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出生前検査(NIPT)と障害者基本法の理念 検査の結果で中絶を選択するのを認めるか?

妊娠している女性のおなかの赤ちゃんの染色体に異常がないかどうかを調べる「出生前検査(NIPT)」により、異常があることがわかるのは約1.4%(73人に1人)で、異常があることがわかった人の約92%が中絶を選択している。

母体保護法では、胎児が疾患や障害を有していることは、人工妊娠中絶の理由として認められていない。
おなかの赤ちゃんが先天性疾患などを抱えている可能性があると判明した場合に、中絶を選択するのを認めるか?
あなたの基本的な立場を教えてほしい。

社会の理解や受容の水準を超えるスピードで科学技術が発展していることや、人々の価値観の変化などによって引き起こされる問題や制度疲労について、「フェムテックと薬機法」に続いて出生前検査を問う。

出生前検査の課題とされていること

・疾患やそれに伴う障害のある赤ちゃんの出生を排除すると、障害がある人を排除しようとする意識が社会に広がってしまう。
・障害のある者の生きる権利や生命、尊厳を尊重すべきとする障害者基本法の理念に反する。
・障害がある人が差別されることなく生きていけると感じられる社会でなければ、検査で異常がわかると中絶を選択する人ばかりになる。
・異常が判明した際に妊婦などが意思決定を行うにあたって、医師から人工妊娠中絶を勧めていると捉えられる発言や、逆に産んで育てるという選択肢を勧めているような発言があり、医師の考え方が妊婦などの自由な意思決定に少なからず影響を与えている。
・特定の疾患を対象として出生前検査を実施することは、現に社会生活を営む当該疾患を有する人々に不安を生みだしかねない。
・おなかの赤ちゃんに異常があることがわかった人の大多数が中絶を選択しているということは、妊婦などが自由な意思決定を行えるだけの正確かつ充分な情報が社会全体で共有されていないことを意味する。
・優生思想が入り込むことのないよう、細心の注意を払い、妊婦が社会的圧力を受けることなく、妊娠、出産について自由な意思決定をできるようにしなければならない。

中絶の選択の主な賛成意見

・実際に、障害がある人が差別されることなく生きていけると感じられる社会になっていない。
・障害のある子どもを一生介護する責任を負う強い精神力、あるいは経済力がないのであれば妊娠継続を断念せざるを得ない。
・先天性の疾患の子どもの親が、自分たちがいなくなった後のことを考えて、「2人目の子どもは、検査で調べてから生みたい」というような選択は認められるべき。

中絶の選択の主な反対意見

・簡単な検査であるために、安易な考えで検査を受けることにつながる。
・多数の人が検査を受けるようになれば、妊娠した女性が暗に「検査を受けなければならない」と強要される状況になってしまう。
・障害はその子どもの個性の一側面でしかなく、障害という側面だけから子どもをみることは誤りである。
・障害福祉サービスの充実が進む中、障害のある子どもを育てている保護者の中には、子育てについてさまざまな苦労はしているものの、子どもの存在によって「人生が豊かになった」「価値観が広がる」といったポジティブな捉え方をしている人も多い。
・おなかの赤ちゃんの声なき声が、生きたい、助けてと叫んでいる。

出生前検査の本来の目的

・おなかの赤ちゃんの状態を知ること。
・仮に異常が見つかった場合は、子宮内での治療や出生後の早期の治療につなげることができること。
・疾患に対応できる適切な周産期医療施設を選ぶことができ、緊急搬送や母子分離を回避することができること。
・妊婦などが、生まれてくる子どもの疾患を早期に受容し、疾患や障害に詳しい専門家やピア(仲間や当事者同士)サポーターなどによる寄り添った支援を受けながら 出生後の生活の準備を行うことができること。

母体保護法

母体保護法では、おなかの赤ちゃんが疾患や障害を有していることは、人工妊娠中絶の理由として認められていない。
ただし、妊婦の身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害する恐れがある場合には、人工妊娠中絶の実施が可能であると規定されている。

出生前検査によりおなかの赤ちゃんが先天性疾患などを抱えている可能性があると判明した場合、充分な情報の提供や検査についての説明、ピアサポートなどの支援が得られないため、もしくは親自身が大きな困難を感じた場合は、母体保護法が規定する「身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害する恐れがある場合」などに該当するものとして 妊婦およびそのパートナーが人工妊娠中絶を選択している。

障害者基本法の理念

全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享 有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指すことが掲げられている。

キーワード

【優生思想】
障害の有無や人種などを基準に人に優劣をつけようとする思想で、この考え方からは相模原市の障害者施設殺傷事件などの暴力事件も起きている。
経済力や運動能力などの「生産性」がなければ「生きる価値がない」という考えに結びつきやすいといわれている。
そのような社会になるのは、私たち各々の心にも深く関わる問題であるという指摘もある。
過去には障害者の強制不妊手術(優生手術)が、優生保護法(1948年から1996年まで施行)に基づいて行われ、本人の同意がなくても不妊手術を行うことができた。

【NIPT】
Non Invasive Prenatal genetic Testingの略。
日本語では、「非侵襲性出生前遺伝学的検査」。
妊娠している女性の血液を採ることで検査できる。

主に参考にした資料

NIPT等の出生前検査に関する専門委員会報告書」(厚生科学審議会科学技術部会 NIPT等の出生前検査に関する専門委員会、2021年5月)

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