解散、それから

時空はアニメマギレコですが、「やだやだ喧嘩してるももやち見たい!」という作者の趣味により、ももやち喧嘩状態だけゲーム版です
最後にプロットを載せてあります




 みふゆがいなくなった。

 メルが死んだって聞かされてから、そんなに経ってない頃に。

 行方不明ってだけだから、どこかで生きてるかもしれないってみんなが気休めを言う。でも、わたしにもわかっていた。魔女に全身を食べられたりしてしまったら、たとえその魔女を倒したとしても死体は残らない。みふゆは、きっと。

 つらかった。みふゆはわたしをよく甘やかしてくれたし、暴走しちゃって怒られてるわたしを庇ってくれた。それに東西の軋轢にみんなの気が立っていたときも、神浜全体の利益を考えて必死に行動してくれた。そんな心の支えの一本を失ってしまった。

 だからこそ、わたしは頑張らなくちゃいけなかった。みふゆがいなくなって、わたし以上に苦しんでる人がいるから。自分を慕って東からチームに入ってくれた後輩と、長年連れ添ってきた幼馴染を立て続けに失ったやちよのほうが、よっぽど苦しいはずだから。だからこそわたしは明るく振る舞って、みんなのことも明るくしないといけなかった。

「チームは解散よ」

 たとえ、そう宣言されたとしても。

 わたしとももこはみかづき荘に呼ばれた。その日の空は今にも泣き出しそうなくらいに曇っていた。最近はいつもそうだったような気がする。遊園地に行った日はどうだったっけ。確か晴れてたような気がする。

 メルがいなくなったときも随分広く感じられたけど、みふゆがいなくなった今のみかづき荘は、まるでがらんどうのドームのような心地だった。だからやちよの声もよく聞こえたし、それが聞き違いじゃないことも理解できた。

「は、はは。何言ってるんだよ。やちよさんってそんなに冗談下手だったっけ」

 ももこが笑みを浮かべた。引きつった笑顔は、ももこの言う「やちよの冗談」よりよっぽど下手だった。やちよは黙ってわたしたちを見つめている。ももこの笑みがゆっくりと引いていく。

「なあ……本気で言ってるのか? 最近魔女が強くなってきて、……メルと、みふゆさんもいなくなって……。これからもっとお互いに支え合わないといけないじゃんか。確かに他の子の魔女狩りの邪魔を始めたり、アタシには理解できないところもあるけどさ……それでもアタシはさ、まだやちよさんのこと尊敬してるからさ!」

「あなたが私をいくら尊敬していようと関係ない。チームは解散するって言ったのよ」

「なんで!」

 ももこが立ち上がった。やちよは動じず、ただ冷たく答えた。

「答える必要はないわ」

 ももこは呆然としていた。やがて、「なんだよ、それ……」って呟いて、崩れるように座り直した。

 やちよは次にわたしを見た。何か言いたいことはないかと問いかけてくる目だった。わたしは反射的に口を開いて……頭に言葉が何も浮かんでいないことに気付いた。頭の中が真っ白だった。

 チームの解散なんて絶対にやだ。それだけは確かだった。でもそれをどうやって伝えたらいいのかわからない。癇癪を起こした子供みたいにしたところで、きっと迷惑に思われるだけ。……ううん、きっとやちよもどうしたらいいかわからないんだ。あんまりにも大きな悲しみに、自暴自棄になってるだけなんだ。本心からの言葉じゃない。きっとそう。だったらわたしのやることは決まってる。今までと同じ。

「ううん、しない! わたしはこれからもやちよと同じチームで活動する!」

 わたしはただ、相手のことを何も考えてない子供みたいに自分の意見を主張する。だけど癇癪を起こしてやちよに当たったりはしない。目一杯考えた上で子供を演じる。こうしていれば、そのうちやちよの悲しみも治まってきて、解散なんて言いすぎたって取り消してくれるはずだから。

