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環境問題は既に地球の限界を超えている。その種類と深刻さを説明します。

環境問題って色々ありますが、何があって、どれが一番深刻なのでしょうか。地球の限界を考えると人の経済活動が越えてはいけない線が「プラネタリーバウンダリー」と言われています。そのデッドラインに対してどれだけ環境破壊が進んでいるかを示したのが表題の図です。温暖化(気候変動)よりも地球環境に深刻な影響を与えていると言われているものは、「生物化学的循環(窒素、リン)」、「土地利用変化」、「生体圏の一体性」で、いずれも農業に深くかかわるものです。これらについて解説していきます。

人類が地球環境に及ぼす影響の程度

地球は非常に大きくて我々人間はとても小さい存在です。ですので我々がちょっとくらいガソリンを燃やしても、あるいはゴミを捨てても、海の水を1リッター汲むのと同様に地球には大きな影響がないように錯覚します。しかし、地球に果てはあって我々人間の人口は膨大です。海の水を1リッター汲んでも1トン汲んでも問題ないですが、1万トン、1億トン、1兆トンと増やして行けばどうなるでしょうか?地球は大きいですが、経済活動による影響を受け止めるには限界があるということも近年分かってきました。

我々の経済活動が地球の姿を変えているのは間違いないですが、自然の限界がどのくらいで、それに対してどのくらい負荷をかけているのかを考えた話として「プラネタリーバウンダリー」という報告がありますのでご紹介します。

プラネタリーnote

プラネタリーバウンダリー

「プラネタリーバウンダリー」はウィル・シュテフェンらが報告した考え方です1)。上図は「平成29年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」から引用しました2)。

これまでの地球科学の歴史や様々な知見から、閾値と現在の値を割り出し、環境破壊による地球の変化が

①経済活動が安全に継続できるゾーン(緑、〇)
②経済活動の継続に不確実性が伴うゾーン(黄色、✕)
③経済活動を荒廃する(devastating)可能性が高いゾーン(赤、✕✕)

に分けて図にしています。①と②の間の境界は急激で戻ってこれない変化を引き起こす可能性があるとされています。この①と②の間、地球環境を考えると人の経済活動が越えてはいけない線が「プラネタリーバウンダリー」とされています。

選定されて評価の対象となっている環境破壊の項目と、その評価結果は以下の通りになります。

・気候変動:✕
・新規化学物質(化学物質汚染):?
・成層圏オゾン層の破壊:〇
・大気エアロゾルの負荷:?
・海洋酸性化:〇
・生物化学的循環(窒素、リン):✕✕
・淡水利用:〇
・土地利用変化:✕
・生物圏の一体性(生態系機能の消失:?、絶滅の速度:✕✕)

となっています。各項目の具体的な閾値と現在値はwikipediaの「プラネタリーバウンダリー」3)等で確認できますので是非そちらも見てみて下さい。評価されている項目の半分が「プラネタリーバウンダリー」を越えているという残念な結果になっております。

ここでは、環境破壊の項目として普段あまりなじみがない「生物化学的循環(窒素、リン)」、「土地利用変化」、「生体圏の一体性(生態系機能の消失、絶滅の速度)」について解説します。「気候変動」は他のサイトでも紹介されているのでここでは割愛します。

生物化学的循環(窒素、リン)

化学や生物になじみがない人には窒素やリンと言ってもピンとこないと思いますが、窒素やリンは農業で使用する肥料です。農作物は土の栄養を吸って育ち、農作物は収穫されます。このため、定期的に肥料を補給しなければ土の栄養は減っていきます。特に窒素・リン酸・カリウムは肥料の三要素と呼ばれています。

人が地球で暮らす前から窒素やリン酸などの栄養素は地球上に存在して生命や大地の間をゆっくりと循環していました。しかし、人が農業を始めて同じ農地から持続的に農作物を収穫するためには、肥料の投入が必要になってきました。産業革命以前では人や動物の糞、灰、骨等を集めて肥料としていました。時代が下ると鰯や油粕等が使われていましたが、その調達量や栄養供給量には限度があり地球規模での問題を起こすことはありませんでした。

産業革命以降、人類は空気中の窒素を用いて肥料を作ることができるようになりました。空気中の窒素をアンモニアにして土地に撒くことで、穀物の収穫量は飛躍的に増えました。このため、この方法を作ったハーバーは「空気からパンを作った男」と呼ばれています。リン酸は19世紀になってから鉱物として採掘できることが分かり、大量に採掘されて散布されはじめました。

窒素もリン酸も安く大量に生産可能となったため、農作物の収穫を上げるために大量に投入されるようになりました。化学肥料と農薬を使用する農業を近代農法と言います。化学肥料と農薬には賛否あると思いますが、爆発的な人口増による食料需要の増加に対して農地の増加は限定的でしたので、化学肥料と農薬なしには人類に食糧を賄うことができなかったと思います。

