Twitterスペーストークライブ「画像や映像の加工をした際、それを明示することを義務付ける法律は必要か?」ゲストオーサー:山口真一先生①
社会の様々な事象についてイシュー(課題)を設定し、一般の方が自由に投票することができる社会デザインプラットフォーム【Surfvote】。
イシューを発行したオーサーへのインタビュー企画、第二弾です。今回のゲストは「画像や映像の加工をした際、それを明示することを義務付ける法律は必要か?」というイシューを提案くださった国際大学GLOCOM山口真一准教授です。山口先生はなぜこのイシューを提案したのか、その背景や目的、そして結果について伺いました。
画像加工がもたらす社会問題とは?
(伊藤)みなさん、こんにちは。この度はSurfvote主催のTwitterスペースをご視聴いただき、ありがとうございます。広報担当の伊藤あやめと申します。山口先生、本日はどうぞよろしくお願いします。
(山口先生:以下敬称略)はい、国際大学の山口と申します。よろしくお願いいたします。
(伊藤)早速ですが、今回「画像加工の明示を義務付ける法律」について問題提起された理由をお聞かせください。
(山口)はい、今、世界中で普及しているSNSは、ポジティブなインパクトが非常に大きいと同時に、ネガティブなリスクも様々指摘されています。その中の一つに、青少年がSNSで他の人の投稿と自分を比べてしまい、精神にネガティブな影響を受ける、というものがあります。実はこれ、世界ではかなり問題視されているものなんですね。例えば、以前、元Meta社員が告発し、大騒ぎになったレポートによると、10代の女性の32%、約3人に1人が「自分の身体について嫌な気分になったとき、Instagramが気分を悪くさせていた」という結果が出ています。また、英国やオーストラリアの調査でも以前から、同様の問題が指摘されていました。
その背景として、SNSの2つの特徴があります。1つは「切り取られた世界」であることです。つまり、人々は基本的に「こんなところに食事に行った」、「こんな生活をしている」と自分の良いところばかりを切り取って投稿しています。そしてもう1つが、体形を細くしたり、顔を綺麗にする加工を日常的におこなっていることです。この2つがあるにもかかわらず、自分の生活と比較してしまうために「自分はこんなにキラキラしていない」、「醜い」と自分を責めてしまう人が多いわけです。こういったことが拒食症など、健康的な問題になっている状況を受けて、ノルウェーではインフルエンサーや広告主が写真を加工した際にそれを開示することを義務化する法律をつくっています。英国でも同様にインフルエンサーが広告で肌を現実とかけ離れた色に加工することを禁止しています。
一方、日本では総務省にプラットフォーム事業者やSNSに関する議論を中心にやっている委員会がありますが、ほとんどテーブルにあがってすらいません。他の国のように法規制が正解か、という議論は置いといて、少なくとも議論すべきなんじゃないか?という風に考えて、今回イシューを発行させていただきました。
(伊藤)ありがとうございます。日本では委員会でもテーブルにあがっていない、というのはこのような問題に対して、早急に議論しなければならない、というところまで至っていないということでしょうか?
(山口)そうですね、すでにいろんな被害が出ているというのは私も聞いています。この件でテレビ番組に出たときに、他の人と比べてしまって拒食症になってしまった人が身近にいる人が結構いるな、という印象を持ちました。残念ながら、詳細な数は把握できていませんが、日本でも少なからず問題になっているはずです。他方で、SNSという文脈でいうと誹謗中傷とフェイクニュースの2つが今すごく注目されています。理由は明らかで、1つは2020年の木村花さんの悲しい事件があって、世論が動いて、政府も注目するようになったことですね。もう1つはフェイクニュースは国家を揺るがす事態になりうるので政府として無視できないということです。しかし、青少年の一部に被害が出ていることはなかなか政府が注目してくれません。そこが悲しいところでもあるので、実はこういった被害が出ている、と訴えて、議論のテーブルにあげるプロセスが大事じゃないかと考えています。
(伊藤)ありがとうございます。たしかに、何か大きなきっかけがないと議論にならない、ということは課題ですね。大きなことが起きる前にSurfvoteでイシューを投げかけて、問題を知ってもらう、というのは大事かなと思います。
SNSに影響される10代の現状は?
(伊藤)普段なら「こんなことがあったんだ、楽しそうだな」と終わるような投稿でも、自分の調子が悪いときだとそれをネガティブに捉えてしまうことは誰にでもあるんじゃないかな、と思います。拒食症にまでなってしまう、ということを防ぐためにも体制を整えることは重要ですよね。若い人たちはなぜSNS上でネガティブな影響を受けてしまうのでしょうか?
(山口)そうですね、いくつか理由が考えられますが、1つはリテラシーがあると思います。若いころから利用しているので、リテラシーは高いのではないかと思いがちです。もちろん、SNSの機能についてはある程度理解していますが、SNSの社会的特性について詳しいというわけではないと思います。日本ではInstagramやTwitterなどのSNSをだいたい高校生から使うケースが多いので、まだまだ慣れていないわけです。「切り取られている」「加工されている」というバイアスを理解できていない状態で使ってしまう、ということが考えられます。もう1つは、青少年というのはアイデンティティを形成する、すごく重要な時期なんですね。自己理解をする上で「他人と自分を比較する」ことがどうしても発生してしまいます。その結果、一部の青少年は比較しすぎて、ネガティブな影響を受けることがあるのかな、と思います。
(伊藤)そうですよね、ただでさえ大人になっていく過程で「自分って何なんだろう」と考えたときに他人と比較してしまうのに、そこにSNSが加わると余計にネガティブな影響を受けるのはわかります。やはり教育が重要ということになりますかね?デジタルをどう使うか、だけでなくどう付き合っていくか?を教えていく必要があるのではないか、と感じました。
(山口)まさにその通りだと思いますね。メディア情報リテラシー教育は充実させるべきだと考えています。残念ながら現在の教育課程ではまだまだ足りない部分が多いと思います。私の学生もそうですが、「自分が中学生、高校生のときにリテラシー教育はほとんどなかった」という大学生は多いです。私は教育とは「個人にとってプラスになると同時に、社会全体にとってもプラスになるもの」だと思っています。情報社会の仕組みが大きく変わらなければ、メディア情報リテラシーは、もしかしたら数学や国語と匹敵するレベルで個人、社会にとってプラスになるのではないかと考えています。ぜひ教育課程にしっかりと入れば嬉しいなと思います。
(伊藤)学校は物の見方や価値観を学べる場でもあるので、学校教育の中で様々な視点からデジタルについて考える時間が必要ですね。
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(インタビューの続きは下記リンクからご覧ください)
②日本で画像加工の明示を義務付けるとどうなる?
③「広告主やインフルエンサーに画像加工の明示を義務付けるべき」が最多回答