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視察レポート〈伊丹市立図書館ことば蔵〉

こんにちは、すさきのすづくり編集部です。
須崎市の新しい図書館等複合施設をつくるために、このプロジェクトでは全国の先進事例に学んで須崎流のあり方を模索しています。

2024年2月21日(水)、楠瀬市長とプロジェクトメンバーで伊丹市立図書館本館ことば蔵の視察調査へ行きました。

伊丹市の文化を醸造する「ことば蔵」館内見学

伊丹市は「清酒の発祥地」といわれ、「ことば蔵」の愛称は市民からの公募で決まったそうです。

写真:ことば蔵の建物前に集まるメンバー。
酒蔵のような外観の伊丹市立中央図書館ことば蔵

1階のギャラリースペースでは「しおりんピック」の開催中で、創意工夫を凝らした手作りのしおりがずらりと並んでいました。しおりんピックは毎年開催される人気の公募展で、第10回は全国から282点の作品が集まりました。

写真:壁にいろんな形のしおりが展示されています。
しおりんピックの応募作品を鑑賞する小寺さん(整備事業者)

しおりんピックの他にも、本の帯のキャッチコピーやデザインを競う「帯ワングランプリ」や、架空の本のタイトルとサブタイトルを考える「タイトルだけグランプリ」など、楽しく本やことばに親しめる公募イベントが行なわれています。

2階には2人の芥川賞作家、伊丹市名誉市民の 故・田辺聖子さん、伊丹市在住の宮本輝さんの資料を展示した「伊丹コーナー」があります。

写真:田辺聖子作品集のコーナー。棚に1冊ずつ本の表紙が見えるように展示されています。
田辺聖子さんは「ことば蔵」の名誉館長でもありました
写真:ガラスの展示ケースに入った「彗星物語」の原稿
宮本輝さんの手書き原稿

YA(ヤングアダルト)コーナーは市内の高校生スタッフの活動の場になっており、YAスタッフが選んだ中高生におすすめの本が並んでいます。絵本の読み聞かせや季節ごとの飾り付けなども、YAスタッフが自主的に行っているそうです。一般書や児童書のコーナーから独立した空間が、中高生の居場所になっていることが伝わりました。

写真:手作りの壁面飾りがついたヤングアダルトコーナー
YAコーナーを見学する楠瀬市長

市民とつくる交流フロア運営会議

伊丹市立図書館の視察で私たちが最も注目したのは、市民協働で行われる「交流フロア運営会議」です。交流フロア自体は特別な設備のないフリースペースですが、その運営方法が「ことば蔵」を特別なものにしています。館長の中田正仁さんと、伊丹市の交流フロア事業主幹の竹本歩美さん、山本瑞己さんに詳しくお話をうかがいました。

写真:ことば蔵のパネルの前で輪になって話をする人たち
左:竹本さん、中央:中田館長

交流フロア運営会議は、毎月第1水曜日の18:30から行われます。会議には誰でも参加でき、参加の申し込みは不要です。参加メンバーは流動的で、あくまで利用者の自発的な参加で成り立っています。

会議では、参加者が持ち寄った企画をプレゼンし、実施方法を議論します。ことば蔵で開催される年間200回超のイベントのうち、市民発案のイベントが半数を占めています。職員は会議の司会や書記、広報のサポートなど裏方にまわり、イベントにかかる経費も市民が集めて企画を実現していきます。

このような方法をとっている理由として「行政主導の運営では、市民の想いや求めていることと実態が離れていってしまうことがあります。いかに自由にこの場を活用してもらうかを考えています」と中田館長。伊丹市外から会議に参加する人もいるそうで、市民のアイデアを受け入れるオープンな運営が人を呼んでいる様子が伺えました。

写真
3代目館長の中田さん

「カエボン」も交流フロア運営会議から生まれた企画のひとつです。カエボン棚と呼ばれる本棚に自分のおすすめ本を寄付して、他の人がおすすめした本と交換する取り組みです。おすすめ本には自作の帯と感想カードをつけて、カエボン棚を通して利用者が交流できる仕組みになっています。月に1回テーマに沿ったおすすめ本を持ち寄るカエボン部の活動も行なっています。

写真:本棚の周りに子供用の車や木馬などリユース品が並んでいます
訪問時はカエボン棚の周りにリユースコーナーが設けられていました
写真:イーゼルに展示したポスター
カエボン部の告知ポスター

伊丹の歴史・文化を発信する郷土紙「伊丹公論」

伊丹の歴史・文化を全国に発信する郷土紙「伊丹公論」は、市民が取材・編集を行い、年3回発行しています。

伊丹公論はもともと、伊丹で私塾「三余学寮」を営んでいた小林杖吉が刊行した郷土研究紙です。三余学寮には私設図書館が併設され、蔵書を市民に開いていました。初代伊丹公論は昭和11年1月から昭和15年11月までの月刊で19号まで続きました。ことば蔵の開館を機に、小林杖吉の遺志を引継いで73年ぶりに「伊丹公論」を市民との手作りで復刊させました。

ことば蔵が「ライブラリー・オブ・ザ・イヤー2016」大賞を受賞したときには、「伊丹公論」初となる号外をつくってみんなでお祝いしたそうです。先人から受け継いだ郷土紙が、市民の中で生き続けていることがわかるエピソードでした。

写真:新聞のような見た目の「伊丹公論」1面記事は「こどもぶんか科学館で記念事業」
復刊第35号(2023年10月31日発行)

交流フロア運営会議の議事録はメールマガジンで配信されているほか、伊丹市立図書館のウェブサイトでもアーカイブを読むことができます。「伊丹公論」のバックナンバーも公開されており、市民との活動の記録と情報公開を積極的に行なう姿勢はぜひ須崎市でも見習っていきたいと感じました。

あたたかく迎えてくださったことば蔵のみなさま、ありがとうございました! 今後ともよろしくお願いいたします。