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NCAA(全米大学体育協会)におけるNIL契約と陸上競技選手のNIL契約例
今回はNCAA(全米大学体育協会)で2022年から今年にかけて話題になっているNIL契約(The Name, Image, and Likeness契約:名前、画像、肖像権契約)について取り上げる。簡単に言えば企業が学生を広告やPRに起用するための契約に関するNCAAの取り決めである。
なお、本noteは陸上競技における発信を基本としているが、今回はNCAAのスポーツ全体の取り組みの中での陸上競技におけるNIL契約の契約例や概要を説明する。
本noteの要点
・アマチュアリズムを貫いてきたNCAAにおいて、学生がNIL契約を企業と結んで金銭を受け取ることが可能となった(それまで禁じられていた)。
・NIL契約が明らかになることで企業はその他のプロやタレントを広告やPRで起用するのと同じように、アマチュアの学生選手を広告やPRで公に起用することができるようになった。
・NIL契約は選手の成績に応じた出来高やインセンティブを含んでいない。
・NIL契約の巨大市場はアメフトと男子バスケであり、それ以外のスポーツにおいてのNIL契約はまた違った側面を持つ。
・日本の学生スポーツ(アマチュアスポーツ)においてのNILはどうか?
NCAAの陸上選手で初めてNIL契約を結んだケイトリン・トゥーイ
https://t.co/g30C8Iafg6
— Sushiman 🇯🇵 (@sushimankawarai) November 25, 2022
・NCAAは従来からアマチュアリズムを掲げてきたが2021年7月にNIL契約(氏名・肖像権契約)を解禁
・企業とNIL契約を結んだ学生は企業のPRに起用可
・NCAAの陸上選手で初めてスポーツブランドとNIL契約を結んだのがインスタフォロワー9万人のケイトリン・トゥーイ(NC州立大
NCAAは従来からアマチュアリズムを掲げてきたが、2021年7月にNIL契約を解禁 し、企業とNIL契約を結んだ学生は企業のPRに起用されることが可能となった。それまではアマチュアリズムを保つためにNCAAの規定で学生は企業から報酬を受け取ることが禁じられていた。
※ NCAAの学生はダイヤモンドリーグや各大会等で賞金を受け取ることにも規制がある(つまり、プロ選手のように招待料や賞金の獲得を狙った大会スケジュールを組めない)。
NCAAのアマ選手の報酬に関する参考記事:
NCAAの陸上選手で初めてスポーツブランドとNIL契約を結んだのが、現在インスタフォロワー10万人のケイトリン・トゥーイ(ノースカロライナ州立大)である。今季室内で1マイル 4:24.26、3000m 8:35.20の全米学生新をマークし、全米学生室内で3000, 5000mの2冠を達成。
トゥーイの代理人は陸上競技の大手スポーツマネジメント会社であるフリン・スポーツ・マネジメントを率いるレイ・フリン氏。NIL契約のその見た目は、例えば大手スポーツブランドと選手とのプロ契約(ここでは一定の報酬を得る契約)と似た交渉 / 契約内容であるが、NIL契約では記録ボーナスなど企業からの報奨金、インセンティブは受け取れない(例えば野球でもプロ契約では成績にちなんでインセンティブに関する契約条項=出来高払いが存在する)。
NIL契約のメリットはいち学生として大学の施設や試合 / 遠征での費用補助などの教育面のリソースを享受しながら企業と契約が結べる点にある。大学のトラックやジム、寮などあらゆるリソースを享受できる。
従来であれば、NCAAの選手が企業とエンドースメント契約(肖像権利用や商品化権等に関する独占契約)を結ぶと、それはすなわちプロ契約となり、アマチュアリズムを貫くNCAAでの出場資格を失うことであったが(つまり、プロ契約を結んだ時点で全米学生選手権の出場資格を失うという慣例だったが)今後はそのまま大学生としてNCAAの出場資格を保有しながら企業とNIL契約を結ぶことが可能となった。
陸上競技の中長距離選手ではトゥーイがアディダスと、チャールズ・ヒックス(スタンドフォード大・2022年欧州クロカンU23優勝)がナイキとNIL契約を結んでいるが、それぞれノースカロライナ州立大がアディダスと、スタンフォード大がナイキとそれより前から契約しており、企業と学生選手とのNIL契約はチームが契約しているブランドとの契約が中心になると思われる。
(スタンフォード大のヒックスはナイキとのNIL契約を自身のYouTubeで発表したが、この動画はナイキのプロモーションであることを明示している)
NCAAにおけるNIL契約が始まった経緯
NCAAのNIL契約市場において、巨大なマーケットとなっているのがアメフトと男子バスケの2大スポーツ。特にアメフトはその巨大すぎる市場規模からもNIL契約をめぐる水面下での競争の激しさの想像がつくだろう。
では、NIL契約が始まった経緯とはどのようなものなのだろうか?
