ドラマ『未成年』実写で描くべき同性愛とバズ - 2025/01/17 日記#245

・最終回を迎えたので感想などを書きます。大丈夫、今回は結構褒めてるはずです。

・正直感想よりもJBLのヒット考察についてのほうがメインです。


感想

・ちゃんと最終回まで面白かった。

・物語としてはかなりシンプルで、高校時代に出会った真反対の二人が少しずつ距離を縮め互いを特別視していくが、未熟、子どもが故に離れることになり、数年後に再会というストーリー。こうして書き出すと、ありふれた恋愛ストーリーの流れだ。深夜のBLドラマの中でも大きくヒットした作品の一つ、『美しい彼』も要約すると同じ流れだね。

・このシンプルで繊細な物語って日本は結構得意なはず。タイは気候や国民性が明るいイメージがあるし、中国系はとにかく長編骨太ストーリー、やっぱり一番日本と印象が似ているのは韓国だけど、韓国はファンタジー系や歴史モノも結構得意な気がする。

・客席にぽつぽつと数人いるだけのミニシアターで、静かにおだやかに流れる邦画のような質感も良い。脚本や画面もすべてにおいて余計な装飾を削ぎ落として、短い尺と少ない予算であろう中、とにかく二人の人生を描くことだけに注力して良かった。しかし見せ場の場面にはちゃんと時間を使っていたのも印象的。最終話で二人が台詞もなくベッドで寝転び見つめ合っているだけのシーンに贅沢に尺を使っていた点にこだわりを感じた。あのシーン、愛おしさや隣にいることへの安堵、そして少し緊張した空気が伝わってきてとても良かったね。私はどんな作品でも長回しのシーンが大好きなんだ。

・本編でも可愛いキスシーンなどたくさんあったけど、よりセンシティブなシーンは配信限定に持っていったのも上手いなと思った。いくら深夜帯とはいえ、アクセルかかったシーンはマニア向けのご褒美でいいでしょう。配信サイト側はお金も稼げるし。

・二人とも違う意味で家庭環境に恵まれていない、というか家庭内でのすれ違いがあり、性格や立ち振る舞いに繊細さが出ていたのも今どきっぽい演出だった。アフターストーリー含めて少しわだかまりが残るようなエンドもリアルで良い。

フィクションと同性婚と同性愛

『未成年』が選んだリアル

・『未成年』の中では「結婚出来るようになったらしよう」という台詞が出てくる。現在の日本でも、原作の韓国でも同性では結婚が出来ない。

・蛭川は家族に結婚について聞かれたときに「出来るようになったらする」とそのまま答えてると話した。「どういう意味?」と聞かれても「どういう意味だろうね?」と核心には迫らないけれど嘘も言わず、察しの良い人なら気がつくこともあるかもしれない。

・一方の水無瀬は上司にも「彼女はいません」と言うし、母親からのお見合いの打診もはっきり断れず、蛭川との関係性はひた隠しにしている。しかし堂々とSNSで婚約を公表し、法律婚が出来る男女カップルを羨ましく思っている。

・蛭川は最悪バレても、自分がどう思われようと世間体をあまり気にしないタイプに見えたが、保守的な家庭で育ち一般企業に勤める水無瀬はそうはなれない。現在日本の当事者も、蛭川のように嘘はつかないまでも上手く躱している人か、水無瀬のようにただひたすらに隠しているかの二択を選んでいる人が多いだろうと思う。堂々と公表している人はおそらくほんの一握りだ。

・蛭川が「あの頃水無瀬のことが好きだった」とかつての同級生たちに打ち明けた瞬間の空気は最悪だった。昔だったら「お前なに馬鹿なこと言ってんだよ!水無瀬は男だろうが!」と誰かが突っ込んでいたかもしれない。下手にLGBTQというワードが広まった世の中で、同性愛者の存在も皆知っているし、馬鹿にする態度はとらないからこそ、あの空気になるんだ。いじっちゃいけない存在。

・今どきの優しい作品なら「まじで?全然気づかんかったわ~!」とナチュラルに受け入れてもらえるんだろう。だけど現実はまだそこまで進んでない。『未成年』ではリアルを選んだ。

