リーダーに求められるコーチング力
リーダーのあり方
大手企業を中心に、コーチングが社内に導入されるようになってきました。具体的な例としては、リーダー研修の一環としてコーチングを研修に盛り込み、部下や後輩と接する際の一つのスキルとして習得させるといったものです。
■導入の目的
・リーダーの育成(管理職)
・エグゼクティブの育成(役員)
・社内コーチの育成
リーダーにビジネスコーチングスキルを習得させる背景には、経済状況やビジネス環境などの様々な変化に伴い、従来のトップダウン型からボトムアップ型へとマネージメントの姿が変わりつつあるためです。時代とともに働く人の価値観は大きく変わり、働く人の目的と会社の目的をリンクさせ組織目標を達成できるリーダーが求められています。
ビジネスコーチングとは
日本でも「コーチング」が日本経済新聞などのメディアに取り上げられることが増えてきました。コーチと聞くとアスリートに指導するコーチというイメージがありますが、最近ではビジネスの領域で活躍するビジネスコーチが注目を集めています。
コーチングを端的に言い表すと、行動を促すコミュニケーションスキルと言い表すことができます。スポーツの領域でのコーチングではアスリートへ指導(アドバイス)が行われますが、ビジネス領域でのコーチングでは基本的に指導(アドバイス)はせず、部下や後輩とのコミュニケーションにより、相手の持つ能力を引き出し主体的な行動を起こすことに重点を置きコーチングを行います。
■コーチングの種類
・ビジネスコーチング
・エグゼクティブコーチング
・ライフコーチング
・メンタルコーチング
※この他にも各分野に特化したコーチングがあります
コンサルティング、カウンセリングとの違い
コーチングとの違いについてよく問われるものに、「コンサルティング」と「カウンセリング」があります。
コーチングは、クライアントのありたい姿にフォーカスしコミュニケーションによってクライアントの中にあるものを引き出しますが、「コンサルティング」では、コンサルタントが独自に持つ知識・経験・情報・ノウハウ・人脈等をクライアントに提供します。一方、「カウンセリング」は一般的に精神的な悩みを抱えた人を対象とした相談援助であり、気持ちを整理することにアプローチします。
■それぞれの特徴
【コーチング】
・アドバイスをしない
・適切な質問により気付きを促す
・クライアント中心の会話
【コンサルティング】
・独自のリソースを提供する
・積極的なアドバイス及び介入
・コンサルタント自ら解決策を見出す
【カウンセリング】
・相談援助
・積極的傾聴
・リファーを行う(医療機関等)
なぜビジネスコーチングが必要なのか
これまで、日本の産業は労働者数と生産量、売上が比例する労働集約型産業が主流でした。社員個々人の価値観や能力の発揮よりも、労働者数自体が業績に直結していました。しかし、現在は社員個々人の主体的な気付きや主体的な能力開発・発揮が会社の業績を左右する知識集約型産業が主流となってきています。例としては、GAFAをはじめとするIT産業が挙げられます。IT産業以外でも、製品やサービスの質や量ではなく、デザインやアイデアが業績を左右するビジネス環境となってきています。
知識集約型産業では、主体的に考え行動する人材の育成がより重要と言えます。よって、主体的な考えや行動を促すビジネスコーチングの重要性は、より高まってきています。
■会社が必要とする人財
・自己研鑽に励む
・会社に収益をもたらす
・人材育成ができる
・先見の明を持つ
・プロフェッショナルである
・困難に立ち向かう
ビジネスコーチングの目的と効果
ここでは、ビジネスコーチングの目的と効果について確認しておきたいと思います。
①組織目標の達成
ビジネスコーチングによって部下や後輩の主体的行動を促し、経営計画に基づいた組織の目標達成に貢献することが、ビジネスコーチングの主な目的や効果と言えます。
②部下の能力開発と主体性発揮
「コンサルティング、カウンセリングとの違い」でお伝えした通り、ビジネスコーチングでは部下へアドバイスをせず、コミュニケーションによって部下が主体的に考え行動し、答えを出していくというプロセスを踏みます。ビジネスコーチングの導入により、部下の能力や主体性の発揮が期待できます。
③自己肯定感の向上
部下の自己肯定感の向上についても、ビジネスコーチングの重要な目的や効果と言えるでしょう。リーダーによるコーチングにより引き出された考えや行動とは言え、部下自らが主体的に行動し成果を出せた時は間違いなく自己肯定感は向上し、大きな自信を持てるようになるでしょう。部下の成長がリーダーの成長となり、そして組織の成長となるのです。
ビジネスコーチングの仕組み
ビジネスコーチングについての概要や背景、目的や効果を見てきましたが、ここではビジネスコーチングの仕組みについて解説したいと思います。
