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炭素会計(カーボンアカウンティング)とは(その2)

温室効果ガス排出量の的確な算定と、適正な排出量の削減目標を設定するために

「炭素会計(カーボンアカウンティング)とは(その2)」では以下2つのポイントをご紹介します。

  • 金融機関対応レベルの炭素会計データの確立

  • 報告・開示のためのGHG排出量の計算



金融機関対応レベルの炭素会計データの確立

投資家は、投資判断の参考とするために、財務パフォーマンスと同様にサステナビリティ・パフォーマンスを精査するようになっています。

財務データの収集・管理・ガバナンス・開示と同レベルの信頼性の高いシステムとアプローチの確立が、GHG排出量データを含むサステナビリティ・レポートにも求められています。


データアクセシビリティの見直しと自動化の追求

GHG排出量を計算するために必要なデータは、組織内のさまざまな社内システムに分散していることが多く、またデータの変換が必要なケースも少なくありません。そしてさらに、データを共有するためのシステムやプロセスを持たないサプライヤーがデータを保有している場合もあります。

完全で正確なデータ基盤を確保するには、データをどのように入手し保管するかを決定することが重要です。


ヒント

  • データ収集プロセスを、専門のサービス・プロバイダーに委託することを検討する。

  • 可能な限りオリジナルのデータソースを用いる。

  • 可能な限り自動データ転送を目指す。手作業で収集されたデータファイルは、読み込み失敗、精度不足、測定値の混乱を起こしやすい。

  • 継続的なデータの保存・管理方法を検討する。クラウドベースのエンタープライズ・ソフトウェア・プラットフォームがスプレッドシートよりはるかに優れているのは明白。


エネルギー会社と直接連携する

エネルギー消費データは脱炭素化戦略に欠かせません。電力メーターなどを通じてエネルギー会社からデータを入手するのが最も標準的な方法ですが、多数のエネルギー会社が存在しており、それぞれが異なるデータ提供のルールやプロセスを持っています。さらに、データ提供の意欲や能力にばらつきがあることも考えると、対応は複雑で困難です。

地理的に異なる場所に複数の施設を持つ企業にとっては、より一層困難になります。


ヒント

  • エネルギー会社に連絡し、データ共有方法についての協議検討を依頼する。オンライン・ポータルや、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)のいずれかによる自動データ提供が理想的。

  • 専門パートナーとの協力を通じてデータ取得プロセスを自動化する。

  • エネルギー調達契約にデータ提供条項を含めるようにする。


堅牢で柔軟なデータ構造の構築

データは、企業の脱炭素化目標を最適にサポートする構造を持っていなければなりません。開示要件に適合するよう、どのような種類のデータを取得する必要があり、どのようにタグ付けし、集計するべきかの検討は欠かせません。

ESGレポーティング・ソフトウェアは、アカウント毎やメーター毎でのデータのタグ付けをサポートしているものを選ぶべきです。そして地区や施設別、もしくは事業やプロジェクトなどのレポーティング・グループ毎の集計ができるものを選ぶべきです。


目標設定が完了したら、次の課題は、ハイレベルの組織目標をどのように細分化して割り当てていくかを決定することです。レポーティング・グループ毎や資産タイプ毎、地域別、排出源別など、目標の割り当てを多くの方法で分解できるものが使いやすいでしょう。

そしてどの割り当て方法を使うにせよ、データ構造が一致し、矛盾が起きないように設定できることが重要です。


各資産には、ハイレベルの組織目標へ積み上げられて集計される絶対目標を適用することができます。

また、組織全体の排出削減量のベンチマーキングに役立つように、いくつかの製品に対しては原単位目標の設定も検討します。


現在、そして将来の開示要件に適合するように、柔軟なフォーマットで優れたデータ基盤を確保することが重要です。この原則を守るには、データの収集と保存のプロセスが、データ証跡まで監査可能なものとなっていることが最大のポイントです。


さまざまな要素において、柔軟な境界設定が可能なことも同様に重要です。具体的には、レポーティング・グループと、その基礎となるロケーション、アカウント、メーターを容易に設定・変更できなければなりません。

買収や売却などによる組織の構造的な変更が発生した際にはインベントリの境界変更を必要となり、ベースライン排出量を再計算する必要があります。

柔軟に組織階層に合わせられるようにデータを構造化することで、ベースラインの再計算プロセスを簡素化し、ESGレポート作成に機動性を付与することができるのです。


また、脱炭素戦略の実施に必要なデータが組織内のさまざまな社内システムに分散していることも多く、データに互換性がない可能性もあります。さらに、データ共有のためのシステムやプロセスを持たないサプライヤーがデータを保有している場合もあります。


ヒント

  • 部門やチームの目標到達に、どのようなデータが必要かをチームが正しく理解できているかを確認する。

  • メタデータ(タグ、ラベル、口座やメータの開閉タイミングなど)を定期的にチェックし正確性を維持する。

  • データ管理プロセスの最低KPIを設定し、「データの完全性」などの閾値を定義して決定を確実に文書化する。


データ管理プロセスを設定し、オーナーシップを割り当てる

データ主導の意思決定が価値を持つのは、データが正確かつ完全にアップデートされている場合のみです。効果的なデータ管理には、細部へのこだわり、オーナーシップ、勤勉さが必要です。