優しいフィクション

・一方で、親や友人にも快く受け入れてもらえる、障害があったとしても同性であることは問題ではない、同性であることに一切の言及がない作品も最近は増えているだろうと思う。特にタイを中心に。具体例あまり思いつかないけど。『Young Royals』は割とそうだったかも。

・この優しいフィクションが生まれた経緯には、悲劇ばかりのゲイ映画という前日譚がある。名作である『ブロークバック・マウンテン』『モーリス』『覇王別姫』『ブエノスアイレス』、近年の作品だと『君の名前で僕を呼んで』『エゴイスト』など。とにかく死別だの破局だの家族や世間に理解されないだの、そんな悲劇ばかりだ。実際にたった30年前まで同性愛は病気扱いだったのだから、悲しい現実も多かっただろう。

・その反動で最近の映画やドラマでは、同性愛であることそれ自体を悲劇にしないというメッセージが込められた作品も増えてきたのだと思う。BL系作品でもわざわざそこに言及する作品は少ない。だからこそ、『未成年』にはリアルで良かった、という感想がつく。私もそう書いた。

・ただ、優しいフィクションやあえてリアルを選択した作品の過去には、悲劇ばかりの作品たちがあったこと、それを変えてきたのは制作側の努力やファンの意見であることを知ってほしいなと思う。

どちらを描くべきか

・倫理的にどちらを描くべきかという問いに正解はない。強いて言うなら、どちらの作品も存在していて欲しい。

・ヒットさせるためにはどうだろう。あまりに差別的な表現は入れられないし、温かい作品が好まれる傾向はあるだろうが、当事者ではない人が当事者の現実を無視して完全なるフィクションとして描き切るのも批判があがりそうだ。

JBLとヒット

・タイドラマオタク御用達、My Drama Listの感想で日本産BLのことをJBLと海外の皆さんが書いているのを見て、私も使いはじめた。日本BLとか国産BLとかあんまり語感などしっくり来なかったけど、JBLはシンプルでいいね。

高校生モノ

・上の感想でシンプルだったと書いたが、日本の深夜帯のドラマは基本的に予算も放送時間も少ないことは想像に難くない。むしろ少ない予算、短い尺、経験が浅く知名度もあまりない若手の役者、それらを駆使してヒットさせるには、シンプルな学園ドラマが一番相性がいいのだと思う。

・特に経験値の少ない役者さんがコメディや社会人を演じるよりも、未成熟で荒削りな学生役の方がハマると思うし、まさに今回の『未成年』もそこがぴったりハマっていたように思える。実際本島さんのスーツ姿はまだまだ着られてる感が強かったね。可愛いけど。

・もちろん『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』や『みなと商事コインランドリー』など学園メインではない作品もちゃんとヒットしているけど、これはテレ東が凄いだけなのではないかとちょっと思ったりする。

・逆にJBLの社会人モノはまだまだ質が低いと思う。お仕事モノこそストーリーに力を入れると予算が掛かるし、ある程度年齢が上のキャストにお願いしなければならないのでそこでもまた若手の役者よりお金がかかるだろう。深夜ドラマに求めるのは無理なのかな。『オールドファッションカップケーキ』とか古いけど『どうしても触れたくない』とかくらいの、お仕事内容にはあまり言及しないけど社内でのちょっとした変化があるようなライトな描写でも十分なのだけど。『パーフェクトプロポーズ』といい『4月の東京は・・・』といい、やたらブラックで胸糞悪いファンタジー上司ばかり出さないでくれたらそれで・・・。

2024年

・2024年で言えば、私が酷評した『コスメティック・プレイラバー』がかなりの人気作のよう。

・評価されている点は演技力やビジュアル、お仕事面・・・らしい。ビジュアルや演技面は確かに他のドラマと比べるとかなり万人受けするキャスティングだったように思う。おそらく王道っぽいラブコメでグイグイいく萌えシーンがライトファンにもウケたのかな・・・。

・私は2024年で言えば『ひだまりが聴こえる』や『スメルズ・ライク・グリーン・スピリット』がどちらもBLが主題(SLGSは違うかもだけど)でありながらもそこに重きを置きすぎず、学生生活や家族関係、友情や自立、成長という別ベクトルの話も交えてしっかりドラマをやっていた点が好きだったのだけど、BLオタにはあんまりウケてないようで悲しい。