↑の記事より抜粋
2021年6月にアメリカの最高裁判所がNCAAに対して判決を下した際、名前、画像、肖像 (NIL)の取り決めの変更に拍車がかかった。
アメフトのテレビゲーム制作や選手の肖像を利用した公式の大学グッズ販売などに対する複数の学生側からの訴訟によりNILの取り決めが誕生した。学生は自分の名前、画像、肖像から利益を得ることができるが、基本的に学生アスリートは競技成績に対しての報酬を受け取ることは許可されない。
NILの裁定が実施され、最終的に学生選手は自分の肖像に対して補償を受けることが可能になり、企業からのスポンサーシップを得ることができ、SNSでの投稿に対価が支払われ、多くの場合が代理人との契約を交わすこととなる。
学生選手は自身の知名度や競技成績に基づいた発信力を武器に、報酬を得ることができ、NIL契約は本質的に、ある意味でのアマチュアリズムの崩壊を意味している。
あまりにも長い間、学生選手は名前、画像、肖像をもとにしたビジネスにおいて搾取されてきた。NCAAに対する訴訟の数々は学生選手を有利な立場にに戻した。
学生選手は授業などの教育、寮や住居、食事(栄養士などのサポート)、トラックやジムなど施設面などのリソースを享受していることもあるが、それでも名前、画像、肖像に関する今回の訴訟のケースにより学生選手の競技における活躍の場が平等となった。このことにより、最終的に大学での競技がより楽しくなる。
潜在的なNIL契約はたくさんあり、チーム入りする前から高校生の段階で代理人からの水面下での接触を受けること、例えば栄養ドリンクやスポーツに関する製品のスポンサードを受けるまで多様な契約が存在する。
また、BYU(ブリガムヤング大学) のように、全ての同大学の学生選手(Cougarアスリート)が独自契約に基づき一定の報酬を得るというNIL契約も存在する。
日本のアマチュアスポーツと箱根駅伝で誰が搾取されている?
2022年から本格化してきたNCAAにおけるNIL契約の始まりとは、簡単に言えば、学生のNIL(名前、画像、肖像権)を商売の売りにするアマチュアリズムの崩壊を意味している。もっとも日本で言えば、甲子園や箱根駅伝に関して選手の名前、画像、肖像を利用してビジネスを展開する時に、例えば学生を広告に起用する場合は、企業はチームやスタッフ、仲介人、広告代理店はもとより、広告に起用された学生たちに報酬を支払っているのか?ということへの問いも生まれる。
最近では東海大、名城大、中央大、駒澤大などの学生がナイキの駅伝シーズンの広告に、青山学院大や國學院大の学生がアディダスの広告に、立教大学の学生がプーマの広告に、拓殖大の不破選手がニューバランスの広告に起用された。
しかし、アマチュアスポーツとは言え、日本は箱根駅伝がプロスポーツであるといえる実業団駅伝よりも人気があるといった形で歪んでいるので(プロ市場 < アマ市場)このようなアマチュア選手との広告・PRに関する取り決めを日本学連や関東学連などの統括団体がNCAAのように行うべきである。
※ 日本における野球・サッカーの場合はアマ市場 < プロ市場である
とは言え、お金の話になると、関東学連は箱根駅伝関連で広告代理店やテレビ局から巨額の資金を得ているだろうから、まずはそれらを含めて年間の収支を公開すべきだろうが…。
もし、実業団チームよりも学生や駅伝チームの方がコストがかからずPR効果、費用対効果が高いなら、彼ら(学生たちに)に報酬・対価がもっと支払われても良いだろう。
また、以下のように日本ではステマ行為(PRであることを伏せて発信すること)が法規制されるようになるので、今後の企業のPR戦略や予算編成などに変化が訪れるかもしれない。
https://t.co/PmjvKzMfzV
— Sushiman 🇯🇵 (@sushimankawarai) March 30, 2023
“ステマ行為”が今秋より法規制。
新作のランニングシューズにおいては近年は特にナイキ以外のブランドのステマが常習化しています。
立証が難しいにしても、特にPRを生業にしている人は、広告案件でPRであることを明記する必要があり、それが最低限のマナーだと思います。
先ほど触れたように、企業とNIL契約を結んでいるNCAAの学生選手はSNSでの投稿で広告であることを表示している。
NIL契約ではどれぐらいの契約を結んでいる?
以下のランナーズワールドのNIL契約に関する記事によれば、NCAAにおけるNIL推定契約額のTOP 3の選手のスポーツはバスケ、アメフト、体操である。
【NIL推定契約額TOP 3】
1位:720万ドル(約10億円弱)
ブローニー・ジェームズ(NBA選手レブロン・ジェームズの息子)
2位:370万ドル(約5億円)
アーチ・マニング(アメフトの名門マニング家のアメフト選手)
3位:340万ドル(約5億円弱)
オリビア・ダン(ルイジアナ州立大学の体操選手)
これらは推定額であるが、アマチュア選手の学生とはいえ例えば日本のプロ野球選手に匹敵するような契約額である。
また、いわゆるインフルエンサー的なSNSのフォロワーの多い学生選手もNIL契約の対象となり、その場合は必ずしも競技力成績がトップクラスというわけではない。企業はそのようなインフルエンサー選手のリストを作成し、NIL契約の交渉時の資料として使用し、選手のフォロワーなどの発信力がNIL契約の契約額に影響する。
陸上選手では走高跳と十種競技のトップ選手であるテキサス大学1年生のサム・ハーリーが、NCAAにおけるNIL推定契約額の18位にランクイン。高校時代にTikTokのスターとして有名になったハーリーの推定契約額は110万ドル(1.5億円)である。
この他、NIL契約のルールでは、選手が自身で夏合宿等の有料の合宿や練習会を企画したり、自分のギアなど商品を発売することに関する活動で、少額の報酬を得ることを認めている。イメージとしては日本のランニング系YouTuberやインフルエンサーが行っているようなことと同じことである。
しかし、このようなNIL契約は全ての選手が対象になるわけではない。単純に競技と勉学に集中したいと考えている選手もいて、企業のPRへの時間を作る必要がないと考えている選手もいるためである。そもそも、勉学と競技の両立だけでも大変であるが、PRのために動画を作ったりSNSの発信の文章を考えることは、慣れていない学生選手にとって負担になる時もある。
このようなことを考えると、NIL契約に関するニュースや動きは今後も注視することで企業と学生選手のPR活動の幅がどのように広がっていくかを見ることができる。また、日本でもこのようなNIL契約のような学生選手と企業とのPRにおける契約など透明性を保って欲しいと思う。
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