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ロズギル初日、世田谷パブリックシアターにて。

どうにか観に行けたらなあと思っていた舞台「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」、なんと初日に立見で駆けつけることができた。映画出演が続き、しばらく観る側の「同期」がまったく許されなかった菅田将暉の「現在」に多くの人が駆けつけ、ザワつけることを願うばかりです。そしてなんといっても生田斗真がローゼンクランツ役、演出は来年から新国立劇場の芸術監督もつとめる小川絵梨子さんである。いやこれ、すごく、若手の気配がしていいじゃないですか。必要以上に期待高まってしまう布陣(だから当然チケットも手に容易く手には入りにくいわけですが)!。

個人的には「劇場」へ「初日」に「立見」でわざわざ駆けつけられたこと自体が、じつはかなり嬉しかった。立ち見という、この身体的な臨場感自体も。

また、この‘ロズ・ギル’の作家であるトム・ストッパードは、チェコスロバキア系ユダヤ人。彼がチェコと関わりがあり英国へ渡った劇作家であったこと自体が、劇場でこれを観たいと思うとても大きい理由でもあった。

チェコ語で劇場 とか演劇 を指す単語「Divadlo」は、チェコ語の学習をしたことがある人なら本当に初期にこれでもかと覚えさせられる言葉だと知っているはずで。それくらい、チェコの人々にとって、劇場という場や演劇は、思想を守り、あるいは表現するための大切な場所。そんな土地の出身である彼が書きおろした、英国「ハムレット」のスピンオフであるからには(今やトム・ストッパード自身は英国の「ナイト」である) この高まりとともに、なんとしても最初を見届け、作品が育つ過程自体をともに楽しみたい。そんな願いの一端を、叶えてもらえたかのようだった。

「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」、戯曲の内容としては、ハムレットのご学友として登場する(が、ほとんど本筋とは関係を持つことのない、ホレイショーとの扱いの差にまた笑う)ローゼンクランツとギルデンスターンに焦点を当てて描かれたスピンオフであり、あの誰もが知るシェイクスピア御大の四大悲劇のひとつ、ハムレットの裏で繰り広げられていたであろうふたりの物語だ(書き下ろされたのは、当然のことながら20世紀である)。

世界中の人々に幾度となく味わい尽くされている、デンマーク王子の壮大な悲劇の裏にあるふたりの、哀れでおかしく、何より愛おしい、普通の人の日常が奪われ翻弄されながらの人生を、会話劇的に追っていく。

ごく個人的な鑑賞記録で言うと。十数年前に世田谷パブリックシアターで体験したジョナサン・ケント演出の野村萬斎ハムレットと同じ場で今回のロズギルを観れてなおさら笑いが込み上げてきた。あの壮大な悲劇の裏の、ロズとギル……笑。萬斎ハムレット……吉田鋼太郎さんのクローディアス、篠井さんのガートルード。あれは画期的で鋭くてカッコいいハムレットでした…… 何度でも言いたい、世田谷パブリックシアター20周年おめでとうございます!!

ハムレットとロズ・ギル。これってまさに、2017年的テーマである「平行世界」そのもの!!! とか、ひとりでハムレットとのコントラストを思いながら高まってしまった。

とにかく台詞の量も膨大な“ロズ・ギル”だが、つまりこれ自体が、ハムレットのへのオマージュであり、パロディ。なので、ふたりの会話のなかでややこしい言い回しを出されたりするほどに、すでに可笑しくって仕方ない。あの壮大な悲劇の裏の、表(「ハムレット」の世界)に接続しそうになるけれどやっぱりほとんど本筋と交じり合うことのないふたりの世界。日常からズレてしまっている日々を悔やむようなやり取り。「なんでこうなった?!」を問答する“端役”ふたりが主人公、である。

今年『帝一の國』や『おんな城主直虎』でキレ面白キャラを確立してきた菅田将暉は、初日、それらの現場で得たストックをこのロズギルの舞台上で出し切っているように見えた。ものすごくほとばしっている。ということでそれ自体はまったく悪くなく、むしろ記録された菅田将暉をずっと観てきたファンにとっては、あの“鬼気”みたいなものを舞台でぶちまけているのを体験できるだけで大変嬉しい機会だ。ただ、おそらく菅田くん、ここから1ヶ月弱続いていく長い公演の間にきっとものすごく変化するんだろうな……と思わされました。売れまくっている菅田将暉が、ある意味、さらに、大いに試されていることを感じる初日。

記録ではない菅田将暉を体験し、生でこうして反応できるというのはこの上なくおもしろい。(普段から音楽のライブに行くことの多い自分は、やはり同時性をもって呼応しあえる関係性が、もっともピンとくるのだな、と今回あらためて思った。)

余談だが、毎週オールナイトニッポンを生放送で届けてきた菅田将暉が、この舞台初日に初めて録音放送をしていた。

「これが放送されている頃の菅田将暉、ちょうど初日が終わった頃ですね。未来の俺、大丈夫ですか?初日なんでとりあえず幕開いた、ということで。ゆっくり休んでいただいて。なんつて、ははは。未来の自分にメッセージ、なんて初めてですよ」

と、話しているのを聞いて、確かに、と何か少し感慨深くなった。菅田将暉の作品・コンテンツにおける時間軸を、菅田将暉とともに超えられるというこの貴重なターム、おもしろいなあと感じる瞬間だった。

そんなわけで、おそらく公演期間中にもここからどんどん変化していくはずの菅田将暉、そして「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」。演者たちが日々手応えを感じていけるよう、もしもハムレットを未体験の場合には、まず本筋をたどった上で、このスピンオフというオツな立ち位置の洒落の効いた舞台に、とことん前のめりで臨むことを心から推奨したい。(ハムレット未体験のままでもし今回の若手人気者ふたりのロズギルを観れたとしても、なかなか笑える箇所が無く「え、喜劇って言ってなかった?」という戸惑いがあるのでは、と思い。是非、あらすじだけでもよいのでハムレットを。言うなれば、ハムレットとともに苦しみ悩み、ロズギルで笑いに行こう!という感じです。)

舞台・ライブは客があってのもの。ここから1ヶ月ほど、どのように現場が日々変化していくのか。楽しみでならない。

そして、菅田将暉がまたいずれ「ゾーン」とでも言うべき無双状態に入るのを、これから行く方はどうか見届けてください。彼の身体能力の高さに期待し続けています。

楽日までひたすら駆け抜けてってください。

それにしても生田斗真くん、めちゃくちゃかっこいい俳優さんになっているんだなと、あらためてびっくりしました。新感線なども観れていなかったので。バラエティ番組で披露していたほんの少しの日本舞踊が最高にかっこよかった。『彼らが本気で編むときは』は今年公開だったけれど、来年公開、瑛太との共演『友罪』も今から楽しみで仕方ないです。


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