連続的に新規事業を生み出す「究極の仕掛け」とは? 「みんなのスタートアップスタジオ」出版記念イベントレポ【後編】
2023年6月19日、『みんなのスタートアップスタジオ 連続的に新規事業を生み出す「究極の仕掛け」』が出版されました。
スタートアップの9割は失敗すると言われている中、スタートアップスタジオ(以下、スタジオ)は連続的に企業や新規事業を次々と生み出しています。なぜ、スタジオにはそれができるのか。その秘密を暴くべくスタンフォード大学ビジネススクールで行われた、スタジオについての調査プロジェクトの成果がまとめられているのが本書です。
その出版を記念して2023年10月16日に開催された「みんなのスタートアップスタジオ」出版記念イベントの様子を前編、後編に分けてお届けします。
今回のイベントでは、本の内容から一部を取り上げ、解説・監訳を担当した及部氏をモデレーターとしてパネルディスカッションを行いました。
後編では、スタジオや事業会社、投資家向けに佐々木氏、兼城氏、永野氏に、スタジオモデルを採用した理由や各スタジオの運営についてお話ししていただきました。このディスカッションを通して、スタジオが新規事業を生み出し続ける”仕掛け”に迫ります!
前編はこちら
PART1「アクセラレータなど既存のモデルとの比較について」
他のモデルとスタジオモデルの違いとは
アクセラレータなどの既存のモデルとスタジオでは、関与の程度で異なります。スタジオは早期の段階から深く関わり、レイターステージまではいかずとも、シリーズAやBまで並走するものもあります。また、カロリーが非常に高いことも違いの一つです。お金も時間もかかるため、その点では他と比べて経営が難しい点でもあります。
スタジオモデルを選んだ理由と社会性
及部:そもそもどうしてスタジオモデルを採用したのでしょうか?
佐々木:ガイアックスはそもそも事業会社なので、最初は社員の起業の支援からはじまりました。それがどんどん成長して再現性が出てくるにつれ、投資活動の一環として起業家を育てて輩出し、そこに投資していくやり方がビジネスになるのではと考え、スタジオという形に至りました。
スタートアップスタジオモデルを採用するということにおいて、こうだからうまくいく、という方法論は模索中です。ただ、大量のアイデアの中からかなり見極めてフィルタリングしたうえで投資していることはポイントの一つだと思います。
永野:弊社は、スタートアップを同時多発的に生み出してエコシステムを作るのに貢献することを狙いとしてスタジオモデルを採用しました。というのも、国内におけるスタートアップ投資額が増加した一方でスタートアップの起業増加数が投資額に対して逓減してしまうと考え、スタートアップを起業やすくする流れを創り出したいと考えたからです。
及部:みらいスタジオさんは東工大の連携認定VCの中から出てきていますよね。
兼城:成り立ちは少し複雑なのですが、エンジニアのコミュニティを運営していた会社をVCのみらい創造機構に売却してグループ入りをしたことで、VCとしてのDNAが入ってきました。そして、エンジニアの学生たちが起業を考えている時、ファンド出資がまだできないような段階でのメンタリングなどの支援活動をしていく中で、スタジオモデルという形に着地して、みらいスタジオという新会社をカーブアウトしました。
兼城:我々スタジオは高校生など学生の起業支援や、自治体との協業などもしていて、そういった部分ではほかのプレイヤーとはまた違った社会性を帯びている部分があるように思います。
佐々木:スタジオって、起業する前の人たちを支援するのが仕事なので、対象は中学生以上全員、みたいなところはあります。そういった文脈で、アントレプレナーシップ教育や大企業の新規事業部などさまざまな相談を受けますね。
兼城:スタジオは啓蒙や、地域おこしみたいな文脈から始まることがあったり、VCに断られて相談に困っている人だったり、すそ野が広いので良いポジションにいる存在だと思います。
PART2「ステージゲートとアイデア評価基準について」
ステージゲートが管理する重要なステップ
スタジオ発のスタートアップの過半数が、一般のスタートアップよりも速く、かつ多くがシリーズAに到達すると言われています。この理由はそこにいたるまでのステップのノウハウがたまっているからだと考えられます。
重要なステップは、「ブレインストーミングと初期アイデア開発」「顧客実証」「初期プロトタイプの開発とテスト」の3つです。それを管理する手法として導入されているのがステージゲートで、それぞれのスタジオが持っています。そのステップを踏んでいくうえで行われるアイデアの評価には、起業家と事業アイデアの掛け合わせが重要なポイントです。
三者三様のステージゲートや観点
及部:各社のステージゲートのこだわりや投資の評価基準を教えてください。
佐々木:スタートアップのゼロイチを生み出す手法として、リーンスタートアップの事業開発の仕方がいいと思っていて、その検証段階に合わせたステージゲートを設計しています。評価基準としては、実際に手を動かして検証しているのかどうかなど行動力はすごく見ていますね。
また一度投資を決めたら失敗しても、もう一度挑戦するアイデアが良ければ、0からでも再投資するスタイルでやっています。なので、損切りの考え方としては、投資した金額が解けて倒産するときです。
