原因不明の体調不良で救急車に運ばれた話。原因は脳の林檎化なのではないか。
秋の花粉症になった。私が思うに数ヶ月に一度大きな体調不良が定期的にくる。思い返せば中学生の頃からだった。この頃に出会ったものを考えると椎名林檎だった。彼女はあまりにも魅力的で憧れだった。理想を持つのは良いことだと言われるが、あまりにも条件が違うのに無意識に憧れていた事に気づく。
私は彼女を信仰し切れなかった。いや、し過ぎて自分と一体化させてしまった。私の脳の一部は林檎化していた。それは、彼女がコピーする能力値が異常にあるからだと思う。何でもコピーできる。コピーできるだけならまだしも、表現もできる。だから、私のことを歌ってくれているのではと勘違いする。本当はそんなことはない。仕事で曲を作っているだけだ。サービスだ。それでごはんを食べているのだから。半笑いで作品を作っているという彼女の話は話半分で聞くべきだった。
Xでライブに行く人たちをみる。ファンになる人はみな椎名林檎と同じ髪型をして、同じような格好のポーズをとる。私は羨ましいと思う。格好だけ真似できれば楽だったのに。服はすぐ脱げる。脳に自ら移植してしまった椎名林檎は取り除けない。彼女の仕事にストイックな部分まで私の脳は再現しようとする。圧倒的な個性の渦に呑み込まれる。「私」は何処に言ったのだろう。「私」の考え、「私」の感覚。無意識に彼女と私を私の脳はずっと比較してダメだしをする。「彼女だったらもっとやる」「彼女だったらもっと上手い」「彼女だったらもっと美しい」と、白雪姫を呪った女王のように鏡からずっとダメだしをくらう。ついに彼女は毒を盛った林檎を白雪姫に食べさせてしまう。
私は定期的に毒を盛られる。自分の中の魔女によって。そして倒れる。魔女が悪い訳では無い。魔女にダメだしし続けてる鏡が本当の悪者なのだ。そしてその鏡もまた私自身が「私」を客観的に見てしまうことにある。
あえて椎名林檎に文句をつけるなら、自分のことを歌ってないということだ。私は彼女のみかんのうたが好きだ。たしか幼い頃に作った可愛らしい歌。いいじゃないか。ほんの些細な歌。きっと彼女はメジャーで生き残るためにあらゆるものをコピーしてしまったのだ。そして、コピーされた人々は彼女と自分を一体化してしまう。そして、その呪いのようなストイックさについていけなくなる。まことしやかに彼女の周り人間が死ぬという噂は、きっと脳が林檎化してしまったからではないかと思う。(林檎化してないのは確認してるだけでイエモンの吉井和哉だけ)ああ、彼女と自分を分離して考えると気持ちが何て楽なのだろう。
さようなら椎名林檎。みかんのうたを歌うあなたがとても大好きだった。可愛らしかった。でも、もう私も私を生きなければ。あなたと分離して「私として」あなたの素晴らしい歌をちゃんと聴きたい。あなたと違うとわかっていたのに。こうして数十年の脳内大恋愛は幕をおろした。もう二度と体調不良を起こして救急車に運ばれることはないだろうと予感している。