理科室の角ちゃん
小学校の思い出はたくさんあるが1番好きなエピソードがある。
“理科室の角ちゃん”だ。
6年生。確か季節は夏頃、みんな半袖だった記憶がある。
理科の授業で、デンプンと唾液の働きの実験をした。
実験方法はデンプン液の入った試験管に唾液を入れそこにヨウ素液を垂らしてどうなるか的なものだった。
理科室での実験は1つのテーブルに対して5人ほどでグループごとに分かれて行う。
そのグループに自分と角ちゃんがいた。
角ちゃんは笑顔が素敵な女の子だ。
まずは各グループに配られた試験管に唾液を入れることから実験が始まるのだがここが1番の難所だった。
1人が1つの試験管に唾液を入れるわけではなく各グループで1つの唾液試験管を作らなければならない。
唾液は試験管の半分程必要だった。1人だけでは正直きつい。
5人で協力して唾液試験管を作ることになった。
まずは順番を決める。
自分は3人目。
角ちゃんは2人目だった。
実験が始まった。
1人目がストローを口に咥えて試験管にストローをさし唾液を出そうとする。
しかしここが問題だった。
己が唾液を出すとこなど誰にも見られたくないのである。
確かにそうだ。今の時代ならこの実験は炎上してるのではないか?とすら思う。
女子ならなおさら抵抗があるだろう。
そこで自分たちは名案を思いついた。
それは
”見ない”
ただそれだけ。
誰かが試験管に唾液を入れるとき他の人たちは手で目を隠し見ないようにする。
これで安心して唾液を入れることができる。
名案だ。
他のグループも同じようなことをやっていた記憶がある。
自分たちが先駆けでこの対処法を思いつきみんながそれをみて真似したのか。
それとも、各々のグループが自分たちと同じ思考回路を巡りこの対処法を実施したのか。
それはもう分からないが当時はとにかく必死だった。
ただ今振り返るとめちゃめちゃ面白いしめちゃめちゃ可愛い行動だ。
ようやく恥じることもなく1人目が試験管に唾液を入れる。
「ちょっとでいいよね」1人目の子が言う。
5人で試験管の半分程の唾液を入れればいいので1人当たり1cmほど入れれば充分だろう。
そんなことを考えているうちに1人目が終わる。
次は角ちゃんの番だ。
なんとも言えない時間が過ぎていく。
もちろんこのときもみんなは目を閉じて手でその目を覆っている。
こんなにもシュールな実験は他にないだろう。
角ちゃんが終わりの合図を出した。
次は自分の番だった。
目を覆っていた手を離し目を開ける。
みんなちゃんと目を隠していた。
なんか絶景だった。
角ちゃんは目を閉じ試験管を自分に渡してくる。
口にストローを咥え試験管を受け取る
手に取った試験管を見てみる。
自分は驚愕した。
すでに唾液が試験管の半分程入っていた。
もうめちゃめちゃ入っていた。
もう一回言う。
めちゃめちゃ入っていた。
めちゃめちゃ面白かった。
すぐに角ちゃんの仕業だと思った。
「角ちゃんめっちゃ入れた!!」
思わず言ってしまった。
みんなが今までの光景が嘘かのように手を解き目を開けこっちを見る。
みんなが試験管を見る。
大爆笑が起きた。
めちゃめちゃ面白かった。
フリとオチが完璧だった。
角ちゃんも笑っていた。
みんな笑った。
最高の時間だった。
これが小学校で1番好きなエピソード。
修学旅行、運動会、発表会、いろんな行事があったけどこれが1番好きな話。
実験の結果はもう覚えていないがきっと成功したと思う。
角ちゃんありがとう。