「アタシだってしない! 絶対にしない!」

 ももこが同調した。……やちよの瞳の温度は、全然変わらなかった。

「わからないなら何度だって言ってあげる。今日で、チームは解散するのよ」

 ……外からホワイトノイズみたいな音が聞こえ始めた。いつの間にか雨が降り始めていた。

 …………。

 やちよは取り付く島もなかった。今日はきっと何を話しても無駄だと思って、わたしたちは雨の中帰ることにした。ももこは俯いて何も話そうとしない。空気が重い。わたしは元気を振り絞って明るく振る舞う。

「ししょーはさ、ちょっとだけ自暴自棄になってるんだよ! 衝動的にあんなこと言っちゃったけど、本心からの言葉じゃない! わたしたちでさ、やちよのこと支えよ!」

「……強いな。鶴乃は」

 ももこは力なく笑った。わたしは「だって最強だもん!」って返した。随分空々しく響いた気がした。

「アタシさ。やちよさんに嫌われたんじゃないかな」

 雨音に紛れそうなくらい小さな声でももこが呟いた。やちよに嫌われた? なんで?

「アタシはさ……メルもみふゆさんも守れなかった。メルに至ってはアタシだってその場にいたのに。バッドタイミングだとかそんな問題ですらない。もっと強かったら、アタシは……」

「そんなこと言ったら、わたしなんてメルの最期に立ち会うことすらできなかった。わたしが用事があるなんて言わなかったら……」

「鶴乃のせいじゃあないよ。あれは……。……やめよう、この話は」

 ももこはまた力なく笑った。何かを隠された、そんな気がした。でも隠すってことはわたしに知られたくないことのはずで。今のももこは、その辺りに踏み込んだら折れちゃいそうな気がして。

「……うん」

 だから、わたしはただ頷いた。

 頑張らなくちゃ。チームは解散だなんて認められるはずない。やちよにまた明るい顔をしてもらうんだ。昔みたいに優しくなってもらうんだ。そのためには暗い顔なんてしてられない。わたしは最強の魔法少女で。やちよはわたしのししょーで、リーダーで、大好きな人だから。だからわたしが頑張って、元に戻ってもらうんだ。

 傘を差すわたしたちの横を、学校帰りらしき子どもたちが走り抜ける。子どもたちは傘を畳んだまま手に持って、おかしそうに笑っていた。あの子たちも笑顔の裏に何かを抱えていたりするのかな。それとも何も抱えず純粋に笑えてるのかな。……いいなあ。


◆◆◆◆◆


「よ、よーやちよさん! 奇遇だなー!」

「わたしたちもちょうどこの辺りパトロールしてたんだー!」

 夕方、新西区。わたしたちの存在を認めたやちよは眉をひそめた。

「何の用」

「用事ってわけじゃなくてさ。アタシら二人でパトロールしてたら偶然だよ。な、鶴乃!」

「うん! 偶然!」

「……ああそう」

 やちよはわたしたちの間を通り抜けて、さっさと後方に歩いて行ってしまった。わたしたちはすぐさまUターンして、やちよの両サイドのポジションを確保する。

「ちょうどいいしさ、三人でパトロールだな! 同じチームなんだから!」

「解散したわ」

「わたしはしてない!」

「アタシも!」

 やちよは辟易したような目をわたしたちに向けて、歩くスピードを上げた。わたしたちもやちよに合わせて加速する。

 わたしたちが考えた作戦は、偶然を装って一緒にパトロールを繰り返すことだった。こうしていれば、そのうちやちよも折れて解散宣言を撤回するかもしれない。やちよからしたらあんまり良い気分じゃないかもだけど。落ち着くまで待つっていう手もあったけど、わたしたちがその間耐え続けられる気がしなかった。

「そういえば今日レナとかえでがまた喧嘩してさ。かえでが最近生意気とかで。確かにレナへの当たりは強くなっててさ、でもあれも信頼の表れではあって……」

「わたしね、万々歳の新メニュー開発したんだ! その名も富士山炒飯! ただの山盛り炒飯とは違ってね、上に雪みたいに白い粉をかけるんだ! 粉に何を使うかっていのはまだ決まってないんだけど……」

 両サイドからの話にまったく耳を貸さず、やちよは早足に歩き続ける。わたしたちはめげずにひたすら喋りかけ続けた。その日は魔女は見つからず、みかづき荘に帰るまで、やちよはとうとう一言も喋らなかった。