ビジネスコーチングの流れを図解すると、上記のようになります。リーダーは部下の話にしっかり耳を傾け、新たな気付きを促すような質問を繰り返していきます。こうすることで部下の頭の中が整理されていき、気付きが生まれます。部下に気付きが生まれ主体的行動に移せるようになった時リーダーは後押しをし、部下が目標達成、問題解決に自信を持って取り組めるようサポートをします。
これが、ビジネスコーチングの仕組みとなります。次項から、具体的ビジネスコーチングスキルについて解説していきます。
ビジネスコーチングスキル
■基本スキル
①認めるスキル
②聴くスキル
③質問するスキル
④フィードバックするスキル
⑤リクエストするスキル
①認めるスキル
部下に安心して話してもらうことを目的としたスキルです。評価の気持ちや先入観を持たず、ニュートラルな気持ちで接することが求められます。例えば、リーダーがPC入力作業中に部下から報連相を受けた時、ラップトップを閉じ部下に体を向けて話を聴くなどが挙げれらます。また、普段から「おはよう」や「お疲れ様」などの声を、部下に掛けるなども認めるスキルに含まれます。
部下の存在そのものを尊重し認めてあげることが、「認めるスキル」の大切なポイントとなります。※後述しますが、部下との信頼関係を築くための第一歩となるスキルなため、日頃からぜひ意識して頂きたいものです
②聴くスキル
認めるスキルと同様に最も重要で基本となるスキルで、部下に気落ちよくたくさん話してもらうことを目的としています。部下に気持ちよくたくさん話してもらうためには、話を途中で遮るなどせず最後までしっかり聴くことが大切です。また、部下からの報連相を聴き要約してあげることで、しっかり聴いているという姿勢を部下に示すことができます。
作業をしながらの聞くではなく、全身で聴くことが「聴くスキル」の大切なポイントです。
③質問するスキル
認める、聴くの延長として、部下の中にあるものを引き出すことを目的としているのが、質問するスキルです。的確な質問は部下と同じ気持ちを共有し、同じ視点に立つことで生まれます。また、部下が主体的に行動を起こしチーム目標や組織目標を達成する原動力となる、部下のありたい姿をリーダーは把握しておくことが大切です。「何のために仕事をするのか」「仕事で達成したいことは何か」「理想的な生活はどういうものか」などを、オープンクエスチョンやクローズドクエスチョンを使い分けて引き出してください。
■オープンクエスチョン
部下から広がりのある答えを引き出すための質問方法。
※Yes/Noでは答えられない
例:どのような目標を目指しますか?
■クローズドクエスチョン
部下の言うことを確認したり、決断を促したりする際の質問方法。
※Yes/Noで答えられる
例:目標はありますか?
④フィードバックするスキル
部下の気付きを促すことを目的としています。部下の話を聴いて感じたこと、見えたことなどを、そのまま伝えます。フィードバックする時に大切なのは評価や批判なしに部下の話をそのまま受け止め、ニュートラルな気持ちでいることです。リーダーの考えを押し付けたり、コントロールするために使用してはいけません。
また、フィードバックする時には、ときとして勇気が必要となる場面もあります。「これを言ったら嫌われるのではないか」「傷つけてしまわないか」といった思いを克服することもリーダーとして求められます。
⑤リクエストするスキル
ビジネスコーチングによって部下から主体的行動案を引き出せた時に、後押しすることを目的としてこのスキルを用います。部下の中から引き出された具体的行動は主体的に行われる確率が高くなり、意欲的に取り組む傾向にあります。明確になった行動が絵に描いた餅にならないよう、リーダーは軽く背中を押してあげるのです。
スキルよりも大切なこと
先日、スキルだけではうまくいかないという記事を書きましたが、実は、ここまでお伝えしてきたスキルだけでは、部下との良好なビジネスコーチングを行うことはできません。せっかくコーチング研修を受けたのにうまく機能しないのは、スキルよりも大切なことがあるからです。
スキルよりも大切なもの。それは、部下との信頼関係です。
信頼関係があるから部下は安心して話すことができ、リーダーは認め聴くことができます。信頼関係無くして部下のありたい姿を聞き出すことは困難であり、主体的行動を起こし目標を達成することはできません。
部下との信頼関係は、過去から現在までのリーダーの立ち振る舞いに関係するため一両日中に改善することは不可能ですが、コーチングマインドを常に意識することでこれまでよりも良好な関係にすることは可能となります。
コーチングマインドを持つ
優れたリーダーは優れた人材育成をし、組織目標を達成します。なぜなら、コーチングマインドを持ち合わせているからです。