兼城:弊社では、解像度が高まっているかどうか、コストを出して検証する価値あるかなどはしっかり詰めることは特にこだわってやっています。評価の際には、IPOなのかM&Aなのかなど、どこを目指しているかについてを見ます。我々スタジオとしては、最終的に株式をリターンとして得る必要があるので、きちんとEXITを見据えて取り組もうとしているのかどうかは重要な観点ですね。
損切りに関してはガイアックスさんと似ていて、できなかったら別のやり方ができないか、マーケットが他にないか探すなどをして、やり直すこともできるようにしています。
永野:弊社が最重要視しているポイントは課題探索・企画の段階で、設定した課題の規模大きさが1千億円あるか、をかなり強く見ています。
統計調査などによる市場規模ではなく、1人・1社あたりの時間などの課題にかけるコストと市場全体の対象人数・社数などを乗じて算出した課題規模が1千億円以上、というものを支援・投資対象としての第一の判断基準として置いています。
PART3「スタートアップスタジオの一般的な3つの収益創出法について」
代表的な収益創出方法
ビリングバック
生み出したスタートアップにかかったコストを、実費か割引料金でスタジオに返済してもらい、代わりに株式の保有比率を下げる企業との協業開発
大手企業と共同で会社を立ち上げ、開発費の30~50%のマージンを請求する企業コンサルティング
スタジオが持つデザイン思考の専門知識によって企業のコンサルティングを行う
各スタジオの収益創出手法
及部:各スタジオはどのようにキャッシュをまかなっているのでしょうか?
永野:デライト・ベンチャーズでは、強いて言うならば1 ビリングバックになります。ただし、ビジネスモデルがファンドを保有するキャピタルゲインであり、スタジオ運営企業においては収益をあげないモデルとしているため、ややこのどれもが当てはまらない気もしています。
また、以前は事業会社との共同スタートアップスタジオ開発を目指しつつ企業コンサルティングをした経験からのお話ですが、2や3の企業との共同開発は予算があり入りやすくもある一方で、スタートアップスタジオとしての意思決定のプロセスをコントロールできないことや、リードタイムが長くなるというデメリットがあるとも考えています。
兼城:受託のモデルで、エンジニアに特化した開発支援と事業支援をするというコンサルティングをしつつ、生み出した会社からビリングバックでももらっています。
佐々木:ガイアックスは事業会社で、その中の利益追求事業で得られた利益を投資に回してスタジオを運営しています。また、スタジオにおける起業家を生み出す仕組みと、自治体で新しい産業を生み出す取り組みとがマッチしていることが分かり、それから福岡市や北海道などと一緒に自治体と共創して起業家を生み出すということをしています。
会場からの質問
Q:デライト・ベンチャーズさんは1,000億の課題価値を計算したときに、ファンドとして上場時にどれくらいのバリュエーションを見込んでいますか?
A:
永野:ケースバイケースですが、ファンドとしてリターンを出すために少なくとも数百億円は見込んでいます。
Q:Airbnbのように仮説検証をせず、市場もゼロだったところから、今となってはものすごい市場になっているケースについてはどう考えますか?
A:
永野:まだ顕在化していないマーケットに領域を定めている場合には、投資・支援する上で事業内容よりも人の比重を上げたり、予見できる範囲での課題規模やモメンタム指数などの算出をしたりすることはできると思います。
スタートアップスタジオで主な手法として使われているリーンスタートアップはベンチャー企業を生み出すうえでの一つの選択肢であって万能ではないので、各社のポジションの取り方や支援方法によるかと思います。我々の場合は、再現性を重視して、失敗確率を減らす方法として課題規模を事前に精緻に算出する手法を取る、というものです。スケールにおいてこのような規模の算定も含む様々な支援の仕方を求められている起業家もいるので、各社との相性は重要だと思います。
佐々木:投資に失敗する再現性を持っているのがVCですし、事業を作るうえで失敗する再現性を持っているのがスタジオなんですよね。正直に言えば成功する再現性を持っているわけではないので、たとえ後に大きく成功するアイデアが持ってこられても、最初は全く分からないです。
兼城:アクションをしている方ってすごく投資したくなるんです。ただ、マーケットの規模がどうなるか分からなければ、VCに行っても分からないって言われるはずなので、持って行き方を考える方向にはなってしまうと思います。また、起業家によって合うスタジオ、合わないスタジオがあって、合う中でもどのメンバーと一緒にやるかなどもあると正直思います。
まとめ
いかがでしたか?近年注目を浴びるスタジオが備える”成功のための仕掛け”が少し見えたのではないでしょうか。
また、一言でスタートアップスタジオといっても、それぞれのモデルや価値観などは全く異なっていましたね。今回のこうしたお話はほんの一部にすぎず、またスタジオのノウハウは内緒にしているものでもありません。少しでも興味のある方は、起業家でも、事業者でも、ぜひもっとスタジオやスタートアップについて知っていただけたらと思います。
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