マイナス金利下の地域金融機関の運命について。福島銀行の場合。

2016年2月に日本銀行が導入したマイナス金利政策から2年を経過。もはや、預金利息と貸出金利息の利ザヤで利益を出すというビジネスモデルの地域金融機関の経営は行き詰まりつつあるように思われます。

先日は、事業会社の営業利益に当たるコア業務純益が赤字になってしまっている島根銀行の財務諸表を読んで記事を書きました。

島根銀行、まだ含み益のある有価証券(株式・国債等)を保有しており、本業の預貸業務では利益は出せなくなってはいるものの、有価証券を売却して益出しをすることで、なんとか期間損益を黒字に保っております。

今回は、同じく小さな第二地方銀行である福島銀行の状況について少しお話してみようと思います。

福島銀行、2018年12月期の最終損益が4百万円!かろうじての黒字です。福島銀行の黒字は、有価証券の売却による益出しで行われたものではありません。

福島銀行の保有する有価証券は外債投資を中心に評価が下落しており、全体では20億円の含み損です。もはや、利益を確保するために益出しを行うことはできません。

では、どのようにして福島銀行は4百万円とはいえ、利益を確保できたのか。島根銀行との比較も交えつつ、お話してみようと思います。

1.コア業務純益の内訳について。

2018年12月期(9か月累計)の福島銀行のコア業務純益は445百万円。前年投同期の974百万円からは半減しているものの、島根銀行とは異なり黒字を確保しております。

短信はこちらにリンクしますが、必要に応じて該当箇所を拡大してお示しします。

https://www.fukushimabank.co.jp/ir/zaimu/tanshin/img/31_2_1.pdf

どうやら、本業である預金・貸出金業務、有価証券利息配当金、手数料の収支等では基礎的な収益力を維持しているようにも見えます。

内訳を見ていきましょう。

画像1

貸出金利息+有価証券利息の収益から、預金利息を差し引いた資金利益は10億円、率にして15%以上減少しており、マイナス金利政策が直撃していることが見て取れます。

注目すべきは役務取引等利益の急増です。442百万円から898百万円。4億円増加で倍増!こちらの内容については「2」で述べます。

次に、人件費、物件費、税金(租税公課)からなる経費をみてみます。

人件費は29億から27億へ2億円削減。

福島銀行、以前から賞与(ボーナス)をほとんど支給しておりませんでした。貸借対照表の賞与引当金を参照すると155百万円から42百万円まで縮小しており、さらに削減したものと思われます。1億円の賞与引当金縮減でこれは半年分。2回の賞与で2億円の削減ですから、計算が合いますね。42百万円で全従業員分ですから、ボーナスはほぼゼロ水準まで下がったものと推測されます。

また、物件費も約1億円削減しています。

マイナス金利政策の影響で激減した資金利益の減少を役務利益の倍増で補い、さらに賞与の削減も行い、4億円半ばのコア業務純益を確保しております。

この4億円のコア業務純益の額、ほぼ役務利益の増加分です。

では、「2」ではこの役務利益の内訳を見ていきます。

2.手数料収入の急増の要因は?

第3四半期決算短信の簡便な損益計算書では、手数料収入の内訳は開示されていません。短信冒頭の定性文でも役務収益増加の事実が述べられているのみで要因は触れられておりません。

