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ぬれの制御_固体の表面張力

1.はじめに

ぬれの三形態について説明した、「アプリケーションノート No. 00X-0001」では、三形態それぞれのエネルギー(W)値は、接触角と表面張力の測定から求まることを解説しました。
このエネルギーおよび、ぬらす液体とぬらされる固体間の相互作用による結果である、接触角(cosθ)、固-液間界面張力(γsl) を制御するためには、固体表面張力(表面自由エネルギー)γsと液体表面張力γlを、材料設計により調整する必要があります。

γlは表面張力計により、容易に実測可能です。
ここで、γsが測定できれば材料設計の方向性がより明確になります。
本稿では、固体の表面自由エネルギーの測定方法についてを解説します。

2.固体の表面自由エネルギー測定方法

2-1.Zisman Plot法を用いた方法

以下のプロセスにより、異なる液体を用いて接触角を測定し、臨界表面張力(critical surface tension)から固体の表面張力を推定する方法です。

  1. 表面張力(γl)の異なる複数の液体で固体表面の接触角(cosθ)を測定。

  2. cosθをγlに対してプロットする。

  3. cos⁡θ = 1となる点を外挿し、臨界表面張力(γc)を求める。

  4. γcを固体の表面自由エネルギーの近似値とする。

Zisman Plotについては、「アプリケーションノート No. 001-0001」にて具体例を紹介していますのでご参照ください。

2-2.デュプレ式の付着エネルギーから求める方法

下式、デュプレの式から付着エネルギー(Ws)が求まります。

Wa = γs + γl - γsl

γs, γslの実測は難しいため、ヤングの式

γs = γl・cosθ + γsl

をデュプレの式に代入し、以下、ヤングデュプレの式を得ることで、実測が容易な、接触角(cosθ)と表面張力(γl)からWaが求まります。

Wa = γl (cosθ + 1)

このWaは、固体と液体の界面を引きはがすために必要なエネルギーです。
逆の言い方をすると、固体と液体がくっつくことで得られるエネルギー(付着によるエネルギーの低下量)です。
もし、固体と液体の表面エネルギーが対照的に寄与している、つまり液体と固体のエネルギー寄与が等しい場合、固体の表面自由エネルギーはWaの半分と推定できるため、

Wa=2γs​

と近似できます。
これを固体の表面張力 γs について解くと、

γs​=Wa/2

という関係から、固体の表面自由エネルギーγsが求まります。

3.まとめ

3-1.両方式の特徴

Zisman plot法:
・複数の液体で接触角測定が必要
・ポリマーなど低極性、非極性材料向け

デュプレ式を用いた方法:
・簡単
・経験的な近似による推定

3-2.両方式に共通した注意点

  • 不均一、粗い表面や多孔質の固体では、誤差が大きくなる

  • 極性の大きい材料では、分極相互作用の影響が大きくなるため、成り立ちにくくなることがある。

3-3.デュプレ式を用いる場合の限界

前述の通り、デュプレ式では簡単にγsを推定できるというメリットがある一方で、接触角が0°(cosθ = 1)になった場合、正しいWaが得られていない可能性がある点に注意が必要です。

ヤングデュプレ式によれば、接触角が0°の場合、

Wa = 2γl

となります。

基本的に、表面張力が低いほど接触角は低くなります。
cosθは1以上の値をとりませんので、接触角が0°になったある液体の表面張力よりも低い表面張力の液体を用いた場合でも、cosθ = 1になります。
結果、Waは見かけ上低い結果が算出されてしまい、ひいては、γsについても正しい結果が得られてない可能性が高いといえます。

4.おわりに

界面現象は「固‐液」「固‐固」など、2相間で起きる相互作用によるものであるといえます。

その相互作用を制御するためには、γl, γsを調整する必要があります。
一般に、γlは簡単に測定できることは周知ですが、γsについても大きな労力を要さず測定できるということを解説いたしました。

液体の表面張力測定に合わせて、固体の表面自由エネルギーの測定を取り入れていただくことで、材料設計、開発の強力な武器になります。


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