おりおんを謎るこんな深い夜
作家の米澤穂信先生が何かのインタビューで外に出かけて周りを見渡せば、ちょっとした謎というか不思議に思うことがあったりするみたいなことを言っており、なるほど日常の謎を題材にミステリーを書く人は普段の生活からヒントを得ているんだなあと思ったことがある。
最近、ウォーキングを始めた。ジョギングもエアロバイクも続かないけどウォーキングは割と続いている。三日坊主の壁を越えられたことに我ながら感心する。とにかく体を動かせればそれでいいという心構えで、ただただ歩く気楽さが続けられる理由かもしれない。
とは言え、実際にただ歩くだけというのは味気ないし、人間は無心で歩くことだけに集中できるわけもないので、音楽を聴いたり景色を楽しんだりしながらのんびり楽しんでいる。ウォーキングというよりは散歩だな。このときに米澤穂信先生の言葉が思い出される。
本当に謎というか不思議に思うことなんか見つかるものかなと半信半疑で散歩していると、なるほど確かに見つかるのだ。それはほんとに些細なことだったり、答え合わせができるものではなかったりするのだけど、あーでもないこーでもないと歩きながら考えていると結構いい暇つぶしになる。今日もひとつ謎を見つけてずっと考えていた。
平日は夜歩いているのだけど、歩くときは決まったコースを歩いている。そのコース中にそこそこ長い直線道路がある。距離を測ったことはないけど、少なくとも1kmはあると思う。片側一車線で歩道があり、僕は歩道を歩いていて、1台の車が僕を追い抜いて行った。ちなみに田舎なのでほとんど車のとおりは少なく、直線を歩き切るまでに車に出会う回数は夜間なら5~6台といったところである。車は僕を追い抜いて行ったあとすぐに右のウインカーを出した。そしてウインカーを点滅させたまま数十メートル真っすぐ走った後、ウインカーを消して走り去ってしまった。
最初にウインカーの点滅を見たとき、特段おかしなことではないと思った。道路は直線だけど、道沿いに車の修理工場やら民家やらが並んでおり、曲がって入る場所はそこそこあったから。ただ、そのどれにも車は入らなかった。その車の前に別の車はなかったので追い抜きをしたいわけでもないし、ただ右のウインカーを出して真っすぐ走り去っただけだった。
最初に考えたのは間違えてウインカーを出してしまったのではないかということ。例えばドリンクホルダーが車の運転席の右側にあって運転しながら飲み物を取って、また飲み物をドリンクホルダーに戻すときにはずみでウインカーを押してしまったのかもしれないと考えた。
次に考えたのは犬や猫といったペットが押したのかもしれないという可能性。さすがに突飛すぎやしないかと思ったけど、かなり前に運転席に一緒に座るようにして(ハンドルを握る腕と腕の間に犬を座らせる感じ)運転している人を見かけて、危ないことするもんだなあと思ったことがあったので同じようにペットを座らせて運転していたら、ペットがウインカーを押してしまったのではないかと考えた。
最後に考えたのは、結局間違いや何かのはずみで押してしまったのではなく、交通ルールに従ってウインカーを出そうとしたという可能性。実は道沿いにある家や工場のどれかに入ろうと思ってウインカーを出したけど、何か別の用事を思い出してやめたとか。
実際に答えを知ることはできないから、考えるだけで終わってしまうのだけど、自分が納得できる一番可能性がありそうな答えを考えるのが楽しい。あきらかにありえない、こじつけだろうと自分でツッコミを入れてしまうような推測を思いつくこともあるけどそれもそれで楽しい。自分の想像力も馬鹿にしたものじゃないなと思う。
ちなみに僕のウォーキングコースは目的地まで着いたら、もと来た道を引き返して家まで帰るコースになっている。くだんの直線道路まで戻ってきたときに、そういえば道路上をよく観察していなかったなと思いついて注意しながら歩いてみた。そうしたらどうして往路では気づかなかったんだろうと思うような大きめのゴミが落ちており、これ避けようとしてウインカーを出して反対車線へはみ出そうとしたけど、近づくにつれてゴミだとわかってきたので踏んでしまっても問題ないと判断して、まっすぐ走ったのではないかと推理した。
これも本当のところはわからずじまいだけど、一番ありえそうな答えが出たので満足した。脳内では古畑警部補が犯人を無言で促し、犯人はどこか吹っ切れた表情でソファから立ち上がり古畑警部補に続いて部屋を出ていった。誰もいなくなった部屋を映しながら流れるエンドロール。おなじみのテーマソング。名探偵ごっこ楽しいなあ。
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