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「旅する」 リレーコラム② - サチコ

「わたし、旅行がへたなんです。」

少し前まで、旅行の話になるとこんなふうに答えていた。今は多拠点生活や移住をする方も増えたからか、土地をまたいで活動することが普通になり、いろんな「旅」の楽しみ方や解釈が認められているように思う。だから自分なりの「旅」が楽しめればそれでいいのかな、と少し気楽に考えられるようになってきた。

旅行に対する苦手意識

わたしが大学生のときに「旅行」にもっていたイメージは、観光地をめぐって、名物を食べて、そのときどきですてきな写真を撮って、帰ってくる。そんな感じだった。わたしの通っていた小さな大学は3つの学部しかなく、そのうちのひとつが国際学部だった。国際学部のひとたちは当然たくさん旅行をするし、帰ってくるとデジカメで写真をたくさん見せてくれて、「旅行に行かないなんてもったない、価値観変わるから絶対いったほうがいい」と口を揃えて言った。ひねくれていたわたしは「名所をまわって写真撮って変わる価値観ってなんやねん」「その、デジカメの中にあるのが旅なのか?」みたいなことを思って、ますます旅行への苦手意識が増していった。

いま思えばわたしも生意気で視野がせまく、彼女たちのデジカメには入りきらないような体験や、見てきた景色に想いを馳せることができていなかったのだ。(みんな、ごめんなさい)

へたなりに旅行をしてみる

社会人になってもわたしの旅行べたは変わらず、1泊2日でプロレスを見るためだけに初めての沖縄へ行ったり、先輩の結婚式のついでに仙台で観光しようとしても、結局本を買うために本屋さんを巡って牛タンも食べずに帰ってきたりと、トンチンカンな旅を繰り返していた。へたなりにいくつかの土地で過ごして気づいたのは、旅行は苦手だけど、知らない街で過ごすことはとても好きだと感じていること。

家族で金沢にいって父の古希のお祝いをしたり、友達夫婦とまったり過ごすために湯河原へ行ったり、なにか理由があると観光が楽しめるのもわかってきた。新婚旅行ではじめての海外に行ったのも楽しかった。観光が目的になってしまう旅が、どうも苦手だったみたいだ。(だから沖縄にプロレス見に行ってしまうんだろうな)へたなりに旅行を繰り返して、だんだんとコツがつかめてきた。

だれかのルーツをたどる旅

そんななか、先日わたしの父と旦那さんと3人で、旦那さんのふるさとである宮崎を訪れた。お義父さんお義母さんに案内していただき、彼が育った街やそのルーツをたどっていくような旅だった。わたしは以前にも宮崎を訪れたことはあったけれど、父にとってははじめての経験。ましてや新しい家族にあたたかく迎えてもらって、見知らぬ土地をすこしずつ知っていく。それは、どんな旅よりもわたしにとって嬉しい旅だった。「どこに行ったか」「何を食べたか」よりも、誰と、どんな時間を過ごしたかがとても大事なんだ。そして何より、物語が大切なんだなと思った。

幼いころの旅の記憶

ふと、両手で足りるくらいの旅の記憶をさかのぼってみると、そういえば昔から観光という観光をしたことがないことに気がついた。印象的なのが、毎年のように泊まりにいっていたとあるコテージの記憶。母の卒業した大学から毎年のように案内が届き、家族が少し安く泊まれるというその場所に、わたしたちは家族5人で泊まりにいっていた。これがはじめての「旅」の記憶。帰りにどこかに寄ったこともあるとは思うけれど、基本的にはその場所で、家族そろってゆっくり過ごすことが目的だった。夏、青々しい緑の中で涼しく過ごしたこともあったし、冬、雪をかき分けながらコテージの玄関を開けたこともあった。わたしたちはそこを「別荘」と呼んでいた。荷造りから車の中での過ごし方も含め、日常の延長線上にある「旅」だった。これがわたしの旅のルーツなんだと思う。

旅の目的は毎回ちがくていいし、自分なりでいい。そして、物語を大切に。

そう思えてからは旅行が好きになった気がする。

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おまけ的に。わたしの好きな「ムーミン谷の仲間たち」から、スナフキンの言葉を紹介します。

なぜみんなは、ぼくをひとりでぶらつかせてくれないんだ。もしぼくが、そんな旅のことを人に話したら、ぼくはきれぎれにそれをはきだしてしまって、みんなどこかへいってしまう。そして、いよいよ旅がほんとうにどうだったかを思いだそうとするときには、ただ自分のした話のことを思い出すだけじゃないか。そういうことを、どうしてみんなは、わかってくれないんだ、と。(出典:ムーミン谷の仲間たち)

誰かに発表するために旅をするんじゃないから。全部ことばにしなくても、写真にうつさなくてもいいんだと思う。旅先のしらない街で出会った猫のこととか、何となく見つけたいい路地のこととか。バス停で出会ったふしぎなおばあさんとか、ふらっと入ったカフェの店員さんがプラネタリウムまで送ってくれたこととか。ほかにも、たくさんのそういう瞬間をそっと大事に持っておいて、ずっとずっと大切にしたいなと思う。

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最後までお読みいただいてありがとうございました!つぎはゆりさんの番です、おたのしみに!

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