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ぬれ試薬による洗浄・表面改質評価から、接触角による評価へのおきかえ
1.はじめに
本稿では、洗浄や表面改質後の評価に使われている「ぬれ試薬」による、「ぬれ張力試験(*1)」を、接触角測定に置き換えた事例紹介します。
ここでは、Zisman Plot(*2)による臨界表面張力解析を用い、完全ぬれとなる「ぬれ試薬No.」の特定方法と、任意の試薬を用いた際の、OK/NGを決定する接触各値の決定方法についてを解説します。
2.ぬれ試薬による検査の課題
まず、以下にぬれ張力試験の主な課題や問題点を列挙します。
試薬が汚染されていき、ぬれ具合が変わってしまう。
ぬれの度合いは、試薬がぬれている状態から定性的に判断しなくてはならないので個人の主観的誤差が発生しやすい。
表面張力 1mN/mきざみに50程度の種類があるため、適切な試薬の選定が難しい。
特に1.については、以下により重大な問題であるといえます。
ぬれ試薬には、大きく、綿棒などをボトル内の試薬に浸し、それを対象の基板に塗布するボトルタイプと、ペン先で直接塗布できるマーカーペンタイプの2つがあります。
綿棒を何回も浸漬させたり、同じペン先で何回も基板上に接触させていくこれらの工程を繰り返していくうちに、試薬が汚染されます。
結果として、試薬の表面張力が変化しぬれ性が変わってしまうことで、正しい評価ができなくなります。
実際に作業者の方からは、上記のような実感を持っているというお話をお聞きすることがあります。
3.接触角による代替提案
3-1.唯一の定量評価になる接触角測定
洗浄・表面改質後の評価には、「ぬれ張力試験」を含め、ぬれ性を利用した評価方法がいくつかありますが、定量評価が可能なのは接触角測定が唯一といえます。
3-2.Zisman Plotとは
以下に、「ポータブル接触角計, ST-2」を用い、測定した例を示し説明いたします。
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縦軸は、接触角値(ただしcosθ)です。
横軸は、接触角測定に用いた試薬の表面張力値ですが、ぬれ試薬のNo. としていただいても結構です。
上図の通り、cosθと表面張力は1次関数の関係で表されます。
3-3.完全ぬれを起こす試薬の特定
いくつかの試薬で測定を行い、図1が得られましたら外挿し cos = 1 になる表面張力値が決定できます。
この表面張力を「臨界表面張力(γc)」と言い、表面張力がこれよりも小さいとき、接触角は 0°になり、液体が固体表面の上を拡張してぬれていくことになります。
このγcは、「固体の表面張力(表面自由エネルギー)」と言い換えることもでき、洗浄あるいは表面処理を行ったことで、どの程度、表面自由エネルギーが上昇したかを知ることもできます。
固体の表面自由エネルギー知ることで
洗浄や表面処理の最適条件の決定
接着剤や塗料との付着強さを予測
に活用できます。
3-4.完全ぬれを起こす試薬の特定
Zisman Plotの解析により、手持ちのぬれ試薬、あるいはその他試液を用いて接触角測定を行った場合の、「完全ぬれ相当」の接触角値が1次式から得られます。
それを参考に、検査のOK/NGの閾(しきい)となる接触角値を決定することができます。
4.おわりに
本稿では、「ぬれ張力試験」から接触角測定への置き換えにより、
繰り返し使用することでの「ぬれ試薬」の品質劣化の回避
個人誤差を生みやすい定性評価から定量評価への置き換え
というメリットについて紹介しました。
また、Zisman Plot解析を用いることで、
OK/NG の閾となる接触角値の決定
固体の表面自由エネルギーを知ることの利点
について概説しました。
洗浄評価や表面改質の評価では、サンプルの切り出しが難しいため、ハンディなポータブル接触角計が最適です。
以下、製品ページもご覧いただければ幸いです。
*
1.JIS K 6768 「プラスチックーフィルムシート及びシート・ぬれ張力試験方法」
2.W. A. Zisman: Ind. Eng. Cem., 55(10), 18-38(1963)
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