ビジュアルとモーメント

・『未成年』や『コスラバ』のヒットから、結局は顔とモーメントの多さが最重要なのではないかという気がしている。

・まずはビジュアルについて。『未成年』と『コスラバ』、どちらも癖が少なく万人受けしそうなビジュアルの二人をメインに持ってきている。内容云々はおいといて、まず一番初めにビジュアルが受け入れられるかどうかという関門がありそうな気がしている。

・例えば百合、GL作品だとこのビジュアル面のハードルはおそらくBLよりも低い。街中で手を繋いでる女の子二人組がいたとする。カップルかもしれないが、友人同士でも普通にするだろうな、と思うでしょう。ある程度の年齢になってからでも同性の友達と手を繋いで歩いた経験は女性なら1度くらいはあってもおかしくない。例えおばちゃん、おばあちゃん同士でも仲が良いなと思う程度だろう。では男の子二人組だとどうだろう。高校生くらいならまだしも、おじちゃん同士で手を繋いでにこやかに歩いてる景色はあまり想像がつかない。同性と身体的距離が近いことに対する心理的ハードルに男女差があり、その影響でビジュアル面での受け入れにも差が出来ている気がしている。これはもう男女という性そのものの根本的な理由だろうけど、何をどう検索すればそのあたりの考察に行き着くのかわからないので割愛。

・とにかくBL作品が広い層にヒットするには、まず第一にこのビジュアルというハードルがあり、どれだけ中身が良い作品であろうともビジュアルが受け付けなければ中身まで見てもらえないという面は少なからずあるだろう。

・そして、過去作だと『君には届かない。』や『オールドファッションカップケーキ』あたりも割と万人受けしそうなビジュアルの役者を主役にしていると思うが、二作ともそこまで大きくヒットした印象はない。私はこの二作に欠けていたのはモーメントの量なのではないかと思う。

・『未成年』の序盤は1話につき1回はどこかでモーメントシーンを作っているし、『コスラバ』もキスシーンが多いらしい。

・『未成年』の場合は後半に差し掛かるとシリアスな展開でモーメントシーンもぐっと減ったが、既に序盤でファンを獲得しているので無理にモーメントを詰め込まなくても視聴を継続して見守るファンが多かったと思う。

・『コスラバ』は逆に2話同時放送だったので、確か2回目の放送時点で二人の関係にも決着がつき、焦らされることもなく安心して二人がいちゃいちゃする様子を見られたのがファンを掴んだ要因なのかな。

・すごくわかりやすいアンケートをとっている方がいた。このアンケートを見ると、『未成年』の2~6話までは必ず1回以上キスシーンが入っていたらしい。そこからは最終話まで目立ったモーメントはほとんどなし。原作は読んでいないのでどの程度カットしたりオリジナルシーンがあったり日本向けのローカライズがあったのかはわからないが、これは視聴者を掴むために意図的に作った流れだと予想している。

・そしてSNSでの無断転載。とにかくモーメントシーンをたくさん切り抜いてプチバズしているアカウントがおすすめに流れてくる。こういうファンの間で拡散したくなる、興味がなかった人も手軽に萌えるシーンだけ見て本編に興味を持つ、モーメントの力は偉大だ。BLはどれだけ丁寧なドラマを描いたとしても、キスシーンの量で勝負されては分が悪い世界なのかもしれない。少なくとも今の日本では。そもそも私はBLの大半をポルノだと思っていて、商業の約9割が多少なりともエロシーンあり(ちるちるのタグ比率参照)なのだから、ポルノ需要が高いジャンルなのは明白だろう。

・話は戻るが『未成年』は特にこのビジュアル、モーメントに加えて二人の恋愛と人間的成長というシンプルなテーマを短い時間で描いていて本当に凄い。ビジュアルやモーメントを重視する層も、とにかくストーリーを重視する私のような厄介オタク層も、両者満足できる作品を作ってくれたと思う。

・ただビジュアルやモーメントが重要視されるのは知名度の低いタイトルと役者を使った深夜帯や配信ドラマの場合であり、ゴールデン帯ドラマ、具体的には『おっさんずラブ』や、映像畑でも知名度がある役者を使っていて原作ファンも多い『きのう何食べた?』や『チェリまほ』『美しい彼』など例外も存在する。まあ『美しい彼』の要は八木勇征さんだった気もするけど。

