サスメドで果たす、社会的使命。データサイエンティストが描く未来
「持続可能な医療」をビジョンに掲げるサスメド。治療用アプリの自社開発や、臨床試験効率化のためのシステム開発を手がけ、現代の医療を取り巻く課題の解決を目指しています。
今回はデータサイエンティストの井上さんに、サスメドでデータ分析を行う意義や、今後の目標をお聞きしました。
プロフィール
井上 佳(臨床開発部)
新卒で自動車メーカーで数理・ITを使った社内の業務改善を担当。受託分析企業では受託分析PMや部署マネジャー、ヘルスケアスタートアップで睡眠データの分析に従事。現在は臨床開発部として治療用アプリにより患者から取得されるデータの解析、データに基づくソリューションの提案、統計技術を利用した医療業界・製薬業界の課題を解決するサービスの開発を担う。
データを重視する会社だからこそ、活躍できるフィールドがある
── サスメドとの出会いを教えてください。
CTOの本橋さんから届いたスカウトがきっかけです。テンプレ化されたスカウト文も多いなか、本橋さんの文章は明らかに私に宛てて書かれたものでした。経歴をじっくり読んでメッセージを綴ってくださったのが想像できて嬉しかったですね。医療・教育分野かつスタートアップに絞って転職活動をしていたこともあり、サスメドの事業には純粋に興味を持ちました。その後、本橋さんやデータサイエンティストの市川さんの面接を経て、入社へと至った形です。
── そもそも、どういった理由で転職を考えられたのでしょうか?
「成長し続けたい」という思いがあって、スタートアップやベンチャーへの転職を検討しました。私は今中堅層と呼ばれるくらいの年齢ですが、人生100年時代であれば、ここで成長を止めてはいけないんじゃないかと考えたんですね。コンフォートゾーンを抜け出す勇気を持つ必要があるように感じました。
これまで私は6万人規模や300人、20人の会社に所属したこともあるのですが、大きな会社というのはチームで動くので、一人がいなくなっても会社としては回っていくのが実情です。その一方で、少数組織のスタートアップやベンチャーは、良くも悪くも個人の働きが事業や組織に強い影響を与えます。自身の頑張りがダイレクトに事業につながる環境で、今一度自分を成長させたいという思いが転職の原動力となりました。
── 入社の決定打は何だったのでしょうか?
データ分析を深く理解している会社だったことが決定打でした。データサイエンティストの活躍のカギを握るのは、組織の「データ活用に対する理解度」と言っても過言ではありません。組織次第では、「データで語られても信用できない」と言われてしまい、分析が無意味になるケースもあると聞きます。
スタートアップで、これほどまでに理解ある組織は稀有だと感じました。データサイエンティスト兼医師というバックグラウンドを持つ市川さんや、CTOの本橋さん、さらには社長の上野さんまで、データ分析を深く語れる方々が揃っています。上野さんは社長であり医師でもありますが、ご自身で医療データも分析されている方です。根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine, EBM)という言葉がありますが、まさにそれが根付いている会社と思いました。こういった方々と仕事をしながら、日本の未来に貢献できる事業に携われるのは魅力的だと感じましたね。
「新しいもの」と「旧来のもの」を融合させる大切さ
── 実際に入社して、データ分析への理解という意味でのギャップはありませんでしたか。
ギャップはなかったですね。サスメドという会社自体、データを通じて会話し、その結果を意思決定に活かしていくという文化が根付いています。様々な部署の方々とプロジェクトを組んで、医療データを一緒に見ながら実直に進めていけるので、データ分析に携わる者としては大変良い環境だなと思っています。
私は医療業界のバックグラウンドがなく、医療ドメインの知識がほとんどない状態で入社しています。しかし現在は、市川さんからデータ分析を通じて業界構造や臨床現場の実際、生理学や疫学など幅広く学ばせてもらっていて、新たな知識獲得という面白さも感じています。
── 不眠障害治療用アプリを通して、どのようなデータ分析が可能になるのでしょうか。
これまでの不眠障害を治療する過程で得られるデータは、医師の診断結果や薬の処方、検査数値といったものが主でした。しかし治療用アプリによって、これまで取得が叶わなかった、患者さんの日々の活動に密接したデータを取ることができます。何時に寝て何時に起きているのか、どのように生活しているのか、穏やかに過ごせたのかなど、日常部分のデータ化が可能になるんです。治療経過も記録としてしっかり残すことができます。
さらに、たくさんの患者さんのデータが溜まってくると、「こういった生活は不眠障害の可能性を高める」「この人にはこういった治療が効果的だ」というように、デジタル治療ならではの解像度の高い形でデータが把握できるようになっていきます。治療法自体を変えるきっかけになったり、新しい治療法の確立に役立ったりできると信じて業務に取り組めていますね。アプリの大量の行動ログデータと治療に関するデータとの統合と解析は医療にとって新しい領域になります。私がこれまでやってきたデータ分析技術が活かせると思います。