■コーチングマインド
①部下の無限の可能性を信じる
②部下の100%味方になる
③答えは部下の中にあると信じる
組織目標を達成することのできるリーダーは部下を信頼し、部下を味方し、部下の持つ可能性を信じます。また、部下を変えようとするのではなく、リーダー自身が変わることの大切さを知っています。
ここまで、ビジネスコーチングに必要なものとしてスキル、信頼関係、コーチングマインドをお伝えしてきましたが、これらの土台となる最も大切なことを次項でお伝えします。
最も大切なのは「自己基盤」である
部下の育成や組織目標を達成するには、リーダー自身が目標達成についての深い見識を持っていることが必要です。リーダーは常に部下のロールモデルでなければなりません。
その前提として、リーダー自身が自分自身をよく理解し、自分に対して肯定的な感情を持ち、それを部下に開示できることが大切です。これらのことを、銀座コーチングスクールでは自己基盤と呼んでいます。この自己基盤は、部下の可能性を信じるためのコーチングマインドを発揮するための大前提となります。
■自己基盤とは
人格、人間力、自己肯定感とも言い表せます。パーソナルファウンデーション(Personal foundation)と表現することもあります。
自己基盤が確立されたリーダーの特徴
・困難から逃げず正面から立ち向かう
・部下を信頼するが感情には流されない
・常に誠実で知ったかぶりをしない
・勇気を持って部下と接しリスクを取れる
・物事に自信を持って取り組む
自己基盤を知りこれを強化することで、これまで研修等で学んできたビジネスコーチングスキルを活かすことができるようになります。そして、優れた人材を育成し、組織目標を達成できるようになるでしょう。
何よりも、自己基盤強化→コーチングマインド醸成→信頼関係構築→ビジネスコーチングスキル習得というプロセスを踏んだリーダー自身のメンタルも健康的になり、自身はもとよりチーム全体にも好影響を与え雰囲気の良いチームとなるのはいうまでもありません。
最後に
現在、多くの企業に必要とされているビジネスコーチングについて解説をしてまいりました。最後までお付き合いくださり、厚く御礼申し上げます。
普段、私はコーチングスクールを営んでおり、各業界で頑張るリーダーたちへビジネスコーチングについて、理論的かつ実践的にクラスを運営しております。クラス運営する中で感じるのは、リーダーは悩んでいるということです。特に、課長や部長などの中間管理職は悩んでいる。そして、かつての私のようにコーチングにヒントを求め、私のところへ訪れるのです。
かつて、私が組織でリーダーを務めていた頃、彼らと同じように悩んでいました。
■仕事を任せられない
■部下の育成ができない
■部署間の調整がうまくできない
■上司と部下に挟まれる立場になり判断に困る
■組織目標やビジョンを打ち出せずチームをまとめられない
自分にリーダーは向いていないのではないか、と何度も思いました。しかし、会社を辞めるわけにはいかない。様々な葛藤がある中答えを求めるため本を読み漁り、ビジネスコーチングを知るに至りました。
当時の勤務先に依頼しコーチング研修を受け、コーチング理論を学びスキルを覚え実践したのですがうまくいきませんでした。上述した通り、スキルだけではコーチングは活かせず、かえって部下に違和感を与えてしまうことをこの時知ったのです。
短時間のコーチング研修では本質的な解決は困難であると思い、最もコストパフォーマンスに優れる銀座コーチングスクールに私費で入学し、本格的にビジネスコーチングを学びました。同じような悩みを抱くクラスメイトたちとビジネスコーチングを学び、悩みを打ち明け、励ましあっていく中で、徐々に心が軽くなっていきました。
ビジネスコーチングを学びながら、自分自身が変わっていくのを感じました。スキルを身につけつつ部下との信頼関係構築を重要視し、コーチングマインドを基に部下と接し、そして自己基盤を鍛える。気がつけばこれらが習慣化され、以前よりもマネージメントにやり甲斐を感じるようになり、チームの雰囲気もよくなっていきました。部下が主体的に業務に取り組むようになったことで私の業務も減り、定時で帰れることが増え私の家庭環境も良好になるという副作用もありました。
ビジネスコーチングはビジネス領域に特化していますが、コーチングそのものはあらゆる領域で活きる大変便利なツールです。実は、私がコーチングを学んだことを最も喜んでいるのは、私の妻です。話をよく聴いてくれるようになったと。
今週末も、コーチングにヒントを求めるリーダーたちが、私のクラスにやってきます。このnoteを読むあなたも、もしかすると悩めるリーダーかも知れませんね。あなたもビジネスコーチングを学び、あなたのありたい姿を追い求めてみませんか?