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しかし、大量に散布された肥料はやがて川に流れ、海に到達します。これらの化学物質は特定の生物には毒として働き、多くの植物や植物プランクトンの成長を促します。このため、自然界の生態系が人間の活動のために大きく変わっていく可能性があります。人間が肥料のために作るアンモニアは自然界が固定している窒素の量に近づいてきており、もともと地球をゆっくり循環していた窒素の量は化学肥料によって激増しております。これによって生態系に及ぼす影響が懸念されています。

土地利用変化

地球規模で湿地や森林が、主に農地(畜産や綿花なども含む広義の農業)に転換されており、地球上に元々あった森林の1/3以上が既に破壊されたと言われております1)。

森林は地球規模での化学物質、水の循環や変換に大きな役割を果たしております。例えば、人類が排出した二酸化炭素を吸収したり、大地の水を保持したりしております。また、多くの生物の住処となり生物学的多様性を守っています。

森林が農地に転換されていくと地球規模でのこれらの機能が失われていきます。

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生体圏の一体性

英語では「biosphere integrity」で環境省は「生体圏の一体性」と訳しておりますが、個人的には「生体圏の完全性」と訳した方が分かりやすいと思います。地球上の生物圏が果たしている役割をどれだけ破壊してしまっているかと言う指標になり、具体的には「絶滅の速度」「生態系機能の消失」の2項目で定量化されて評価されております。

地球上には非常に多くの生物が存在し、環境に適応しては新しい種が誕生して、適応できなくなった種は絶滅しております。(約1万年前から)現在は6度目の大量絶滅4)と呼ばれる大量絶滅期に入っており、恐竜をはじめとした多くの生物が大量に絶滅した「K-Pg境界」よりも早いスピードで生物が絶滅していると言われております。なぜこのような大量絶滅が起きているかは議論が続いていますが、産業革命以降の大量絶滅は人間の経済活動で引き起こされているというのが定説です。

生物の多様性がなくなっていくことにはいくつかのリスクがあります。1つは環境変化が起きた時にたくさんの種が居れば適応できる可能性が高くなり、生物が生き残れる可能性が上がります。例えば地球上に人と家畜しか大型動物が居なくなったら、大きな環境変化(例えば寒冷化)であっさりと地上から動物が居なくなってしまうかも知れません。2つめは、我々が認識していないけれども非常に重大な役割を担っている動物を絶滅させてしまった場合、人類にも大きな被害をもたらす可能性があります。例えばかつて中国では作物を食い荒らすとして大量にスズメを駆除しましたが、かえって害虫の被害が増えて多数の餓死者が出ました5)。同様に我々の農業や物質の浄化などに役に立つ生物をうっかり絶滅させてしまった場合は、経済的に非常に大きな代償を払うことが懸念されます。また、地球規模での大切な自然の機能を減らしてしまった場合、生態系に大きな影響を与える可能性があります。これが「生態系機能の消失」です。

なお、人間の経済活動による絶滅の原因としては、森林伐採、狩猟、汚染、非在来種の様々な地域への導入、家畜や作物を通じた感染症の広域感染、気候変動などが挙げられます。畜産を含めた農業は多くの土地を使用するため野生動物の住処を奪うだけでなく、非在来種を大量に輸送しています。また、我々の大量消費、大量廃棄の生活スタイルを支える工業は気候変動や大気と水質汚染を通じて多くの生物の絶滅に寄与しています。

現在の種の絶滅率は、自然背景絶滅率の100~1,000倍と推定されています。

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農業による環境破壊を減らすには

農業による環境破壊を減らす方法はいくつか考えられます。この中で我々が今日からできる方法の一つに食生活を見直すがあります。畜産は多量の水と穀物と豆を利用します。我々の食生活を肉食から植物性のものを増やせば農業生産を減らして、地球環境への負荷を減らすことができます。詳細は「野生動物を保護したいなら、植林や寄付より食事の肉を減らしましょう。ビーガンが環境に良い理由ついて分かりやすく説明します。」にかきましたのでそちらも併せてごらんください。

まとめ

以上を振り返ると温暖化(気候変動)よりも地球環境に深刻な影響を与えていると言われているものは、「生物化学的循環(窒素、リン)」、「土地利用変化」、「生体圏の一体性」で、いずれも農業に深くかかわるものです。

農業による環境問題を減らす方法の中で今日から我々ができることとしては肉食を改めて植物性のものを増やすことがあります。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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1)W. Steffen et al., Science 347, 1259855 (2015)
2)https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h29/pdf/gaiyou.pdf
3)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%8D%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%90%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%AA%E3%83%BC
4)https://en.wikipedia.org/wiki/Holocene_extinction

5)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E8%BA%8D%E9%80%B2%E6%94%BF%E7%AD%96


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