◆◆◆◆◆


「よー! 今日も奇遇だな!」

「最近わたしたち奇遇が多いね! 同じチームだからかな!」

 やちよはわたしたちに返事をせず、すぐさま踵を返してしまった。すかさずわたしたちはやちよの両サイドをキープする。

 あれから大体5、6回目のトライだった。今の所、効果はまったく見られない。やちよの態度は相変わらず頑ななまま、その上全然口を利いてくれなくなった。そろそろ別の作戦を考えたほうが良い気もしたけれど、待ち続けるって作戦だけはやっぱり無理そうだった。行動していても心がすり減っていくばっかりなのに。

 魔女と戦うこともあったけど、全部やちよが一人で倒してしまった。やちよの動きはわたしたちとの連携なんて全然考えてないもので、フレンドリーファイアするわけにもいかないから、わたしたちは戦うやちよをただ眺めるしかできていなかった。

 ももこも考え込むことが増えた。やちよが他の魔法少女の魔女狩りに手を出し始めてからな気がする。他の魔法少女を助けること自体は普通のこと。だけど、一緒に戦おうとした魔法少女に対して足手まといとか、そんなひどいことを言うなんて。昔のやちよだったら絶対言わなかった。ももこはそのうちやちよのことを嫌いになっちゃうんじゃないか。そう考えると怖くて仕方なかった。

 ……その時だった。やちよは突然立ち止まった。わたしたちは振り返って、ハッと気付いて意識を集中する。すると、やっぱりあった。近くに魔女反応。魔法少女の反応もある、波長の乱れ具合からすると戦ってる最中なのかもしれない。やちよは魔法少女の速さでそちらに向かっていった。わたしたちも遅れてそちらに走る。

「やちよさんってさ、本当に変わっちゃったと思うか」

 走りながらももこが尋ねてくる。わたしは答えられなかった。ももこは「なんでもない」って言ってビルを蹴り上がった。わたしもその後ろに続く。

 魔女はビルの屋上にいた。現実世界に結界を被せるタイプらしく、空がピンク色の蛇のようにうねっていた。魔女は横に強引に連結されたバイクじみた異形、魔女が走る先に魔法少女の姿。轢こうとしてるんだ。魔法少女の子はナイフを構えてるけど、怯えたみたいに腰が引けてるし、足からも血を流してる。あれじゃ躱せない。わたしとももこの距離じゃ間に合わない。だけど。

 青い風が魔法少女と魔女の間に割り込んだ。同時に、無数の槍が魔女を襲った。槍は魔女の速度を殺しつつ、的確に連結部を貫いた。二つになった魔女はスリップしたバイクのように床を回転する。起き上がる前にトドメを刺さないと。そう思って向かおうとしたけど、その必要もなかった。一際大きな二本の槍が降ってきて、魔女をそれぞれ貫き、粉砕した。全部は一瞬だった。やっぱり、やちよししょーって強いな。そんな呑気なことを微かに思った。

 空の色が深い紺色になる。魔女が死んで結界が消えたんだ。へたりこんで変身を解いた魔法少女の子にももこが駆け寄る。

「大丈夫? 怪我は? 立てそう?」

「……あの、はい……ごめんなさ……」

 相変わらず怯えたように頭を下げる魔法少女の元に、やちよがカツカツと近付いた。やちよはまだ変身を解いてなくて、槍も手にしたままだった。魔法少女の子はやちよを見上げた。やちよは目の前で立ち止まって、槍の反対側……石突で床を強く叩いた。