ヒント

  • データ管理に関する説明責任マトリクスを作成し、スタッフに責任を割り当てる。このマトリクスによりデータの完全性をレビューする定期スケジュールを定め、エラーの発見と対処に十分な時間をかけられるようにする。

  • 流入するデータに目を光らせる。各データソースに対して非アクティブアラートを設定し、データギャップを早期に特定する。

  • エネルギー・サプライヤーのフォーマット更新に対応できる再構成プロセスを確立する。(請求書内のデータ形式の小さな変更が、データの正しいロードを妨害することもあります。)

  • データ提供の約束を履行していない関係者に速やかに連絡し対応を求める。


信頼できる単一の情報源を作成し、データを保存・共有する

データは、ビジネス上の意思決定を導くためのますます貴重なリソースとなっており、社内外の利害関係者が速やかに確認できることが重要です。

このプロセスを外部に委託する際には、サステナビリティ・データの共有が財務データと同様のビジネスリスクをもたらすことを忘れないようにしましょう。データを保護するためのガバナンス体制も、金融機関対応レベルと同様にすべきです。


ヒント

  • クラウドベースのストレージを使用し、すべての利害関係者にパスワードで保護されたアクセスを提供する。

  • サプライヤーとの契約に適切な文言を使用し、データの所有権が自社・自組織にあることを保証する。

  • データの取得・管理計画を監査要件に合わせる。


監査に備え、将来にわたりデータを保護する

監査プロセスは、脱炭素化の進捗開示を検証する重要なステップです。企業のガバナンスにとって、監査に耐えうる追跡可能なデータを得ることは大変重要であり、同時に大変困難です。


ヒント

  • 監査人に事前に相談して監査要件を理解し、データ保持とタグ付けのポリシーが適合していることを確認する。

  • クラウドベースの単一記録システムを使用し、変更追跡と文書保存確実に行う。必要時に外部からのアクセスを設定できるようにする。

  • データ管理システムが参照ドキュメントを保存する機能を持ち、変更追跡、タイムスタンプ、トレース・トゥ・ソース機能などの主要監査要件を満たしていることを確認する。


プロセス早期からチームを関与させる

エネルギーとサステナビリティ・データ管理の責任は、サステナビリティ・チームだけにあるわけではありません。この課題にうまく取り組んでいる企業から学びましょう。

成功している企業は、他部門とも幅広く連携し、データの取得と管理に全社的に取り組むための方針と手順を組み込んでいます。


ヒント

  • GHGデータ収集と保管の重要性を上級管理職に訴え、参加と支援を促す。

  • 透明性の提供とデータ収集・保管の説明責任を推進するために、内部報告ツールの使用を検討する。


報告・開示のためのGHG排出量の計算

金融機関対応レベルのサステナビリティ・データ取得・管理のためのシステムとプロセスが整ったところで、企業は、報告・開示のための温室効果ガス排出量の正確な算出を行う準備ができたと言うことができます。


世界資源研究所(WRI)と持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)により開発されたGHGプロトコルは、企業の脱炭素化の進捗状況を追跡・測定するのに役立つ多くの会計基準を策定しました。

環境・社会・ガバナンスからなるESGレポートの「E」の重要要素であるこれらのガイドラインには、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)、グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク(GRESB)、サステナビリティ会計基準審議会(SASB)、ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(DJSI)などがあります。


技術的基準とベースラインの確立

すべての報告フレームワークは、進捗を測定するための明確な線引きを企業に求めています。このベースライン、すなわち既存のカーボン・フットプリントは、将来のすべての改善を測定するための指標となるものであり、正確かつ適切でなければなりません。


ヒント

  • ベースラインを設定する際には、自社の活動境界をどのように定義するかを検討する。

  • 将来の活動と比較しやすいようにデータ構造を検討し、整備する。

  • これまでの排出量削減努力が割り引かれてしまわないように、どの日付を使用するのが最も適切かをしっかりと検討する。


目標達成に必要な技術的要件と考慮事項を理解しましょう。そして、目的を明確にして、しっかりと時間を取って、コミットメントや開示プラットフォームに関連するさまざまな技術的基準を理解し、矛盾や問題点に向き合いましょう。

また、検討している打ち手が認められているかを事前に確認しましょう。たとえば、プラットフォーム上で、送電網上の既存グリーンエネルギーの使用は許可されているでしょうか。


必要なデータを確実に入手する

削減コミットメントを行う前に、どのような種類のデータが必要で、どの程度の精度が求められるのかを確認することが重要です。

実に多くの組織や企業が、データによる立証が不可欠にもかかわらず、入手不可能なデータを前提としたコミットメントを行なってしまっています。時間が経つほどこれは大きな問題となります。


炭素会計を簡素化するためのリソースを利用する

炭素会計は奥が深く、難易度の高い専門分野です。社内で対応できるように知識を高めるか、外部コンサルタントにサポートを依頼するか、いずれか、あるいは両方が必要となります。

