男子400mH世界記録保持者:カルステン・ワーホルムのトレーニングについての要約
LetsRun.comに男子400mHの世界記録保持者、カルステン・ワーホルムのトレーニング記事が掲載された。これは、彼のコーチであるレイフ・オラフ・アルネス氏への2時間にも及ぶインタビューをもとに構成されている。
ワーホルムは陸上競技の世界選手権におけるスプリント種目で、ノルウェーに初のメダルをもたらした選手としても知られている。
ノルウェーといえば、陸上競技においては血中乳酸値を綿密にモニタリングする“閾値モデル”をもとに成功を収め、これまでに男女ともに中長距離種目において世界チャンピオン、世界記録保持者を輩出してきた国である。
以下のワーホルムのトレーニング概要を見ると、練習量の多さ、その中でも高強度練習の多さ、綿密なウォーミングアップ、(短距離選手ではあるが)トレッドミルでの血中乳酸値測定を用いたLTインターバル、膨大なリカバリーといった、まさに“唯一無二”の言い回しがふさわしい驚愕の内容である。
アルネスコーチとのトレーニングについて
カルステン・ワーホルム
・400mH世界記録保持者:45.94
・東京五輪優勝:45.94 大会新記録 / 世界新記録
・スポンサー:プーマ、レッドブル、ノルウェーの食品メーカー、保険会社など
※ 以下の内容は冒頭のLetsRun.comの記事の内容を要約したもの
・U18世界選手権の八種競技で優勝している元混成競技の選手
ワーホルムは400mHを専門とするまでは混成競技やスプリント種目を主に取り組んでいたが、混成競技では特に110mHの成績が良かった。
・現在はオスロを拠点とし、レイフ・オラフ・アルネスに師事
スプリンターの天敵といえる”寒さ”が厳しい国のため、オスロの室内練習場での練習が基本となり、オスロのビスレット・スタディオン(陸上競技場を含むスポーツ施設)でのトレーニングが多い。アルネスコーチとは2015年から指導を受けており、対等な関係性を築くこと、コミュニケーションを頻繁に行うことで良好な関係を築いている。
・アルネスコーチが400mHの可能性を見出した
2015年からワーホルムを指導し始めたアルネスコーチは、翌年のリオ五輪を目標に400mHの選手に転向させた。リオ五輪では48.49の自己新を予選でマークしたが準決勝敗退。しかし、2015年のシーズンベストが51.09なので1年間で2.6秒も自己記録を更新している。
・高強度練習を年間こなすが時期で強度や量が異なる
例えば、一般的な中長距離選手は年間の異なる時期において期分けを行い、基礎構築期に最も時間を割くが、ワーホルムの場合はオフ期間を除いて通年で高強度練習(スプリント)を行う。時期によって高強度練習の強度や量が異なり微調整を施している。
ワーホルムのトレーニング概要
【大まかなスケジュール】
月水金:ハードな練習(午前中から昼食を挟んで19時までの練習)
火木土:イージーな練習(夕方には終わる)
日:休養日
【ハードな練習日のウォーミングアップ】
練習内容に特化した内容で構成。
メニュー例:(60mスプリント×20-30本)×5セット R2', SR長めのレスト
ウォーミングアップ
1. ストレッチ、ジョギング
2. 階段を使う:歩行 → 走行 → ジャンプ
階段:筋に刺激を入れるが着地衝撃を低減させる目的がある。
(階段での走行 ↓ ジャンプの動画)
3. 芝生でのハードルドリル:背中と股関節中心
芝生:練習量を最大化するため路面を変える目的。
4. 自走式トレッドミルでの流し(加速走)
【ハードな練習日のメニュー例】
・(60mスプリント×20-30本)×5セット R2', SR長めのレスト
・ノルウェーは夏季以外では寒さがあるため室内走路で行われる
・練習前に筋温を高めるため赤外線ヒーター+お湯マットで温める
・午前中に実施して通常は数時間の練習量となる
・午後はハードル練習とウェイト
・ワーホルムはウェイトが苦手であるがコーチは彼が苦手にしている練習を処方することを好む
・ハードな日は午前から始まって昼食を挟んで夜の7時頃に練習が終わるので練習量はかなり多い
【イージーな練習日のメニュー例】
・アップ:様々なジャンプ、プライオメトリクス、強化目的のドリル
・トレッドミルで2分間のLTインターバル×20本 R1分
※ R時に血中乳酸値を測定して適切な強度に抑える
イージーな日の練習目的:ハードな日に備えて体を整え回復を促すこと
【リカバリー】
これだけの多くの練習量をこなそうとすれば、良質なリカバリーを取れるかどうかが重要となる。休養日にはジャグジーに長時間入ることが知られている。その最長時間は3時間47分だったとか。
(ジャグジーに入浴している様子 ↓ 写真2枚目)
その他、マッサージを受けたり、食事内容としては加工食品を避けることを徹底している。また、練習日もリカバリーへの工夫がある。ウォーミングアップやハードル飛越などで芝生などできるだけ柔らかめの路面を選んでいる。また、アルネスコーチが独自の路面を開発し、リカバリーを保つことに貢献しているという。
ワーホルムは2022年に故障の影響で世界選手権で7位にとどまったが、2023年シーズンは初戦のDLオスロで46.52のDL記録を樹立し、2戦後のノルウェー選手権では後続に6秒差をつけて46.76を記録。7月21日にはDLモナコで今季4戦目に臨む。
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