おまかせ全部レビュー #松野寿司
『コスパ』という言葉を信じられない。正確に言えば、その言葉を安易に使う人と、その使われ方に疑問を抱いている自分がいる。それは「価格以上の価値を生み出している」という意味なのか、ただ単に「安い」ことだけを指している言葉なのか、判断に困ることが多い。
恐らく言葉それ自体にも原因があって、横文字の「コストパフォーマンス」だと意味が分かりづらい。そんな時は「費用対効果」と考えるとすっきりすると思う。価格(=費用)と価値(=効果)を天秤にかけた時、価値に傾かなければいけない。これは決して釣り合ってもいけない。そう考えると、本当にコスパの良い店はどのくらいあるのだろうか。
価値を「質」と「量」に大きく二分して考える。フレンチは質に振り切っている。料理を出されているのか、皿の余白を出されているのか分からないそれ(偏見)は、価値を一点に凝集させた宝石のようなものなのだろう。それに対してデカ盛りやビュッフェは一定以上の美味しさを担保しながらも、ひたすら量で私たちの満腹中枢を刺激してくる。
現代の人間にとって食は「欲求」と「文化」の両側面を持つ。過度な空腹は「量」を渇望するし、余裕があれば「質」を追求する。故に質と量の間に絶対的な上下関係はないが、できる限り両方を求めたくなるのが人間。それを実現したのが松野寿司だと個人的に感じている。
池袋から1駅の椎名町にその店はある。れっきとした豊島区だが、少し離れただけでここまで空気が違うのか思わせる住宅街の息遣い。ここなら真摯に鮨と向き合えそうだと駅を降りて思った。駅からは歩いて5分程度、完全に街に溶け込んでいる。
店に入ると穏やかそうな親方が一人。お年を召しているが、板場、片付け、会計の全てを一人でこなしているのだから驚き。「ごめんなさいね、今片付けますから」と常に低姿勢なのも人間の鏡。誰かが「鮨屋は人生を売っている」と言っていたが、この方からは語らずとも尊敬できる人生を感じ取った。
7/2のおまかせは4000∼4700円
10/8のおまかせは4500∼4800円
まずは「おまかせ」か「おこのみ」を選ぶところから。時期によって変わるが、基本的に5,000円以内でまとめてもらえる「おまかせ」がおすすめ。握りは王道で古典的、余計なことは一切せず、鮨としての美味しさを感じられる。私の行った2回分のおまかせコースを紹介したい。
7/2のおまかせ+追加 合計¥7000
墨烏賊:一貫目の墨烏賊でここのシャリと山葵を理解する。
真鯛
平目
蒸し鮑:むっちり食感とミルキーさが完璧だった。
巻き海老:車海老はサイズの小さなものにこだわる。
鳥貝
春子
赤身漬け:伝統的な柵漬けで。
小鰭:酸を感じながら小鰭自体も殺さない丁寧な仕込み。
穴子:粘度高めの煮詰めが歴史を感じさせる。穴子の柔らかさも一流。
平貝
煮蛤:こちらも煮詰めが輝く。
巻物:鉄火、小肌、干瓢
玉子:昨今の甘いものではなく、鞍掛でいただく伝統的スタイル。
10/8のおまかせ+追加 合計¥7500
帆立のお造り:頼んでもいないのに、他のお客の対応で待たせてしまうからとサービスをいただいた。親方の心意気に感謝。
墨烏賊:やはり墨烏賊は一番バッターが似合う。
真鯛
赤貝:産地までこだわるのは難しくてもしっかり高級食材が出る。
真梶木:何か分かりますか?と聞かれたが分からなかった真梶木は鮪のトロのような味わい。昆布締めにしてあるそう。
巻き海老:自分はここの車海老が一番好きだ。
イクラ
あん肝:これは他のお客さんにつられて頼んでしまった。たまにはオーソドックスな食べ方も美味しい。
鯵
赤身漬け:柵漬けされた側面が美しい。
小鰭:赤身漬けから小鰭の流れは絶対に外さない。
煮蛤
鰯
鱚:季節感を持たせたネタも出る、これぞ鮨と思わされる。
煮烏賊:握りで煮た烏賊を食べることはほぼない。初体験だった。
北寄貝:食感が楽しい。
鰹:切れ端ですが、とこちらも親方からのサービス。旨いです。
中巻き
玉子と干瓢巻き
握りが旨いので毎回追加して5,000円を超えてしまうが、それでも『コスパ』がいいお店だと言い切れる。振り返ってみると赤身漬けは出ても中トロや大トロの類がない。それでも満足して帰れるのが松野寿司だ。一貫一貫に妥協をせず、その上お腹いっぱい食べられる。いつ行っても満席なので、最低でも1週間前には予約するのをおすすめする。
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↓↓↓松野寿司の“巻き海老”について書いた記事はこちら↓↓↓
↓↓↓松野寿司の“蒸し鮑”について書いた記事はこちら↓↓↓