人類の永遠の問い"Well-being"(中編)~サステナブルタウンを目指して~
ウェルビーイングを基軸とするまちづくり。
これはとても壮大なテーマなので、前編・中編・後編に分けてお伝えします。
人類が問い続けてきたウェルビーイングの意味を、特にまちづくりの視点からnoteにまとめていきます。少し難しいお話ですが、これを読んでいただければ、ウェルビーイングの本質的な理解をお手伝いできると思います。
SDGsの文書名と位置づけ
ご存知でしょうか? SDGsの正式な文書名は↓のとおりです。
Transforming our world : the 2030 Agenda for Sustainable Development
(我々の世界を変革する : 持続可能な開発のための2030アジェンダ)
そして、SDGsはこの文書の一部という関係性になります。
SDGsで目指しているのは、表面的な変化ではなく、トランスフォーム(変革)の取組です。世界のあり方を根本的に変革していくための取組です。
このままでは持続可能でない世界を、可能なものにトランスフォームする。
そのための世界の共通目標がSDGsというわけです。
SDGsの他にも、DX、GX、HX、そして、SX・・・
X(トランスフォーム)の時代です。
つまり、表面的な変化だけではない、実質的な変革を共につくっていく必要性を意味しています。
私はこの「X」をまちづくりにおいて大切にしています。
SDGsが示すパラダイムシフト
一般的に、これまで生きてきた経験に基づいて、今より先の物事を判断します。当たり前のことです。
しかし、SDGsを深く理解していく過程で、二刀流の物事の見方(パラダイム)を身に着けていくことが必要であると強く思うようになるはずです。
話が無限に広がってしまうので、まちづくりをテーマに考えましょう。
今、自分が住むまちというのは、過去何十年、何百年、何千年という先人の方々からの恩恵です。忘れがちですが、まちづくりを考えるときにとても大切なことです。
と同時に未来を生きる人々への贈り物ともなります。今を生きる我々の責任でもあります。
サステナビリティを考えるときは、必ず将来世代・現在世代セットです。
しかし、忙しい日々を送る現在世代の我々は、これまでの延長上の視点でばかり考えてしまいます。
未来ではどんなことが当たり前になっているのか。当たり前にしたいのか。当たり前であるべきなのか。
そういった物事を考え出す起点が将来や未来にある「未来志向」のパラダイムに移行することが求められています。
多くの人にとって既知の知識ですが、改めてバックキャストできる考え方がX=変革を共につくっていく全人類共通のものとなってきました。
SDGsとウェルビーイング
「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の構造は↓のとおりとなっています。大きなストーリーの中の一部がSDGsです。
この「宣言」をぜひ確認いただきたいです。そこにはこうあります。
私たちのビジョンは「全ての人が身体的・精神的・社会的にウェルビーイングな世界」と示されています。
ウェルビーイングは私たちが目指す世界の中心的なものとなっていることが確認できます。
また、ウェルビーイングだけでなく、SDGsが示す世界観は5つのキーワードに表れています。どれも「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で頻出のキーワードです。
❶ well-being(よく生きる)
❷ no one will be left behind(誰一人取り残さない)
❸ inclusive / inclusion(包摂)
❹ in lager freedom(より大きな自由)
❺ present & future generations(現在・将来世代)
このキーワードに着目しながら、一度全文を読んでみると、今と未来の世界やSDGsの意味がもっとより深く理解できるようになるので、ぜひ、あなたの1時間を使ってみてください。
ウェルビーイングの系譜
本稿を執筆している2024年において、ウェルビーイングというキーワードが世にますます溢れてきました。今一度、「人類の永遠の問い」であるウェルビーイングをふりかえっていきましょう。そうすることで、日ごろ使っているウェルビーイングという言葉にもっと深い意味をもたらすことができると私は思います。
なお、ウェルビーイングに国際的に確立された正確な定義は未だ存在しません。非常に幅広く奥深い概念であり、まさに人類の永遠の問いといえます。
1925年
第一次世界大戦(1914年~1918年)を経て、膨大な人数の負傷者の存在がそこにはありました。病気やケガがないことだけではなく、「健康とは何か?」という問いが世界的なビッグイシューとなっていくことは必然だったのかもしれません。
