悔しさ・怒りをポップに昇華させ、いつか「属性」を超えて見せる覚悟の歌『ピッコロ虫』by 眉村ちあき #わたしの好きな歌
「属性」は歯がゆい。
使い方はよく知らんけど、今ドキなら「界隈」とか言うのかしら。なんにせよ、社会で生きていくとなんかしらの「属性」にカテゴライズされるのが現代人である。私ならざっと「男性」「30代独身」「理系」「技術系サラリーマン」などと分類されるだろう。
毎週楽しみにしているラジオアプリGERAの番組『吉住の聞かん坊な煩悩ガール』の「#182 第7回単独を終え」は他人事とは思えない気持ちで終盤を聴いた。
第7回単独公演『朝焼けのメリーゴーランド』の手ごたえや反響、今後の単独に向けてのスタンスなど真面目な話も含め、終始楽しく聴くことができた。
しかし終盤の5~6分間で自称「クレームババア」として吉住さんが苦言を呈する場面があり、それに結構ショックを受けている。
すごく簡単にいえば、同じ事務所に所属する後輩の「女芸人」に「吉住さんのようになれたらいいですね!」といったコメントをTwitter(新:X)で送っているお笑いファンがいるらしい、という件についてクレームを言っている。
⇩なお単独公演の感想はこちらに書きました。皆さんすごいライブなので配信を買いましょう。
吉住さんのことを「女版バカリズム」なんて言っている人をたまにSNS等で見かけるが、吉住さん本人いわく「バカリズムさんみたいですね」は嬉しいけど「バカリズムさんのネタみたいですね」と言われると良い気分はしないとのこと。
それと似たようなことが後輩の「女芸人」に起きているのであれば、それは「かかってこいやこの野郎」「コテンパンにしてやっかるよ」という気持ちでいるらしい。頼もしい限りです、教祖様。
たしかに、芸人は誰とも被らないオリジナリティーのある芸風を確立するほうが絶対によくて、「〇〇さんみたいになれるといいですね」なんてコメントは芸人さんへの応援のように聞こえるけど、そのコメントを受け取った芸人さんからすれば、悪意はないとしても不愉快なのかもしれない。
ただより深刻に私がショックを受けたのは「属性」についての問題だ。
吉住さん自身がもっと若手だった時代に、「女芸人」というだけでナメた態度をとってくるお笑いファンや、オーディション等でマトモに相手をしてくれない番組関係者(スタッフ・放送作家)と遭遇してきたらしく、その「怒り」が今も原動力になっている、と語っていた。
一億歩ゆずって、芸能界は特殊な原理で動いている業界だからそういうこともあるかもしれないとしよう。
けれどやっぱり私は「東京医科大の入試男女差別」のことが忘れらない。教育機関が明らかな差別意識、もしくは根本的解決に注力せず女性合格者を減らすことで問題を先送りにしたこと、およびこのニュースを世間が忘れつつあることがいまだに信じられない。私のような「男性(ヘテロシス)」の想像を超えるような差別が「女性」に対し日常茶飯事のように起こっているのではないかと思うと怖いし、私自身もなんかしらの差別や偏見を抱いていないかといつも怖い。
さて、一連の吉住さんのメッセージを聴いて真っ先に思い出した歌がある。「弾き語りトラックメイカーアイドル」を自称する眉村ちあきさんが2018年に発表した『ピッコロ虫』という曲だ。
眉村ちあきさんといえば『ゴッドタン』で即興ソングを披露し、その天才的すぎる感性でお笑いファンにも名が知れているミュージシャンではないだろうか。
彼女はかつて、ある大型ロックフェスのオーディション(当時ラジオでフェスの名前を挙げていた気がするがもう忘れた)で「54番、眉村ちあき、弾き語りトラックメイカーアイドルです!」と言った瞬間、たくさんの審査員に下を向かれた経験があるそうだ。
いまでこそモーニング娘。が大型ロックフェスに参加して会場を盛り上げているが、当時は「アイドルがロックフェスに出るなんて・・・」という空気だったのかもしれない。「アイドル」という属性に当てはまるだけで、彼女はチャンスを失っていたのだ。
この歌では「アイドル」というだけで審査を放棄した人々への怒りがユーモラスに綴られている。「君のまだ見ぬ世界なだけ」と言ってくれているあたり、かなり親切でさえある。
「アイドルがロックフェスに出るなんてありえない」なんて思っている人に「それは人から聞いた話でしょ?ちゃんと歌を聴いてよ」という眉村さんの魂の叫びが聞えてくる。私はすごく精神的に弱っていたとき、信じられないくらいこの曲で涙を流した。
いやいやここまで書いてきたことと同一視するなよ、とツッコまれるかもしれないが、私も会社の中である特殊な「属性」に当てはまる仕事をしているため、容姿(というかハッキリいって髪型)のことを間接的にたしなめられた。その時の怒りは下記の記事に書いたのでそれを読んでいただくとして。
ちょっと酔いが回ってきてこの記事の着地がわからんくなってきたのだが、眉村さんが感じた「悔しさ・怒り」をポップソングに昇華してユーモラスに仕上げてくれただけ「親切」だと思ったほうがいいと思うし、それが眉村さんの才能なんだと思う。見とけよ、再来年大ブームになっても知らんぞ!という負けん気も見えて、この曲は本当に大好きだ。
審査員の「見る目がない」のはしょうがない。しかし「見る気がない」のは大問題だ。それがもし「女芸人」「アイドル」というだけでナメた態度でいたならさらに根が深い。
「属性」とやらをハミ出してこそ面白いんじゃないか?と常日頃思っている。私自身「〇〇の仕事をするならば、髪型・話し方・品格を考えてほしい」と(あくまで遠回しに)言われ、おもんねえなと思ったもんだ。
そんな風に「お前の髪型はいかがなものか」と言ってくるルッキズム主義者なんて、そっちのほうが淘汰されるべき時代にもうなっていると私は思ったのだが・・・。
最後は個人的な愚痴が続いてしまったが、アルコールを摂取しているので多めに見てくれたらと思う。とにかく一度聞いていただきたい名曲である(でも『おばあちゃんがサイドスロー』もナンセンスで好きなんだよな・・・)。
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