── サスメドだからこそ感じる仕事の難しさはありますか。
そうですね、「治療用アプリ」という新しいものを開発しつつも、薬機法という厳格な規制に則る必要がある点は全員が認識する難しさだと思います。この世に存在しなかった新しいものと、これまで積み上げられていたルールが接触するわけなので、一筋縄ではいかない場面も多くあります。こういった環境ゆえに、サスメドでは「Learn(ラーン)」と「Unlearn(アンラーン)」両方の視点が求められると思っています。新しいチャレンジをするために学ぶ(ラーン)、その一方で、これまで培ってきた知識に固執しすぎず柔軟に融合させる(アンラーン)ことも大切なのではと。
私もラーンとアンラーンのバランスは意識していて、例えば、医療の世界だと医療統計という分野が分析の定番でしたが、最近では新しい分析の技術も入ってきているんですね。機械学習やディープラーニング、AIなどです。それぞれの手法には長所短所があるので、過去のアプローチも参考にしつつとらわれないよう頭をほぐしながら、新しい知識もどんどん吸収しています。
主体性を発揮しながら、次なる挑戦を見据える
── 6万人規模の会社も経験されている井上さんですが、スタートアップであるサスメドに入社して驚いたことはありましたか。
スタートアップらしく荒削りで手探りな部分はありつつも、いい加減な仕事をする人が誰一人として存在しないことにはびっくりしました。サスメドに集うメンバーからはプロフェッショナリズムを強く感じます。最後まで責任感を持ってやりきりますし、関係者に働きかけながら主体的に動いている人ばかりですね。
── 会社全体としてはどのような雰囲気の会社ですか。
うーん、いい意味でキラキラしていないです(笑)。実直で、質実剛健な集団という印象ですね。形式よりも本質を大事にしているのも特徴かもしれません。例えば、サスメドは5つの行動指針を掲げていますが、いずれも文化として本当に根付いていると感じられます。形骸化することなく、ちゃんと隅々まで浸透しているんです。
【サスメドの行動指針】
常に社会的意義を考える
本質的な成果にこだわる
プロフェッショナルとして尊重する
成長を楽しむ
客観的に考え、主体的に動く
── 行動指針が浸透した背景には、経営陣の積極的な働きかけがあったのでしょうか。
社長の上野さんは行動指針をとても大事にされていますが、「行動指針を意識して行動しましょう」と言われたことは一度もないですね。言葉ではなく行動で示す方なんです。わざわざ口にしなくとも、上野さんからは社会的意義を追求しようとする熱量を感じますし、経営陣からは医療への貢献を重視するスタンスが伝わってきます。本質を見極め、強い芯を持って行動している人たちがサスメドにはたくさんいるので、自然と組織全体に行動指針という形で表出したのではないかと思います。
── サスメドに合う人、合わない人はどんな人だと思いますか。
データサイエンティストでいえば「分析だけやりたい」という人は合わないかもしれません。サスメドは裁量が大きい分、裏を返せば「まだ土台がない」ので、ゼロから自分で創り上げていく力が必要です。私の場合はこれまで、データの基盤を作ったり、エンジニアリングの話に入っていったり、事業開発の方々と分析の方向を定めたりと、データ分析以外にも様々な業務に携わってきました。そういったことを楽しめる人がサスメドには合うんじゃないかと思います。
サスメドは治療用アプリや治験支援システムといったプラットフォームが既にあり、質の高いデータを蓄積できる環境があります。そんなプロダクトを生み出せる高い開発力と社会実装力を伴ったプロフェッショナルの集団の一員として働くことにやりがいを感じています。
── 井上さんのこれからの目標を教えてください。
まずは、患者さんや医療関係者への具体的な貢献を果たしていきたいです。「不眠障害治療用アプリで病気が治った」「このシステムで治験のコストが下がった」といった声をいただけるまで、既存事業を着実に成長させていくのが当面の目標です。
そしてその先には、データサイエンスを起点としたゼロイチのソリューション開発も目指していきたいです。具体的には、デジタルバイオマーカーの開発をイメージしています。バイオマーカーとは、疾患の有無や、進行状態を示す目安となる指標のことで、例えば糖尿病であれば“血糖値”が重要な指標になります。私がやりたいのは、スマホから得られる情報を指標にして、不眠障害や精神疾患の度合いを測れるようにする取り組みです。新たな発見が求められる難易度の高いチャレンジですが、もしそれが実現できたら分析者冥利に尽きるんだろうなと感じます。
まだまだ手探りなところも多いですし、今後も幾度となく高い壁を越えなくてはなりません。それでも諦めずに新しいチャレンジを繰り返すことで、日本の未来に少しでも貢献できたら嬉しいです。
取材・執筆/早坂みさと