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植物葉表面の農薬のぬれ性評価

1.はじめに

ハスの葉の表面は、ナノスケールのワックス成分によるコーティングと、微細な突起構造の組み合わせで、ロータス効果と呼ばれる超撥水性機能を持ちます。
防汚性や、雨水や露などの重みから葉を守るなどの目的から、多くの植物の葉の表面は、大なり小なり同様の撥水性機能を持ちます。
主に病害や害虫の防除のために散布される農薬は、その撥水作用で葉の表面ではじかれないよう、ぬれ性が向上するための製品設計がされています。

2.使用装置

測定に用いた「ポータブル接触角計, ST-2」は、光源用の単3乾電池のみで使用可能なため、屋内、ラボでの使用はもちろん、フィールドワークにも適しています。

図1.屋外での使用例

また、葉そのものが凹凸形状になっていたり、表面にはトライコームと呼ばれるうぶ毛のようなものが多く存在します。
そのため、通常の真横から観察するタイプの接触角計の場合、液滴と表面の境界が判別しづらかったり、見えないこともあるため、測定そのものが困難である場合が多いです。
ポータブル接触角計, ST-2は、葉の表面にフォーカスを合わせて、真上から観察し接触角を測定するため、凹凸のある表面の測定にも適しています。

図2.葉上の液滴の観察と接触角測定例

3.測定例

一例として、キク科雑草表面における、市販の害虫駆除用園芸薬剤と精製水の接触角を、ST-2を用い測定した結果を示します。

図3.葉上での水および園芸薬剤の接触角

水に対しては接触角100°程度を示し、ハスの葉ほどではありませんが比較的高い撥水性を持ちます。一方で農薬は、接触角が60°程度まで低下していることがわかります。これにより、葉の表面からはじかれずに付着するため、薬剤としての効能を発揮することができます。

4.付着濡れ

液滴が固体表面上で付着ぬれが起きるとき、付着仕事は

Wa = γs + γl - γsl ・・・ デュプレの式
Wa:付着仕事
γs:固体表面エネルギー(表面張力)
γl:液体表面エネルギー(表面張力)
γsl:固-液界面エネルギー(界面張力)

により求めます。
しかし、γs と γsl は実測が難しいため、下式

γs = γl・cosθ + γsl ・・・ ヤングの式
cosθ:接触角

と組み合わせて、

Wa = γl (cosθ + 1) ・・・ヤング‐デュプレの式

を得ることで、実測可能な接触角測定に用いる液体の表面張力値と接触角値から、付着仕事を求めることができます。

下図は、表面張力をそれぞれ、
 水 :73mN/mとして
 農薬:55.6mN/m(滴溶方式表面張力, ADC-2)
と、図3の接触角値から求めた付着仕事になります。

図4.付着仕事の比較

表面を良くぬらそうと、接触角を低くするために表面張力を下げすぎてしまっても、必ずしも付着仕事は上昇しないので注意が必要です。

5.おわりに

本稿では、植物葉上の農薬のぬれ性試験の例とともに、フィールドワークにも適した接触角計として、ポータブル接触角計, ST-2を紹介いたしました。

また、ヤング-デュプレの式から付着仕事が求まるように、接触角と表面張力を合わせて測定することで、より詳細に固体表面や、固体-液体間相互作用についての情報を得ることができます。

以下、本稿で使用した装置情報になります。
詳細についてご覧いただければ幸いです。

ポータブル接触角計, ST-2

ハンドヘルド型 滴容方式表面張力計, ADC-2

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