マンガの海賊版サイトが急増 ユーザーが求めるのは合法の「漫画村」ではないのか?
著作権法の度重なる改訂にもかかわらず、マンガの海賊版サイト数やアクセス数が急増しているのは、そもそも対策の方向性が間違っているからではないのか?
法改正により権利者を一層保護し、ユーザーの権利を制限するよりも、ユーザーが真に使いやすいプラットフォームの立ち上げに注力すべきではないのか?
という意見に対する賛否を問う。
著作権法改正が施策として効いていない
海賊版コンテンツに対して著作権法が度々改正されている。
2009年には映画や音楽の違法コンテンツをダウンロードする者を取り締まることが盛り込まれ、2012年には懲役刑を含む罰則規定も盛り込まれ、さらに「漫画村」事件を受けて2020年6月にはマンガを含むすべての著作物に対して違法コンテンツのリーチサイトやダウンロードが違法となった。
これらと並行して、2019年には「インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表」が発表され、ブロッキング(強制遮断)の法整備の検討を進めるといった話も出ている。
しかし、マンガの海賊版サイト数やアクセス数は急増しており(月間3億アクセスとも)、著作権法の改正が施策としてあまり効いていないと考えられる。
「漫画村」以降のいたちごっこ
かつて存在した日本最大の海賊版サイト「漫画村」が閉鎖された2018年以降もマンガの海賊版サイトの数は増え、特に2019年秋以降は急増しており、例えば集英社が海賊版サイトへ削除を要請する数は多い月で12万件を超えるという。
対照的に、映画や音楽を海賊版サイトから違法にダウンロードしたいと思う人があまりいないのは、それが違法であるからというよりも、NetflixやAmazonプライム、Apple Music、YouTube Musicなどの優秀なサービスがたくさん現れて、海賊版サイトへアクセスするよりも便利になったからだと言われている。コンテンツの数も多く、ジャンルの網羅性も高く、異なる機器の間でも同一IDで自動的に同期され、便利に使うことができる。
なぜ法改正が施策として効いていないのか
法改正などの施策によってマンガの海賊版サイト数やアクセス数が減らない本質的な理由は、マンガを読みたい人にとって現状のサービスが不便であるからであるという指摘がある。もしそうであるなら、ユーザーにとって利便性の高い形でコンテンツの正規版を流通させる仕組みの構築が急務なのではないか。
海賊版対策においては、国による著作権法の改正などよりも、著作者やサービス提供業者による一層の利便性向上のための努力を促すことが望ましいのではないか。
キーワード
【インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表】
2019年、インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表が発表された。
このなかで、海賊版による被害を効果的に防ぎ、著作権者等の正当な利益を確保するために実施するとして掲げられた11個の対策のうち、ユーザーが使いやすいプラットフォーム立ち上げにかかわる対策は、
「正規版の流通促進(ユーザーにとって利便性の高い形でコンテンツの正規版を流通させるため、民間主導の協力関係の構築を図る)」
という1個だけであったが、その内容は、正規版の配信サイトにABJマークを提示してホワイトリストを作成・公表するといった程度の内容であった。
【ブロッキング(強制遮断措置)】
ブロッキングとは、ユーザーが違法なWebサイトにアクセスできないようにする方法。
インターネット利用者がインターネット上のWebサイトやコンテンツにアクセスしようとする際、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)などが、常時、Webサーバーのホスト名やIPアドレス、URLなどをチェックして、ユーザーがどのWebサイトにアクセスしようとしているかをモニタリングし、海賊版サイトへの接続であることを検知した場合、そのサイトへの閲覧を強制的に遮断する措置のこと。
その憲法適合性に関しては賛否が分かれているが、そもそも時代に合わない技術であるという指摘がある。常時暗号通信(HTTPS)が一般化し、セキュリティ拡張機能であるDNSSECも普及しているなかで、DNSによるブロッキングの有効性は疑問視されている。
また、海外のDNSを利用するスマホアプリなどによって、国内のISPにブロッキングを要請しても迂回され、無意味なものとなるとの指摘もある。
【ブロッキングの憲法適合性】
1. 通信の秘密(憲21条2項後段、電通事業法4条1項)
■ブロッキング賛成の立場
通信事業者は通常の通信処理の過程で(ブロッキングにかかわらず)宛先IPアドレスなどをすでに知っているので実害がない。機械的に検知するので通信の秘密を侵害しない。通信の秘密も絶対無制約の憲法上の価値ではなく、法益を保護するための措置により得られる利益が失われる利益よりも大きければ侵害の違法性が阻却される。など。
■ブロッキング反対の立場
アクセス先を検知することは通信の秘密を侵害するのではないか。ルーティング(経路制御)のために常に宛先IPアドレスを使うからといって、他のことに使っていいということにはならない。通信の秘密や他の国民の権利を犠牲にしつつ、強引に権利者の保護を図ろうとしているのではないか。など。
2. 表現の自由(憲21条1項)
■ブロッキング賛成の立場
違法表現をする自由は観念できないので、海賊版サイト運営者の表現の自由は侵害しない。また、違法表現を見る自由というものも観念できないので、サイト利用者の自由も侵害しない。
■ブロッキング反対の立場
ブロッキングは表現の自由(表出の自由と受領の(知る)自由)を侵害するのではないか。
3. 海賊版を特定することの検閲該当性(憲21条2項前段、電通事業法3条)
■ブロッキング賛成の立場
権利者の著作権に基づく個別的要求によって判断され、また思想内容ではなく表現形式(配信方法)の同一性を判定するものであり、検閲には該当しない。憲法学の伝統的理解では通信内容を見ること(封書の開封、電話の盗聴)が通信の検閲とされている。裁判所がサイトブロッキングの対象を指定する場合、検閲に該当しない。
■ブロッキング反対の立場
表現全般へのアクセス制限が恣意的に行われ、インターネット上の表現全般に対する「検閲」につながる可能性がある。
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