「あなた、どこの魔法少女?」

「……え……あ……あ、の……渾崎、地区……から……」

「そう。あなたは領域侵犯をして、無様に魔女にやられていたってわけね」

「……ご、ごめ……なさ……」

 魔法少女の子は泣く寸前だった。やちよの視線も声も、まるで氷柱じみて冷たく鋭い。ももこが庇うように立ち上がる。

「そんな言い方ないだろ! 間違って入ってきちゃっただけかもしれないんだから!」

「理由はどうあれ侵犯には変わりないわ。挙句に死にかけていたんじゃ世話ないわね」

「……おい、いい加減にしろよ」

 ももこがやちよの腕を掴んだ。やちよは不快げに目を細めた。いけない、このままじゃ取り返しがつかなくなる。

「落ち着いてよ! ももこも、やちよも!」

「いきなり解散だなんて言って! 理由は何も言わず! 他の魔法少女にまで口出し始めて! アタシらにはいくら八つ当たりしたっていいけど、関係ない子まで巻き込むなよ!」

 ももことやちよを引き剥がしたけど、当然それだけじゃももこの怒りは収まらなかった。多分、怒りだけじゃない。

「……本当に変わっちゃったのかよ……やちよさん……!」

 きっと不安なんだ。大好きだったやちよがいなくなって、姿かたちが同じだけのまったく違うやちよになっちゃったんじゃないかって。ももこはそれを否定したいんだ。

「そうね。私は変わったの。あなたの知ってる甘い七海やちよはもういないわ。これで満足?」

 ももこは拳を握りしめた。殴りかかるんじゃないかって気がして、わたしはやちよとももこの間に立ちはだかった。

「……ああ、そうかよ! アタシはもう完全にやちよさんのことが嫌いになった! 勝手にしろ!」

 ももこはやちよに背を向けた。……そんな、待ってよ。

「待って! チームはどうするの!」

「アタシはチームを抜ける! 再結成したって、やちよさんがいるなら絶対戻らない! ……失望したよ、コイツには……!」

 わたしが掴んだ手は乱暴に振り払われた。ももこは怪我をした魔法少女の子が立ち上がるのを助けて、そのまま一緒に屋上から降りていった。ももこがいなくなった方向を、わたしはただ呆然と眺めていた。

 ももこはチームに戻らないって言った。これじゃ再結成したって、チームはやちよとわたしの二人だけ。わたしと二人で、やちよはまた昔みたいに笑ってくれるの? 優しくしてくれるの? ……ダメだ、考えちゃいけない。わたしは由比鶴乃なんだから。いつもニコニコ笑っていないと。それが由比鶴乃に求められてることなんだから。

「……ももこはああ言ってたけどさ! ちょっと取り乱してるだけだって! 頭が冷えたらきっと反省するから!」

 わたしは明るく振り向いた。やちよはただ黙ってわたしを見つめる。……落ち着かなかった。責められてるような感じがした。ううん、感じじゃなくて、責められてるんだ。

「あなたは、何がしたいの?」

 久しぶりにやちよから話しかけてもらえたのに、全然嬉しくなかった。頭の中は、ただただ『失敗しないようにしないと』、その考えでいっぱいだった。

「何、って……また一緒にチームで活動したくて……!」

「なんのために?」

「……このままだと、やちよが潰れちゃいそうで……。だから……」

「答えになってないわ。あなたは、どうして、誰のために、またチームで活動したいの? そのために私に構うの?」

「……わたし、の、ために。やちよと一緒に、いるの、楽しかったから……。それを、終わりに……したくなくて……」

「ええ、そうでしょうね。鶴乃、はっきり言ってあげる」

 やめて。

 言わないで。

 それ以上、もう。

「迷惑よ。あなたの自己満足を満たすだけの行動に、これ以上私を巻き込まないで。……もう、私に構わないで」

 やちよの顔を見られなかった。

 嫌悪の目がわたしに向いてるのを見てしまったら。

 本当に立ち直れなくなってしまう気がして。

 ダメだ。泣いちゃいけない。わたしは由比鶴乃なんだから。いつでも明るく、ニコニコしてないと。

「……そっか! ごめんね、迷惑だったよね! 言われてみたらその通りだよね。わたし、やちよの気持ち考えてなかったかも! そうだよね、チーム解散したんだもんね! わたしがひっついてたら邪魔だよね! これからはあんまり関わらないようにするからさ。本当にごめんね!」

 わたしはやちよに背を向けた。やちよからの返事はなかった。わたしは駆け出して、隣のビルに跳んだ。そのビルを跳んで、また隣のビルへ。振り返らない。苦しくなるだけだから。


