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当たり前のことをモデル化したの?

さて、この研究会の第1期(2022-2023年度)でなんどか更新してきた「モデル」を書いてみます。当然、まだまだ未成熟です。研究会で指摘されてきた課題感もかきそえます。

「社会を動かす」コミュニケーション

地球の持続性を高める新しい社会経済システムをつくりだす企業が存在をみとめられる大サバイバル時代、企業は「社会をかえる」アクティビストとして自己変革を繰りかえす機動力を獲得しなければなりません(と私たちは考えています、おおげさに聞こえるかもしれませんが)。その機動力の源泉を社会を動かす、自社を動かす「コミュニケーション」機能に見出して議論をしてきた2年だった気がします。インプットからアウトプットの経営資源の流れが循環するイメージ(横軸)と、攻めと守りの経営姿勢が相互に補完しあうイメージ(縦軸)がぐるぐる動的に作用しながら変革を起こしていくありさまを図にしようとしてきました。それが下記です。

「コミュニケーション・サイクル・モデル(仮称)」v3

大変革をうながす4つの機能に注目!

1) 社会起点のインテリジェンス機能
インプットする機能の重要性が強く指摘されました。外部環境が複雑で見通しがたちにくい現代だからこそ、社会情報に高いアンテナをはり、自社がそれに与える影響があるのか、もしくは影響を受けるのか超事業的な視座で取りこんでいく必要があります。「小さな声」「聞いたことのない声」のような情報の収集から評価、分析までを担う情報機能が社内に存在すべきではないか、との指摘でした。長期的な視点をもって情報を「見立てる」ことは、超長期目標からバックキャストする経営に不可欠なだけではなく、社会視点と照らし合わせ、自社の取り組みや発信が独りよがりになっていないのか、を確認するウォッシュ回避につながる、との期待も寄せられました。

2)経営への上申と社内アドボケイト機能
インテリジェンスは、リスクとシナリオによる経営を実現する経営機能の一部ですが、それら加工された情報を経営陣や社内にどのように入力するのか、の機能についても考察が必要と指摘されました。社会の視点を血液のように組織全体に行き渡らせるために、経営陣に的確に上申する機能のほか、従業員など社内関係者が動機づけられるための啓発活動、つまり社外の声を「代弁」し説得的に発信するアドボケイト機能への期待が寄せられました。実践報告のなかにも、その機能を担おうとする試みが報告されていますが、経営の意思決定に組みいれるところには一定の障壁が残っている印象を残しました。実践事例をあつめ、知見を可視化する期待の高い機能とも確認できました。

3)顧客や取引先等と協働するコンテキスト構築機能
社会課題を解決する運動体的な存在、つまりコトラー(2019)が指摘するような「アクティビストとしての企業」と、それを期待する「ブランド・アクティビズム」の動向は、研究会メンバー間でも問題意識として共有されました。「Business as a Force for Good」と考え、利益をこえた大きなことへのリーダーシップ、積極的な行動を期待する議論は、広石 拓司さん(エンパブリック、外部識者としてレクチャーいただいた)からも引用されています。共感や信頼のようなものが重視されつつある現代、企業のコミュニケーション機能がより重要になる予感、いや確信も強まりました。サステナビリティを具現化する実態を伝え評判を形成するだけでなく、問題提起をし、アジェンダセッティングをして、対話を生み出し、結果的に共創への機運・ムーブメントを生み出す役割まで強調する議論がありました。「ますますアクティベーションと広報の境目がなくなっている」、「志をともにするNPOなどと社会的文脈をつくっていく広報」などの指摘もありました。不確かで変動するなかでも利害を調整しながら成果を生む「ガバナンスとしての広報」という概念も広石さんからも提示されました。

4)関係性の構築機能
夫馬 賢治さん(ニューラル、外部識者としてレクチャーいただいた)から提示された「伝える広報」から「動かす広報」へ、とのキーコンセプトは、これまでの研究会での議論を象徴したキーワードでした。産業革命に匹敵するかそれ以上のビジネスモデルを発明する必然に迫られている企業にとって、自社のメッセージをターゲットに届けるだけでは不十分との認識です。これまで付き合ったことがない人や組織との対話と協働が組織の変革を生み出す可能性が指摘され、目的に共感し一緒に動くパートナーを増やすためのコミュニケーション戦略を設計し、リードする機能への期待が寄せられました。
そのためには、サステナビリティを経営戦略として取り組む意図や進捗、課題や今後の見通しなど、ストーリーとしてつたわるような、誠実である種「ウェット」な言語化がますます重要になること、コミュニケーションには、基盤的で「守り」としての階層と、社会経済システムの変革のための対話と協働を生みだす「攻め」の階層があり、それを統合的に扱う必要も指摘されました。

当たり前のことを言っているのでは?

新たなコミュニケーション活動の柱になりそうな要素を第1期で編み出し、「コミュニケーション・サイクル・モデル」として表現しました。

しかしながら、たくさんの課題をのこし、第2期(2023-24年度)にひきつがれていきます。たとえば、「サイクル」もしくは「循環」すがたをよりわかりやすく表現できるのではないか。社内の既存の仕組みとの整理をするのか。モデルをどのレイヤー(経営階層)でとらえるのか、社内の実施主体をだれと想定して議論を進めるのか、類似する統合思考のモデルとの関係をどう仕切るのか、など、研究会でも指摘をうけています。

第2期では、4つの主な機能ごとに実践事例をうかがいながら、それをどこまでできる必要があるのか、どのように実践できるのか、の知見を集積していく計画です。

研究会運営チームの打合せでは「知っていることとできていることは別。当たり前と思われる機能でもそれをどう実践できるかの知を添えてサイクルモデルを提示することが、新たなうねりをつくるのでは」との議論がありました。各回テーマを絞って2社から実践事例を報告いただき、質疑を通して実践の知恵を洗い出す運営を考えています。
副次的な結果として、コミュニケーション・サイクル・モデルが洗練されることも想定しています。現場実践に貢献する事例共有の場、にしていく計画です。

<参考文献>
Kotler, Philip (2019), "Advancing the Common Good: Strategies for Businesses, Governments, and Nonprofits" Praeger(日本語版:『「公共の利益」のための思想と実践:企業・政府・非営利団体の戦略』ミネルヴァ書房、2022年)

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