ホンモノ①
中学生の頃。
中学1年生のクラス1年2組は個人的クラスランキングtop3に入るほど仲が良く楽しい時間を過ごせたクラスだった。
自分たちが通った中学校は自分が通ったN小学校と近くにあったH小学校、2つの小学校の生徒が入学する。
1年2組にはN小学校で仲が良かった人たちが不思議なくらいたくさんいた。
一方、クラスの半分程はH小学校のメンバーだ。
このクラスが最高のクラスになった要因は、
仲が良いメンバーが揃ってしまったN小学校の完成されたノリや雰囲気などを尖った目で見ることなく、むしろそれを理解して自分達(N小学校)の輪に入ってくれたH小学校のメンバーの寛容さ。
これに尽きると思う。
そんなクラスに1人、M君という男子がいた。
M君は自分と同じN小学校出身。
ただ1年2組に集まった元N小学校の仲良し集団とは少し違う集団に属していた人物ではあった。
正直、自分も小学校で何回か同じクラスになったことはあったがあまり話した記憶がない。
そんなM君を仲間外れにしないように暖かく接していたつもりだったが、
1年生の夏休み明けからM君は学校に来なくなった。
夏休みが明けて2、3週間程経つとさすがにクラスの人も気づき始めた。
M君は9月1日を迎えることはできなかった。
通っていた中学校は2年生に進級するときにクラス替えがあった。
そのクラス替えが最初で最後で3年生もそのままそのクラスで進級する。
2、3年生も自分とM君は同じクラスになった。
2年生、M君は一回も学校に来なかった。
きっとあの夏休みを過ごしたまま、8月32日に行ってしまったのだろうと自分は思った。
3年生、たしか12月頃だった。
M君が学校に来た。
おそらく数ヶ月後には受験が始まり、さすがに進路の相談もしなければならない大事な時期だから来たのだろう。
教室がざわついた。
久しぶりにみたM君は少し小さくなった気がした。M君ではなくm君だった。
m君は長い夏休みを終え9月1日を迎えた。
自分の席に座ったm君は当然のように読書を始めた。
毎朝10分の朝読書の時間のことをちゃんと覚えていた。
そのまま当然のように授業を受けていた。
3時間目くらいにはまるでいままでずっといたかのようにクラスに馴染んでいた。
クラスの人も違和感なくいつもの日常を過ごしていた。
給食の時間。
みんなが机を動かして向かい合わせる。
m君がいるグループの様子が気になった。
そのグループの他のメンバーが少し気まずそうだった。
今日のおかずはそれで充分だったが
もうすぐクリスマスということもあり、その日の給食にはフライドチキンが出た。
ものすごい美味しいわけではないが給食で食べるフライドチキンは美味しかった。
お祭りの焼きそばシステム。
お祭りの焼きそばもお祭り会場で食べるから美味しい。
テイクアウトで家に持って帰り、部屋の中で食べた途端、情けなくなるあの感じ。
久しぶりに食べる給食がフライドチキンなんてm君もいいタイミングで登校したと思った。
「フライドチキン食べたい人〜じゃんけんするよ〜」
担任の先生が言う。
実は自分達のクラスは他のクラスよりおかわりできるチャンスが高い。
なぜなら毎回m君分の給食が残るからだ。
しかし今回はm君分の給食がないため、ひとつのフライドチキンを争うことになった。
おかわり常連組が覚悟を決めて席を立つ。
その時だった。
m君が立ち上がった。
「嘘だろ。」
全員が思った。
m君がじゃんけんに参加した。
7人程を相手に、惜しくもm君は負けてしまった。
悔しがっていた。
その瞬間自分は思った。
ホンモノだ。
自分にしか分からない感覚であると思うが、ホンモノだと思った。
どういう意味か説明することは難しいがホンモノだと思った。
別に非難してるわけでもなく称賛してるわけでもない、
ただm君はホンモノだった。
これが初めて自分がホンモノにあった時だと思う。
ホンモノは滅多に会うことができない。
ホンモノに会ったときは嬉しくなる
このホンモノの意味を理解してもらいたいので
今後もいままで出会ったホンモノを紹介していきたい。
ちなみにm君は次の日からまた学校に来なくなった。
卒業式も来なかった。
m君は4月1日を迎えることはできたのだろうか。
まだホンモノのままでいて欲しい。