アプローチ方法がしっかりと固まったら、自社のESGレポーティング・ソフトウェアをチェックし、再生可能エネルギー証書割り当ての決定を把握できるかを、そして排出係数を保存・管理し、マーケット基準手法を含む排出インベントリを計算できるかを確認しましょう。


排出係数の選択と適用に注意する

排出係数は、温室効果ガス計算の基礎となるものであり、正確な排出係数を使用することは、要求される精度の報告を行うのに不可欠です。とはいうものの、係数の選択、調達、配分、管理には、 さまざまな課題があります。

排出係数を選択する際には、以下の3つの点に十分注意しましょう:


1. 地域

可能な限り粒度細かくロケーション設定ができるようにしましょう。こうすることで、より実質的で、地域の政策やガイドライン、およびローカル・エネルギー会社の要求に即した会計処理が可能となります。


2. 報告期間と係数

排出係数の更新が報告スケジュールと一致するとは限りません。排出係数の入手と更新スケジュールを設定することで、この問題に対処しましょう。

スケジュールを設定しておくことにより混乱を防ぎ、たとえ公約が変更される年であっても、報告期間とバージョン間の一貫性を保つことができます。


3. 排出源

誤った係数を選択すると重大なエラーを引き起こす可能性があります。炭素会計原則に忠実に従うように気をつけましょう。

注意事項の例として、地上走行時の排出量を挙げておきます。車両は、ディーゼルで走っているのでしょうかガソリンでしょうか。ガソリンの場合、バイオ燃料は含まれていますか。


GHG排出量を計算する際には、常に「整理整頓」で

多くの組織がスプレッドシートを使用して年次炭素会計プロセスを実行していますが、多地域で事業を行い、複数の開示フレームワークに対応することとなるグローバル企業にとっては、それはとりわけ大きなリスクと生産性低下を受け入れていることとなります。

ESGレポーティング・ソフトウェアを用いることで、排出元からの直接データ取得を自動化し、下記に代表される国際的に認知された炭素排出係数を適用することができ、高い透明性を維持することができます。

  • 米国EPA 気候リーダーズプログラム

  • 排出・発電資源統合データベース(eGRID)

  • 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)

  • 国際エネルギー機関(IEA)の全国電力係数

  • オーストラリア国立温室効果ガス会計(NGA)

  • ニュージーランド環境省

  • 英国環境・食料・農村地域省(Defra)


データとプロセスの一貫性と信頼性の確立

認証取得は通常数年にわたるプロセスであり、第三者による監査を必要とします。炭素会計は、毎年の再現性と比較を可能にする、信頼できる一貫した報告と監査プロセスを支援するものでなければなりません。


– 詳細な記録を残す: 計算と入力プロセスの最新記録を常にしっかりと残しておくことで、監査時に困ることがなくなります。決定事項とその理由を記録し、裏付けとなる書類を保管し、認証に必要なデータに加えられた変更を明確に記録しておくことが不可欠です。


– データ品質の維持: 効果的なデータ管理には、集中力、定期的な注意、明確な責任分担が必要です。レポーティングツールを使用してデータギャップを把握し、定期的にデータ記録を照会してデータ品質の維持・評価をしましょう。


– 利害関係者の継続的な関与の確保: 公約、目標、戦略の策定、およびGHG算定は、企業内の特定のチームが行なっているかもしれませんが、データ収集は企業内のさまざまな組織や関係者の協力なしには行えません。

代表的な事業部門から担当者が選出され、データ収集と共有に関与して責任を負うのが理想的です。彼らが、それぞれの事業部門特有のデータ収集における潜在的な問題やギャップを指摘してくれるでしょう。

また、全員の賛同を得るのが困難な局面が発生することも考えられるので、事前に課題と、想定し得る努力水準を共有しておきましょう。


ヒント

  • サステナビリティ・パフォーマンスにシニアレベルのスタッフを目に見える形で関与させる。

  • 利害関係者のコミュニケーション活動に関するビジョンと基準をマッピングしたエンゲージメント計画に従う。

  • ステークホルダーへの情報提供とエンゲージメントに社内報告ツールを活用する。

  • 報告フレームワークの変更に関する最新情報を入手する。排出削減フレームワーク、ガイドライン、誓約プラットフォームに関連するルールは常に見直されており、定期的かつ継続的に変更される可能性があります。常に最新情報を入手し、修正することが重要です。

関連する報告当局からの更新アラートを購読し、データ管理・報告プラットフォームのプロバイダーや専門コンサルタントと定期的に連絡を取り合うことは、脱炭素化への取り組み支援に役立ちます。



「炭素会計(カーボンアカウンティング)とは」の(その1)と(その3)では、それぞれ以下をご紹介します。

  • 金融機関対応レベルの炭素会計データの確立

  • 報告・開示のためのGHG排出量の計算

  • 複雑な炭素会計をマスターする

  • ESGレポーティング・ソフトウェアの必要要件

  • 炭素会計が生みだす機会


当記事は『What is carbon accounting?』を日本の読者向けに編集したものです。

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