◆◆◆◆◆


 お父さんは用事があるとかで、今日は家にいなかった。お婆ちゃんとお母さんも当然いない。家にはわたし一人。鍵を閉めた途端、全身の力が抜けて玄関廊下に倒れ込む。ソウルジェムは……まだ濁りきってないけど、ちょっと危ないかも。濁りきったらどうなるんだろう。グリーフシードを当てると、ソウルジェムは澄んだ宝石のような輝きを取り戻した。わたしの心もこれくらい簡単に綺麗にできたらいいのに。

 やちよにとって、わたしは迷惑だった。行動は全部裏目だった。ただ、やちよに戻ってほしかっただけなのに。やちよは、もう本当に、わたしとはいたくないんだ。

「……やだ、よお……」

 ぽろぽろと涙が溢れてきた。一度溢れ出すと、それは止まらなかった。

「一緒に、いてよお……! もうわがまま言わないから……やちよが望むことなら全部叶えるからあ……! メルの代わりだって、みふゆの代わりだって頑張るからあ……! 離れたくないのに……! やちよ……やちよぉ……!」

 この寂しさも、悲しみも、誰とも共有できない。やちよとみふゆになら、わたしの弱さもちょっとは曝け出せた。でも、みふゆはもういない。やちよはわたしのことが嫌い。だから、わたしは一人で耐えるしかない。大丈夫。わたしは最強の魔法少女なんだから。このくらい耐えられる。やちよに嫌われたって、もう話せなくたって。わたしは最強なんだから。

「やだよお……! きらいにならないでよぉ……!」

 口を衝いて出る言葉は、わたしの強がりなんて気にも留めなかった。


◆◆◆◆◆


 一年近くが経った。

 あれ以来やちよとは一言も会話していない。姿を見かけるのは時々目にする雑誌の中だけ。学校は新西区だけど、みかづき荘の周りを歩くこともない。もし不意に会っちゃったとしても、つらくなるだけだと思うから。

 ももこは元々面倒を見ていたレナたちとチームを組んでリーダーになった。立派にリーダーをやれているみたいだけど、やちよの話題が出ると途端に機嫌が悪くなるってかえでが言っていた。

 そして、今日の万々歳には珍しいお客さんが来ていた。宝崎市から来ていて、消えた妹さんを探したり、神浜市の噂について調べたりしているらしい。

 名前を、環いろはちゃん。

 噂に詳しそうな人なら知っていた。昔、やちよはみふゆとそういう都市伝説とかを調べて、そこに魔女の影がないか確かめたりしていたから。今も続けてるかはわからないし、わたしから連絡して反応してくれるかもわからないけど。……無視されたらかなり傷付くかも。

 でも、きっかけが欲しかった。一年経っても、わたしはずっとやちよのことを忘れられなかった。ももこのチームに誘われたことだってあったけど、まだわたしはチームみかづき荘のメンバーだからって断った。わたしの心はやちよのところに置いてきちゃったままなんだ。

 ねえ、やちよ。また会いたいよ。

 わたしは通話ボタンを押した。

 やちよは、出てくれた。昔と変わらない声で。久しぶりに聞けたやちよの声。だけど、気まずい。怖い。喋り方がわからない。どういう風に喋ればいいんだろう。

 噂について調べてる子がいるって伝える。拒否されないかな。怖い。会いたくないって言われないかな。怖い。くだらないことで電話するなって言われるかな。怖い。

『……いいわ』

 だけど。

 やちよのその返事に。

 止まっていた時間が、また動き出した気がした。




プロット
解散って言われたけど認められず頑張る鶴乃
でも意志が固いやちよ
ある日とうとう名指しで邪魔だと言われて心がぽっきり行っちゃう
その瞬間は耐えるけど家帰ってから大泣きする
それ以来ずっとやちよと連絡を取ってない鶴乃。迷惑になるから。でもずっと会いたくて仕方がない。また一緒のチームになりたくて仕方がない
そんなとき、いろはが万々歳に来店した。やちよにダメ元で連絡したら会ってくれるって。止まった時間が動き出した気がした

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