そこで、短信よりやや遅れて開示され、より詳細な内訳開示をしている四半期報告書を参照します。

https://www.fukushimabank.co.jp/ir/zaimu/yuka/img/3012shihankihoukokusyo.pdf 

四半期報告書の前半部分に、「役務取引等の状況」という取引内訳別の手数料の収支が開示されております。

画像2

「これは主に、保険の窓口販売手数料が増加したことによるものです」

ありました。保険窓販業務による手数料収入、前年同期49百万円から343百万円と大きく増加しております。

4億円の役務利益の増加は、これが大きな部分を構成していることがわかります。

このほかに、役務費用も約70百万円削減されています。これほどの手数料削減は通常では考えにくいので、何か役務受領契約の解除があったのかもしれません。

こちらについては、福島銀行のホームページを調べる限り手がかりとなる情報は見つけられませんでしたので、ここまでにしたいと思います。

では、「3」では保険窓販手数料の詳細へすすみます。

3.地域からの手数料獲得の持続可能性について。

銀行は、保険会社の商品を顧客へ販売することで、獲得と契約維持に応じた手数料を受け取ることができます。

このうち、契約維持に対する手数料率は低率かつ定額です。銀行が保険会社から手数料をもらえるのは、新規契約を顧客から獲得したときです。

商品別の手数料開示は福島銀行HPからは見つけられませんでしたが、一般に、外貨建てであったり、デリバティブ契約を組み込んだりしている複雑な保険商品であれば、複雑性が増すごとに手数料率が高くなっていきます。

福島銀行で販売されている保険商品はこちらです。

このうち、マニュライフ生命保険が提供する外貨建て変額年金保険をみてみます。

金融庁の方針で、銀行窓販の特定の保険商品については、顧客に対して、代理店(=銀行)へ保険会社が支払する手数料を開示されているはずですが、書面から見つけられませんでした。

https://www.manulife.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=00P1000000pP3HMEA0 

一般に、このような外貨建て保険の場合、契約時に契約額の4~7%程度の手数料が支払われます。

100万円の契約で、銀行の受け取る手数料は4~7万円程度。

さて、かなり高率な手数料率ではありますが、前年の約7倍近い手数料の343百万円の増加、通常の営業活動で達成できるものではありません。

ましてや、福島銀行の従業員の賞与はギリギリまで削減されており、高い意欲で販売に取り組めるのか、はなはだ疑問です。

いったい、どのような手法でこの多額の手数料を獲得したのでしょうか・・

このあたりは筆者の推測であり、公開財務諸表からは読み取れるものではないのですが、皆さんはどうお考えになるでしょうか。

4.マイナス金利政策下の地域金融機関の運命について。

福島銀行、一昨年に赤字決算となり、社長が引責辞任、金融庁から業務改善命令が発出されています。

前社長の引責辞任を受けて新しく社長となった加藤氏は同じ福島県の地方銀行である東邦銀行の出身。東邦銀行の証券子会社の経営にも携わっていた経歴から、業界誌(金融財政事情)のインタビューでは、金融商品の販売で手数料獲得で経営再建を目指すとのコメントを出していました。

しかし、現在は金融監督の方針もあって、どこの銀行も「顧客本位の経営」という大前提があり、高齢者に理解が難しいような複雑な金融商品を無理に売りつけるような販売手法は採れないはず・・それも考えると加藤社長の方針の結果であろう、多額の手数料獲得には疑問が生じます。

小さな地方銀行である福島銀行の行員が、外貨建ての変額年金保険のような為替リスクや組み入れ有価証券の価格変動リスクなど、複雑なリスクを持つ商品を適切に説明して顧客に購入してもらうという難しい業務をきちんとこなせているとは思えません。

私個人の意見ですが、持続可能性が乏しい業務なのではないだろうか、と。

地域からは離れられない地方銀行が、地域の顧客に適合性に疑問がある外貨建ての複雑な保険商品を売り、あえて価値判断を含んだ言い方をすれば、略奪的な手数料を獲得することで自分だけは生き残りを図る。

何か、おかしくないでしょうか。

なぜ、地域金融機関がこのような運命に落ち込んでいるのか。

理由は、言わずとも明確ですが。本記事の主題を越えますので今日はここまでにしたいと思います。


本記事は、福島銀行が開示している決算短信、四半期報告書、一般の新聞・雑誌報道などすべて公開されている情報をもとに、筆者が執筆したものであり、いっさいの内部情報を含みません。意見にわたる部分は公開情報からの推測を含みますが、これは筆者の個人的な見解であり、正確性は保証できません。

また、特定の有価証券の売買、保有継続について推薦したりするものではありません。上場有価証券への投資はご自身の判断でお願いいたします。


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