完全サブスク限定はヒットしない

・ほとんどのドラマは地上波で放送、同時にTVerといずれかのサブスクで独占配信、半年~1年後に各種サブスク解放という流れ。

・しかし、サブスク配信サイトが独自で制作したドラマは独占配信になる。最近だと『Love in The Air -恋の予感-』がその例。私は気になるけどFOD限定なので見てません。そのかわりU-NEXTにある原本を見始めました。

・どれだけ面白い最高のドラマを作っても配信限定ではバズりません。

・そうしないことには素人には想像のつかない理由があるのだろうが、せめて1、2話をyoutubeで配信とか、タイでよくあるNCシーン込みの完全版を有料にするとか、各種サブスクにも解放とか、地上波で流せないなりの工夫がないとよっぽどのマニア層しか見ない。

・最悪なことにあらゆるドラマはbilibiliに無断転載されているので、サブスク限定にしたところでbilibiliで見られて終わりだ。

・唯一希望があるのはNetflix。Netflix限定ドラマは24年夏の『地面師たち』、海外ドラマでは『イカゲーム』など、一般ドラマもかなりのヒットを叩き出している。BLファンでいえば25年は『ソウルメイト』と『10DANCE』の公開が控えている。どちらも実力ある役者を使った作品なので本当に期待している。

・あと私が気が狂うほどハマった『Young Royals』が配信されてるので本当に見てください。

・日本ではほとんど話題にならなかったけど、世界的に見るとスウェーデンの若手の役者が『The Tonight Show』にまで出演したのは十分大きなヒットでしょう。

「BLを超えた」

・「BLを超えた」の意味は、ビジュアルとモーメント特化でイケメン同士のいちゃいちゃだけを映したストーリーの薄い作品ではなく、ゴールデン帯の一般ドラマに匹敵するほどのストーリーに加えて主軸がイケメン同士の恋愛ですよ、となる。

・現状はまさにビジュアルとモーメント特化のドラマがヒットする図になっている。「BLを超えた」という表現に対して「馬鹿にするな」と訴えている私のような厄介オタ層と、イケメン同士がいっぱいキスしていればそれで最高な層は相容れないし、後者の方が母数は多いだろう。

これからのJBLとヒット

・ではこれからのJBLもビジュアルとモーメントに力を入れたドラマを一番にありがたがり、それらが制作されていくという構図でいいのかと言えばまったくそんなことはない。

・この話は卵が先か鶏が先かの話になるが、制作側はビジュアルとモーメントさえしっかりしてればいいんだろ、とBLファンを馬鹿にせず、ちゃんとストーリーも面白い作品を作り、BLファン側もビジュアルとモーメントの部分だけを評価する流れをやめ、ストーリーにも着目して作品を持ち上げる方向にシフトしていって欲しい。

・実際、タイBLはこの数年でかなりその方向へ制作側とファン側が団結してシフトし、全体のクオリティを上げているのだと思う。制作側も熱量高く理解やアップデートを重ねているだろうし、ファン側もそう。私は最近まったくタイドラマ見てないのでわからないけど、噂に聞く感じでは。

・私がタイドラマにハマった頃はみんな『SOTUS』と『2moons』を見てた。それしかなかったから。比較対象がないからBLドラマというだけで画期的で最高に面白いと思っていた。もちろん他にも何作かある中で飛び抜けて人気の高かった2作なので面白いのだけれど、あれから約8年経った今配信されているドラマと比べると、拙いところが多いと思う。今のファンが『SOTUS』や『2moons』を見て、当時の私達と同じ熱量でハマってくれるかといえば、難しいだろう。

・日本も同じだと思う。数が少ないからその中でビジュアルとモーメントで惹きつけられる作品が最高に面白いものだと信じている。いよいよその価値観をひっくり返す時が来たのではないだろうか。24年は20作品以上ものJBLドラマが配信され、25年は更にその数が増えるかもしれないし、全体数は少なくとも、ハイクオリティな作品が多数出てくるかもしれない。

・もちろんすべてのドラマが重厚で複雑なストーリーである必要はないが、面白いドラマが正しく評価され、ちゃんとヒットする流れを作っていきたい。制作側と我々ファン、共に手を取って。

・でも、私の思う面白いってずれてるのかな。24年の評価はこれです。


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