注目すべきは、この時代に、カナダにおいて「健康状態」であることを「単なる病からの自由だけではない、ウェルビーイングな状態」と定義されたそうです(参考:田瀬和夫,SDGパートナーズ『SDGs思考 社会共創編 価値転換のその先へ プラスサム資本主義を目指す世界』インプレス, 初版, 2022, kindle版52p.)。
実は、約100年前からウェルビーイングについて考え続けられてきたわけです。
1946年
世界保健機関WHO憲章に以下のとおり示されました。
「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態(well-being)にあること」
※ここでのWell-beingは、「良好な状態」ないしは「良き在り方」といった感覚
1980~2000年頃
Well-beingの考察が正解的に広がり深まっていく時期となりました。
2011~2013年
世界最大のシンクタンクであるOECD(経済協力開発機構)が、「より良い暮らしイニシアチブ(Better Life Initiative)」という2011年に始まったプロジェクトにおいて、well-being を核とした「Better Life Index(より良い暮らし指標)」を確立しました。以降、OECDを支える概念になっています。
そこでは、より良い暮らしに欠かせない11の分野(住宅、収入、雇用、共同体、教育、環境、ガバナンス、医療、生活の満足度、安全、ワークライフバランス)について、40カ国のデータを見ることができます。
さらに、11の分野それぞれについて「自分の豊かさの優先度」を利用者が設定でき、その優先度に合わせたデータの並び替えが可能です。
一度、ぜひ、WEBにてご確認されることをオススメします。
また、そこでは「主観的幸福(ウェルビーイング)とは何か」という論点がありました。比較的講義のウェルビーイングを採用しているものの、明確に3つの要素があると定義づけしていることが特徴です。
OECDが挙げた3つのウェルビーイング
生活評価とは、安心、安全、充足、快適、便利といったこと。
感情とは、喜び、誇り、苦痛、怒り、不安、愛、絆、つながりといったこと。
エウダイモニア(ユーダイモニア)とは、社会的使命やいきがいなど、人が自分の人生には意味や目的があると信じている程度を指します。
もともと、エウダイモニアとは、古代ギリシャの哲学者アリストテレス(紀元前388年~322年)が定義した「最高善」としての「幸福(eudaimonia)」のことです。この考えがウェルビーイングに欠かせないとOECDは考えました。そこに大きなヒントがあるように思います。
心理学によるウェルビーイングの考察“PERMA”
ポジティブ心理学のマーティン・セグリマン(元⽶国⼼理学協会会⻑)が提唱するPERMAは、ウェルビーイングを考察する上で良いツールとなります。
P (Positive emotion / 明るい感情)
嬉しい、面白い、楽しい、感動、感激、感謝、希望など
E (Engagement / 物事への積極的な関わり)
没頭、没入、夢中、熱中など
R (Relationship / 他者とのよい関係)
援助、協力、意思疎通など
M (Meaning / 人生の意義の自覚)
人生の意義、社会貢献、利他行為、宗教など
A (Accomplishment / 達成感)
達成、成果、自己効力感など
このPERMAに沿って問いを設定することで、まちづくり分野で効果的なワークショッププログラムをつくることもできます。
例えば、↓のような感じで5つの項目をそれぞれの組織や場に応じてアレンジして対話してみましょう。特に5つ目のAccomplishment / 達成感を主語をIではなくWeにして対話すると効果的です。
ネクストグローバルゴール
2030年をターゲットに目標達成を目指すSDGsですが、MDGs(Millennium Development Goals: ミレニアム開発目標)からSDGsのように、2030年の国際社会で新たな目標設定が行われます。
ウェルビーイングは、SDGsのネクストグローバルゴールとして「ポストSDGs」とも呼ばれています。
SDGsの掲げる17の目標を達成したその先には「地球全体のウェルビーイングな状態がある」と考えられてます。つまり、現在世代だけでなく、将来世代も含めて、すべての人々が、自分らしく、より良く生きる世界が追及されているのです。
それは、地球全体を主語としたものですが、その実践には地域での一つ一つの取組が必要不可欠です。
だから、私は「まちを生きる人々のウェルビーイング」を目指して、「サステナブルなまち」を作っていきたい。つまり、「サステナブルタウン」をたくさんつくっていくことで社会に責任を果たしたいのです。
後編に続きます。引き続きよろしくお願いいたします。