軽快な掛け合い(笑)それまでMCなしでどこか張り詰めていたので初めて会場が和んだ気がした。
15. セプテンバー -札幌 version- Acoustic
16. ドキュメント Acoustic
17. アイデンティティ カラオケ
これは本当驚いたなー!まさか8000人の前で縄跳びしだすなんて(笑)そして「100回とべたらアイデンティティを歌う!」という4年前NFパンチでやった絶対歌える男を思わせる企画をぶっ込んでくるあたり流石です。
この動画見返してみたら121回とんで立つことすらできず歌えなかったんですよ。なのに今回!この前にもライブで何曲も歌って体力使ってたのに堂々と歌ってました。
ただそれでも途中、息苦しくて一郎さんが歌えなくなったとき、お客さん全員で歌ったのはなんだか暖かい気持ちになった。
あと一郎さんの口からエガちゃんの名前が出てきたの嬉しかったな。しかも「江頭さん」ってさん付けで。
18. シャンディガフ
「サカナクション5人で復活したら歌いたいと思ってる曲」という言葉と共に始まったシャンディガフ。
自分はこの曲でたとき「なんだか暖かくてイイ歌だな〜」なんて阿呆な感想で背景とか何を歌ってるのか正直わからなかったけど、こうして聞いてみるとメンバーに対しての思いを歌ってたんですね(遅い)
「少しのだらしなさ」の部分が特に好き。「相手に完璧を求めない。信頼して違ってもそれを認める心の余白」と勝手に解釈。
これってGoogleで有名になった心理的安全性の話に通じてる気がするわ。
19. 白波トップウォーター -Rearrange 2020-
曲前、一郎さんが語り出しました。一部抜粋。
一郎さんは療養中もYouTubeやインスタ配信をしていて、今の自分の状態や復帰に向けて這い上がろうとしている姿が、どこか常に明るく努めているようにも見えて。
だから最後、涙を隠すように照れ笑いをしながら吐き出した言葉「しんどかった」とみんなの前で言ってくれて、その思いを言葉に出してくれて嬉しかった。
↓この方の投稿で知った。歌詞一部変わってたのかそうだったのか…
吐露してくれた嬉しさと白波の歌詞がブッ刺さり過ぎて全然気づかず。
一郎さん的な覚悟を表してたりもするのかなー
20. 新宝島
「ここで重大発表があります!サカナクション4月から復活でーす!」の掛け声とともに暗転。
『新宝島』のイントロが流れ出したと思ったら、他のメンバー4人が袖からスライドで登場!!
もう最初何が起こってるのかわからなかったし、会場内は歓声、喝采、雄叫びに絶叫。ありとあらゆる喜びの形が聞こえてました。
正直、新宝島で泣くなんて思ってなかった。
エジー、もっち、あみちゃん、ザッキーが楽しそうに演奏して、そしてそこに一郎さんが歌ってる。
あぁ本当にサカナクションが帰ってきたんだと全身で感じました。
そして、ここへきて新宝島のこの歌詞が、今のサカナクションの指針にすら思えてきて、より好きな歌になりました。
アリーナツアー発表!
そして曲後、興奮冷めやらぬなか4月から始まるライブの詳細が発表されました。
『SAKANAQUARIUM 2024 “turn”』
ツアータイトルは「ターン」最初わからず1upnかと…でもデザインしたのがCDやグッズのデザインも担当している平林奈緒美さんとのことなので、何かありそうな気はすごいします。
日程も発表されました。
驚きなのは、今回の蜃気楼ツアーで唯一チケットが完売しなかった広島をファイナルに持ってきてること(ミュージシャンにとって広島は鬼門らしく売れ行きが芳しくないことが多いそう)
相当な賭けだと思うけど、このツアーにかける想いの強さを感じました。
今回のライブ全体を通して感じたこと
実は千秋楽前に公開された動画『山口一郎の現在地』では、うつ という病名も広く公表されました(Youtube配信などでは触れてたけどここまで深く語られたのは初めて)
動画内で今回の蜃気楼ライブのテーマが「苦しかった自分を表現したい」ということが明かされています(25:47付近)
前述のとおり「歌詞がうつと結びついてしまう」のは当たり前だ。だって一郎さんと田中監督が全力で表現してるんだから。
アーカイブ配信
今回のライブは配信も行われていましたが、アーカイブは1月15日(月)18:00 ~ 1月21日(日)23:59まで 視聴できます。
自分は買うつもりなかったけどライブがあまりにも良過ぎて買いました。
もし見逃した方や気になった方がいたら絶対買ったほうがいいです。ほんとに。
また公式が今回のセットリストをまとめてくれてます。ありがたい🙏
まとめ
あんなに泣いて笑ってを繰り返し、終いには新宝島で泣きながら笑うっていうライブは初めてでした(笑)ほんと感情の振り幅が大き過ぎて、ほぼ座ってたのに疲れた。
4月からサカナクション完全復活のアリーナツアー“turn”が始まります。田中監督が「復活ライブはお祭りのように派手にやる」と公言しているだけに期待が高まりますね。
それまで魚民は体力作りと貯金に励むとしますか✋
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?