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検察庁法改正と国家公務員法改正は切り離せるの?

今回の検察庁法改正は、国家公務員法の改正と一緒にされた「束ね法案」として、国会に提出されたものです。これを切り離すことはできるでしょうか。

過去の国会議事録から、束ね法案、あるいは一括法案についての取扱い基準を調べてみましょう。国会の議事録は「国会会議録検索システム」から検索できます。第1回国会(昭和22年)からの会議録をすべて無料で検索できますから、使わないという手はないですね。

束ね法案(一括法案)は国会軽視?

「束ね法案」で検索すると、もっとも古いものとして、平成4年2月27日衆議院石炭対策特別委員会の議事録がヒットしました。中西績介という議員が、新石炭政策実施に関する8本の一括法案について、次のように述べています。

行政が提出をする法案として近ごろこうした束ね法案が多くなってきたという傾向があるわけです。この点はやはり国会を軽視する、こうした感覚で私たちは今までとらえてきたわけであります。(平成4年2月27日衆議院石炭対策特別委員会、中西績介)

本来、個別に審査すべき法律を一括法案とすることは、国会軽視につながるという考え方があるわけですね。

今度は、「一括法案」で検索してみましょう。そうすると622件の会議録がヒットし、古くは昭和24年の大蔵委員会まで遡ります。複数の法律を一括して国会に提出するということ自体は古くから普通に行われてきたわけです。

でも、622件は多いですね。そこで「一括法案 切り離し」というキーワードでもう少し絞り込んで見ましょう。検索してみると、106件になりました。この結果をたどっていくと、過去、さまざまな制度改正で、一括法にすべきかどうかという議論が行われていました。

昭和61年の補助金制度の改革一括法の際には、村沢牧という議員から、「国の制度、施策の根幹にかかわるような法律改正を今回のように四十九をも一括して提案することは、これまた国会審議を冒涜するものであります」と、ここでも一括法案は国会軽視であるという指摘がされています。

束ね法案(一括法案)にする判断基準

さて、村沢議員の指摘に対して当時の竹下登総理は、次のように一括法案の妥当性を説明しています。

その趣旨、目的は一つであり、一体をなしていることから、一本の法律として提案することが適当であると最終的に判断するに至ったわけであります。また一方、全体として総覧していただくことによって、その立法趣旨に基づいてとられる措置を総合的に把握することが可能になるものという考えも持ったわけであります。(参議院補助金等に関する特別委員会、昭和61年4月26日、竹下登)

竹下登総理が説明する一括法案の理由は、第一に、趣旨目的が一つで一体をなしていること、第二に、全体として総覧できて立法趣旨に基づく措置を総合的に把握できることという二点です。今と違って、当時の総理大臣は、丁寧に論理的に説明されていますね。

さらに、遡ると、臨時行政改革調査会二次答申を受けた法律改正に際して、当時の鈴木善幸総理は、一括法案の基準を、次のように回答しています。

一括法案の基準についてでありますが、第一に、法案の趣旨、目的が一つであると認められること、第二に、内容的に法案の条項が相互に関連していて、一つの体系を形づくっていると認められること、第三には、例外はあると思いますが、できる限り一つの委員会の所管の範囲でまとめるということ、この三点を基準としております。(参議院本会議、昭和57年4月28日、鈴木善幸)

鈴木善幸総理の一括法案の基準は、趣旨目的が一つであること、一つの体系を形作っていること、できるだけ一つの委員会の所管の範囲でまとまることの三つです。ああ、これも明確な答弁だ。

さて、一般的に、法案を一括法案とするか切り離すかについては、内閣法制局の判断に左右されます。国会議事録では、たとえば、供託法の一部改正を他の行政改革法と切り離した理由について、以下のような答弁を見つけました。

法制局との協議の過程におきまして、この供託法の改正法案は、事柄自身が臨調の答申にそのものとしては取り上げられていないというような点もございましたし、あるいはまた、特定の政策等を推進するための補助金等を縮減するというものとも若干違うというような点もございましたために、一括法案にするよりも単独法案として出すべきであるというような結論になった。(参議院法務委員会、昭和56年11月10日、中島一郎法務省民事局長)

検察庁法改正案と国家公務員法改正案の場合

さて、過去の総理答弁の基準に照らして、今回の検察庁法改正案を国家公務員法改正案と一括法案(束ね法案)とすることは妥当でしょうか。

過去の総理答弁で示されている基準に従えば、法律の趣旨目的が同じであるならば、一括法案(束ね法案)でよいということになります。この基準に照らせば、65歳に定年を延長する部分(検察庁法22条1項部分)だけであれば、一括法案(束ね法案)としても問題はないと思います。まさに、高齢化に対応するために一律で定年を延長するという「法案の趣旨、目的が一つであると認められる」ものだからです。この部分だけなら、内閣委員会で審議することも問題はないでしょう。

しかし、人事院規則に該当する場合(余人を持って代えがたい場合)にその人だけ特別に定年を延長する部分(検察庁法22条2項以降部分)は、法律の趣旨・目的が異なるものです。この部分は、従来、検察庁法には存在しなかった部分で、高齢化に対応するために定年を延長するという趣旨・目的とは明らかに異なります。

このように、検察庁法の改正には、国家公務員法の改正とは趣旨・目的が異質な改正内容が含まれることから、検察庁法の改正は、国家公務員法の改正とは切り離すべきであったと考えます。

今国会の審議の過程で、この部分は、内閣法制局の部長審査を一旦終えた後で付け加えられた部分であることも明らかになっています。部長審査を終えた段階では異質な部分がなかったので、束ね法案で良かったはずです。しかし、異質な部分が加わった段階で切り離すべきだったのではないでしょうか。実際に、この部分について、内閣委員会の担当大臣が十分に答弁できず、法務大臣が答弁せざるを得なくなりました。そもそも別法として、法務委員会に掛けるべき内容だったと思います。

結論です。検察庁法改正と国家公務員法改正を、束ね法案(一括法案)としたこと自体が誤りであり、国会軽視なのです。

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