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クロード・モネ 《サンタ=ドレスの海岸》 〜 アートの聖地巡礼(米国)

米国のアートの聖地のひとつ、シカゴ美術研究所で「もう一度みたい作品」を紹介している。

印象派がお好きであれば、同研究所は、まさに聖地。特にクロード・モネ(1840-1926)のコレクションが素晴らしいので、数回にわけて紹介していこう。

とういうわけで、今日の作品は、クロード・モネ、《サンタ=ドレスの海岸》(1867)。モネが27歳頃の作品だ(*1)。

若い頃のモネは、サンタ=ドレスに度々滞在していたようで(モネの父の家が近くにあった)、この海岸にちなんだ作品を何点か残している(*2)。

モネが「印象派の画家」として知られるようになったのは、1874年、モネが当時としては前衛的な仲間達(ルノワール、ドガ、ピサロを含む)と開催した展覧会で、《印象、日の出》(1872)を出展したからだ。ちなみに、この展覧会は、後に第1回印象派展と呼ばれるようになる(*3)。

となると、このシカゴ美術研究所所蔵の《サンタ=ドレスの海岸》(1867)は、モネが「印象派」として世間で知られるようになる以前に制作され、「印象派のスタイルを模索中の時期」と考えるのが普通だ。が、この時すでに、モネ独自のスタイルが形成されていることが、同作品からもわかる。

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この《サンタ=ドレスの海岸》の主役は、なんといっても画面を占めるの空と海。ブルー、グレー、白を使った軽いタッチも、我々が知っているモネの表現に近い。

浜辺に座っているカップルらしき2人組や、船の整備をしている人々は、作品の中では添え物程度で背景の中に溶け込んでしまっているようだ。そう、何気ない海辺の日常の一コマを描いているのだ。

一方、さりげなく手前にある描かれている青いボートが、作品の重要なポイントになっていることに気付く(これがあるとないとでは、作品の印象が雲泥の差だ)。この憎いほどの配色の計算が、派手さはないのに、この作品を魅力的なものにしていると思う。

ただ、モネは、この1867年に描いた《サンタ=ドレスの海岸》を長い間、公にしなかった。前述の《印象、日の出》(1872)を1874年の第1回印象派展で発表した時も、同作品は、出展しなかった。

なぜか、同作品の完成後、10年近く経った第2回印象派展(1876)で、はじめて出展したのだ。その理由は(今私の手元にある資料では)、わからない。

でも、この《サンタ=ドレスの海岸》を見ていると、モネの《印象、日の出》をみたルイ・ルロワ(1812-1885)が勝手に名付け親となった「印象派」なんていう用語は、モネにとって、どうでもいいことだったのかもしれないと思えてくる。

だって、すでに我々が知っているモネ「らしい」作品を《印象、日の出》よりも、ずっと前に、この《サンタ=ドレスの海岸》で完成させていたのだから。

多分、モネは、第1回印象派展で何かが吹っ切れたんだろうなと思う。あるいは、「自分は、このスタイルでいく」と決めたのかな、とも思う。

そんなモネの底力を感じさせる名品。


NOTE:
*1.シカゴ美術研究所所蔵、クロード・モネ、《サンタ=ドレスの海岸》(1867)に関する、参考資料及び画像は、シカゴ美術研究所の以下の公式サイトより引用。同作品は、クリエイティブ・コモンズ・ゼロ(CC0)の作品。

*2.クロード・モネは、《サンタ=ドレスの海岸》と同年1867年に《サンタ=ドレスの庭》(メトロポリタン美術館所蔵)を描いている。こちらは、1879年の印象派展へ出展。参考資料及び画像は、メトロポリタン美術館の以下の公式サイトをご参考までに(なお、この作品はダウンロード不可)。
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/437133
実は、栃木県立美術館にモネが1864年に描いた《サンタ=ドレスの海岸》が所蔵されている。シカゴ美術研究所所蔵の1867年バージョンの《サンタ=ドレスの海岸》と比較してみると面白いと思う。栃木県立美術館の以下の公式サイトをご参考までに(なお、この作品はダウンロード不可)。
http://www.art.pref.tochigi.lg.jp/collection/title/0008.html
*3.1874年に開催された展覧会で、クロード・モネの《印象、日の出》を酷評したルイ・ルロワ(1812-1885)が「印象派」の名付け親となっているのは、有名な話。その後、1874年にモネと仲間達が開催した展覧会は「第1回印象派展」と呼ばれるようになる。現在、クロード・モネ、《印象、日の出》は、フランス、パリ、マルモッタン美術館に所蔵されている。

なお、同作品は、東京都美術館にて開催された「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展」(2015年9月19日~12月13日)で来日したことがある。