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おまかせ全部レビュー #鮨一
”寿司不毛の地”渋谷でおすすめできる数少ないお店の1つ。若手の親方は明るく会話を絶やさず、カウンターデビューにも安心して臨める雰囲気。特に土日限定の8000円ランチコースはハイコスパが有名で、若者から年配の方まで広く利用している。
店名の「一(はじめ)」は親方の名前ではなく「皆が一つになる」という意味らしい。握り手が一人ではないので、チームワークを重視した温かい店内だ。ネタへの仕事は江戸前そのもので、1つ1つの説明からはシャリから薬味まで細部に至るこだわりを感じた。
友人から寿司屋の相談をされることが多いが、ここはかなりおすすめできるので紹介したい。
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誕生日利用で予約したところ、親方から嬉しいサービス。初訪問で顔見知りでもないにも関わらず、ここまでサービスしてくれる気前の良さ。ここまでくると、逆に怖いくらいだ。
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胡麻の香り鼻を撫でる豆腐。和食テイストのつまみが続くが、親方のバックグラウンドが気になる(札幌のすし善出身とのこと)。最近は和食出身の方も多く、流行に敏感な渋谷らしい、時流に乗ったスタイル。
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黒胡椒を含ませた醤油に漬けてから備長炭で炙った鮪の頬肉。一部では希少部位としてもてはやされ寿司でも食べることはあるが、個人的には完全に火入れした方が美味しいと思う。
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熊本の水那須。分厚くカットされながらも箸で簡単に切れるほどふわふわで、とにかく甘みがすごい。寿司屋で天ぷらを食べるのも初めてで新鮮な気持ちになった。
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5日間寝かせて食感も落ち着かせる。1貫目としてはあまり見ないネタだが、握りへの期待が高まる。
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身がしっかりした走りの鯵。釣りと言うので鹿児島かと尋ねると、時化の関係で今回は静岡のものを使っているとのこと。てっさにも使うような香りの強い「河豚葱」を忍ばせているのもポイント。
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塩締めのみで酢に通していない春子鯛。醍醐味のふわふわした食感を残すための工夫だそう。
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2種類ある漬け方を比較した上で親方なりの理論を持って選択した「平漬け」。ねっとり感とクリアな身の質感が素晴らしい。
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東北で取れる毛蟹に似た蟹。後ろから見た姿が毬栗にそっくりらしい。淡白ながらもしみだす甲殻類の味と香りが美味しかった。
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赤身と同じ個体。「良い鮪は色が変わりやすい」と酸素濃度や漁獲後の締め方の話を詳しく聞かせてくれた。親方は柔らかい鮪を好んで仲卸の山和(やまわ)から鮪を仕入れているそう。
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誕生日だからと山盛りにしてくださった塩水雲丹。こんだけ積まれれば繊細な紫雲丹のクリーミーさがダイレクトに伝わってくる。幸せだ。
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鯖の棒寿司もやっているが、客の好みを見て太刀魚を使い始めたらしい。しっかり脂があるので、後半に置いても見劣りしないネタ。
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どうやら穴子の漁獲量が最近良くないような話も聞くが、対馬の上物が食べられた。写真では小骨が見えるが、食べても全く気にならない。
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芝海老と大和芋を練り込んだ伝統的な江戸前の玉子。たっぷり空気を含ませたシフォンケーキのようなタイプ。